[無知] 知らないモノを売らなければならない楽器屋さん
音楽大学の卒業生というのはみんなミュージシャン(演奏家)になるわけではありません。
一般企業へ就職したり、音楽系の企業に就職したり。けっこういろんなところに就職して社会に貢献しています。
そんななか、まぁまぁ多く見受けられるのが「楽器屋さんへの就職」ですね。
楽器屋さんというのはお店によっていろいろありますが、今回はわたしがが専門にしているサックスを例にとってみましょう。
サックスというのはクラシックや吹奏楽で使われることもありますが、いっぽうでジャズやポップスにも使われることがありますね。
この両者、同じという部分もあるにはあるのですが、相いれないほどに違うというところもたくさんあるのです。
そして、よほどの専門店でない限り楽器屋さんはこの両者の顧客を相手にします。
ところが、そこへ就職する学生さんは音楽大学でクラシックしか学んでこなかった方が大半を占めます。
もちろん入社してからいろいろな研修があるにはあるのですが机上の勉強で得られるものなどほんのわずかしかありません。
売り物がそこにある以上お客さんは否応なく来るので、相手をする必要があります。
これが例えば、「ジャズ向き」とされるものが本当にジャズにしか使えない。、あるいはその逆で「クラシック向き」とされているものが本当にクラシックにしか使えない、というほど明確な差があれば話は早いのですが、世の中そう甘くはありません。
クラシック向きとされるマウスピースやリードを好んで使うジャズ奏者もいますし、奏者自身も「オレは20年代のジャズしかやらないんだ!」なんてほどホネのある奏者もなかなかいません。
頼まれればなんだってやるのが生きていくのには必要です。
端的に言えば自分の信じた道"だけ”に邁進することができるのがアマチュア奏者のいいところで、プロになればビバップもボサノバも依頼があればやらざるを得ません
ゆえに「真の芸術家」というものはプロ活動の中ではそうそう実現できるものではないのです。
その是非はともかく現実にはそういうことなので平均的な楽器屋さんにはいろんな人が来ることになり新人だろうが何だろうがそのお店にいる人はみな等しく平等に質問にさらされます。
いつぞや、ここnoteで記事を書いたことがありますが、
[困惑] 「ジャズっぽい」という難しさ
ジャズジャズと簡単に言いますけどすでに120年の歴史があり、その始まりと現代のジャズでは似ても似つかないほどの違いがあるものです。
ジャズ科卒でない限り、普通の音楽大学卒ではそのあたりの知識が身につくはずもありません。専門家でも怪しいものなのですから。
いや、いっかい真剣に聴いてみればわかると思うのですがそもそも興味がないのでキイテマセン。
そんな状況下、これら新人店員(ベテランでもそうかも知れない)の持つジャズのイメージとはその多くが1930年代までの「スイング期」。
対して、青春時代にジャズブームを謳歌し、企業に属して数10年勤務し定年を迎え退職金というまとまったカネと自分の時間というものを持つことができるようになって念願であったサックスを買いに来た男性(65歳)のもつジャズのイメージは紛れもなく1955年~1965年のコルトレーンかロリンズか、はたまたハンク・モブレイかデクスター・ゴードンか。
"派手な音色のマウスピースはジャズの人が使うもの"と教えられそのとおり勧めてみるも、どうも様子が怪しい。
"ジャズのテナーならオットリンク"と聞いたので勧めてみるもコルトレーンの使ったリンクと現在のリンクはぜんぜん別のもの。
キャノンボールから新作のジャズ向きテナーが発売されるも、吹かせてみればギラギラしてイメージと違う。
もうなんだかわからないからとりあえず一番いいのをくれ、となると出てくるのは退職金を手にしたオジサンとマダムしか持っていないと噂の柳沢のシルバーソニック。
そのカネがあれば専門店でそこそこ程度のいいシックスとアーリバビットとは言わないまでもちょっといい程度のスラントでも買えたものを無知同士でやり取りするものだから収拾がつかない。
結果、無駄にカネとモノが不必要にやり取りされ、営業成績はいっとき上がるが顧客の満足は得られないというさんさんたる結果になるのです。
売る前に店員さんが自分で吹いてみればいいじゃないかという話もあるのですが学生時代はオーボエ吹いてましたのでワカリマセン。
よしんばサックス吹けたところでクレストンのソナタではわかるものにも限度があろうというもの。
挙句の果てに教室もありますよ安心してくださいと言われて入会してみればこれまた音大卒の新人講師がジャズと聞いて自慢げに宝島吹いて見せてあきれるばかり。
オジサンたちの苦難は続く。。。