お姫様

子供のころ、私はお姫様になりたかった。

将来の夢は?と聞かれてお姫様と元気に答えていたのだ。記憶にある限りでは小学校低学年までは言っていた。

もはや筋金入りで母も椿はお姫様になるんだもんねとよくレースとフリルのたくさん付いた服を用立ててくれた。
用立てるの中に作るが入ってくるのは母の洋裁の技術が遺憾無く発揮されたからだ。
もちろん購入したもの、お下がりも少なくなかった。

私には従姉妹が七人いて、下から二番目だ。必然的によそ行きだったふりふりの服が生き残って私のところまで下がって来る。
レースやフリルにはことかかなかった。

夢見る少女でありながらリアリストだった幼い日の私は本物の姫になるには王族と結婚しなければならないと考えた。

実家は武家の本家だが、平成の世では普通の家庭。姫ではないことをちゃんとわかっていた。
世が世ならお嬢様だったと祖母に言われたが、お嬢様ではダメなのだ。

当時、皇室に親王はいなかった。私は外国に目を向けた。
同世代の王子がどの国にいるのか。
まだインターネットも普及しておらず、十にもならない子供の情報収集方法などテレビしかない。

それでも似た年頃の王子を見つけ、空想に浸った。
だが、ある時知ってしまった。国にもよるが王子と結婚しても姫にはなれないということを。
当然のことだが、王家に生まれる。ないし、それに準ずる貴族の娘に生まれなければ姫にはなれないのだ。
小学生の私は強い衝撃を受けた。

王家に生まれさえすれば何歳になってもお姫様なのに、私は絶対にお姫様になれないのだ。

それに気付いてから私はお姫様になりたいと言うのをやめた。

大人の階段を登ったといえばそうなのかもしれない。以降はもう少し現実的な夢を見た。

フリルやレース、リボンは今も好きだ。夢が破れたからそういう服装をしなくなるわけでもない。

最終的に私をずっと愛してくれる人がいれば私は姫になれるのだと開き直ったのは二十歳を過ぎた頃で、長く夢を見ていたものだ。

私を姫にしてくれるのは何を隠そう夫である。
どんな時も愛しいかわいいと眼差しをくれる。王子様でも騎士でもないけど、彼こそが私の王子様なのだ。

三十過ぎた子持ち主婦ののろけでした。

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