ふるさと
我が地元は某キャンプ漫画の舞台になったことで一躍脚光を浴びた。
だが、実質は寺がたくさんあるだけの小さな寂れた町だ。
アニメでは少々都会に描かれていたが、実際は野生動物の跋扈するド田舎である。
電車が停まる理由が鹿や猪と衝突したからというほどだ。
ウサギやタヌキ、リスもいればキツネもいる。
当然、熊もいた。
熊が出れば送り迎えしてくれたかといえば否である。
父は厳しかった。姉と私のランドセルにカウベルをくくりつけ、熊避けだという。
結局、熊と遭遇することはなかったが、山への恐怖は増した。
私はとにかく臆病な人間である。
山には色々な動物がいて、多種多様な音がする。
怖くてたまらず、怯えながら山道を下り、遠回りでも自動車道で帰ってきた。
行きに使っていた山道は数年前に廃道になった。
私が使っていた頃から年々崩れて細くなっていたから当然だろう。
猪によく荒らされていた。
山で一番遭遇率が高く、怖かったのは猿だ。
連中は群れで移動する。
子猿がいれば守るために威嚇して来る。
必死に追い払っても猿は山を登って逃げるから、山を登っていく私は何度も遭遇する。恐怖である。
あちらも会いたくないと思っていたろうけど。
やっと帰り着くと今度は母が猿を追い落としに行く。
母はなかなか執念深く山の中を追い回したから、母が出て行くだけで猿が逃げるようになった。
賢いものだ。
人間の居場所と動物の居場所。
それぞれが重なっていたからそうしてぶつかり合ったのだろう。
今は静かに自然に飲まれていく。
そんな地元に高速道路が通った。
地元は変わるのだろうか。
それともこのまま自然に飲まれるのだろうか。
それはまだわからない。
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