【小説】ダンジョン脱出〜迷宮の罠師〜 6日目 ダメ出し
あらすじ
エピソード一覧
6日目 ダメ出し
今日のダンジョンは寒かった。
自分の歯がガチガチなる音で目が覚めたほどだ。
いい加減食べ飽きてきた干し肉と干しブドウを口に放り込むと、僕は自室をあとにした。
「おはよう、ロク。調子はどう?」
作業部屋につくと、サキュバスのミミがダンジョンの全体予想図を眺めていた。
「おはようございます。体調は随分よくなりました」
「…体調を聞いているんじゃないわよ。仕事よ、仕事。クエストの状況はどうなのよ」
「それが…」
まったく良くない。
予定よりも、遅れも遅れている。
昨日、ダンジョンに施された解読済みの術式を、大魔族のハイソに転送魔法で送った。
その返送が、今朝届いたのだ。
「ハイソから、術式の書き方の手直しの指示が山のように届いて、それがやってもやっても終わらないんです」
「ま、ハイソはそういうやつよ」
「ほんと、こんなに細かく手直しの指示をするなら、いっそのこと自分でやればいいのに」
「確かに、ロクに頼むよりも何倍も早いわね」
「ぐっ…」
ミミに言われると、何かとてもつらい。
「でも、そうもいかないから、あんたらにクエストを出したんでしょ」
「クエスト…依頼、といっても、結局、奴隷の契約みたいなものですがね」
すると、作業部屋のドアが開いて、スケルトンのコウベさんがやってきた。
コウベさんは、スケルトンになる前は凄腕の罠師だったそうだ。
僕とは違いさぞ、作業も進んでいるだろう。
「カカカ…これは、どうもロク殿、ミミさん」
コウベさんの骨と骨がこすれ合う、いつもの笑い声に元気がない。
「どうしたんですか?コウベさん」
「イヤ、ハイソ様からの手直しの指示がすべての術式にアリまして…これじゃ、術式の解読どころじゃないですよ」
「えぇっ!」
なんてこった。
これじゃ、【シャイニングソード】の発見どころではないぞ。
コウベさんと僕の術式の解読文書を突き合わせて、ハイソの指示書を見比べてみる。
「カカ…コリャ、どちらも同じような指示がありますネ」
「そうですね、細かいといえば細かいけど、すべて正しくはあるのが口惜しいですね」
「カカ…ハイソはアタシらの作業を遅らせて、ダンジョンから出さないために、こんな…ことするなんテ」
様子を見ていたミミが、深くため息を付いて僕らに言った。
「あんたたちね、確かにハイソは解読を遅らせてきてるかもしれない。でも、あんたたちの術式にも手直しの指示書きを出せるくらいのスキが会ったってことじゃないの?」
「そ、それはそうですが…」
「悔しかったら、指示を出されないような完璧な術式をハイソに提出することね」
ぴしゃりと正論を突きつけられてしまった。
ぐうの音も出ない。
そうだ。僕達は友達じゃない。パーティーメンバーだ。
愛のない正論、大歓迎。
───言われちまったな〜、キャハハ。
妖精のナギが、僕の後頭部で8の字に飛び回りながら笑っていた。
ナギの身体を引っ掴んで雑巾絞りの要領でひねる妄想をしながら、今日も黙々とハイソの指示通り、術式の解読文書を直していくのだった。
【次回】
→2024/11/20?