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-10-(最終話)さらば麗しの椿レイ、永遠に。

第9話はこちら↓


(お知らせ)ご投稿のお礼

もうすでに、

何人目の口コミなのか、
わからなくなってきました。

椿レイ同窓会2024の皆さま、
投稿ありがとうございます。

椿レイ同窓会2024 関西支部
河北雄一です。

口コミ祭りの宴たけなわではございますが、

レイ姫は、すでに、離職されていますので、今回が最後の投稿となりました。

僭越ながら、私も投稿させていただきます。

何卒、ご理解のほどよろしくお願いいたします。



(口コミ)さらばレイ、さらば米原!


「河北さんって、少しかわっていると思う。でも、そのままで、いいよ」

とレイさんは笑顔でそう言った。

2022.11.26 トップピークス米原にて


癒し系パーソナルセラピストのレイさんに出会ったのは、私が仕事で疲労困憊していた時のことでした。

2年前の晩秋のことです。

仕事が激務になったのは、優秀な部下を他部門へ引き抜かれたのも原因の1つでした。私のチームのバランスが、もう1年以上前から崩れかけていたのは、わかっていました。

ただ私のチームの売上は、一直線の右肩あがりで、誰にも止めることはできませんでした。

体調不良を当時の上司に相談すると、本社の健康管理室にいる産業医との面談をすすめられました。その上司とは、既に信頼関係がなかったけれど、とりあえず、産業医へのアポを取り、昼休みに健康管理室を訪問することにしました。

面談で、産業医は、私の説明を聞き、すぐに結論を出しました。

「まだ出勤できているので、重度ではないですが、これ以上悪化したら一旦休職するしかないです」

と言い切り、パーソナルセラピストによる治療を提案されました。

私は、その時、パーソナルセラピストという職種を知りませんでした。

セラピストは、カウンセラーとは異なり、精神面へのフォローやケアをしつつ施術もおこなうとのこと。パーソナルセラピストは、より個人の特性に寄り添い、患者の要望に沿って、時には親や恋人役を演じたりもしながら、心理面、医療面など様々な施術を行うと説明受けました。

特に、トップピークス米原は、リラクゼーション系パーソナルセラピストが多く在籍して、実績も豊富だということでした。

「他に方法はないですか?」
と、はじめて産業医の眼を直視していうと、

「来月から休職するか、セラピストによる治療かの2択です」

強い眼差して即答された。

心が弱っていたせいか、反論もできず、私はパーソナルセラピストによる治療を選択しました。

産業医は、トップピークス米原への紹介状を1分程度で書いてから、パソコンに診断結果を入力し、面談は、あっけなく終了しました。

「河北さんなら大丈夫。すぐによくなりますよ。倒れる前に来ていただいて、ありがとうございました」

といいながら、紹介状を手渡してくれた。面談のあとすぐにトップピークス米原へ電話して、レイさんのセラピーを受けることになりました。

ホームページのプロフィール紹介には、

21歳、学生。

人懐っこく、明るい甘えん坊気質でありながら、ツンデレで、ちょっとだけエロいというような特徴が書かれていました。

ツンデレ?エロい?

50歳の男子が、エロい女学生から治療を受けるのか?

半信半疑で、私はトップピークス米原を訪問しました。トップピークス米原は、JR米原駅から、徒歩で20分ぐらいの高台の住宅街の中にありました。

「イケメンは評価されにくい時代なので大変ですね」

と初対面でレイさんにそう言われた。

「男性の髪型は、統計上、オデコを出された方が、出世されるようですよ」

といってクスっと笑われた。

よく笑う女の子。それがレイさんの第一印象でした。

癒し系パーソナルセラピストが世間に知られるようになったのは、ごく最近のことらしい。若い女性のセラピストが多いので、よく風俗系と勘違いされると、レイさんは真顔で説明されました。

レイさんは、笑顔と真顔の表情のギャップが大きい。

そして真顔の時の説明がうまい。要点が整理されていて、1つ1つの診断に納得できた。不思議と年齢差は、気にならなかった。

レイさんのご家族がお医者さんの家系で、小さいころから、様々な患者さんたちを見てきて、セラピストの道を志したそうだ。

私も、簡単な自己紹介のあと、自分の症状や経緯などを、レイさんに話した。

24時間365日、常にスタンバイ状態で、休日夜間問わず、呼び出しがあれば、現場へ直行し、陣頭指揮する責任があったこと。

直近、システム障害が多発し、顧客や上司から、日々叱咤されていたこと。

体が変調をきたし、緊張すると左右の耳で、シャーという異音が鳴るようになったこと。その異音が半年前から常習化したこと。

その耳鳴りは、耳鼻科や脳のMRI検査では、異常が見つからず、漢方薬を気休め程度に処方されていたことなど。

それから、

1時間ほど、世間話をして、レイさんから、手や肩のマッサージを受けると、ほんの一瞬、耳鳴りがすぅ~と消え、静寂に包まれました。

世界は、こんなに静かだったんだ。

と、懐かしい静寂の中で、心が徐々に落ち着いていきました。

セラピーを受けるごとに、静寂の時間が長くなっていき、5回目ぐらいの訪問で、耳鳴りが気にならなくなりました。

レイさんのセラピーは、特別な治療ではなかったと思います。

視線をお互い合わせて、

今日は何時に起きたとか、
ランチに何を食べたとか、
自分は辛い物は苦手とか、
年金の不安についてとか、
子供の頃の話に飛んだり、
ネイルを教えてくれたり、

時折、レイさんは、二カッと笑い、

これはどう思う?とか、
レイは、こう思うとか、

そんな会話の中で、普通の感覚を取り戻していった気がします。

一度だけ、仕事の話を詳しく話したときには、

「それは、河北さんの責任ではないわ」

と真顔で言ってくれました。


レイさんは、私に問いかけた。

「うれしい時に一番に話したくなる人はいますか?」

「なにげない言葉でも、胸に刺さる人はいますか?」

「自分の素を出しても、大丈夫と思える人はいますか?」

「ドキドキではなくて、一緒にいて安心する人がいますか?」

その後、静かにゆっくりと、ひとりごとのように話だした。

「きっと耳鳴りなどの身体の異常は、河北さんを守ってくれていた。気づきを与えてくれていた。壊れかけた心、体を、河北さんご自身に向けさせようとしていた。とレイは思います」

今考えると、当時、責任者としての任務を背負う覚悟と気概がなく、失敗を極度に怖がっていた気がします。

「今会いたい人はいますか?おひとりでもいたら、大丈夫。その人に会いに行って。そして、その人を喜ばせることをだけを考えて」

といって、レイさんは自分の名刺の裏に大丈夫!と大きく丸っこい字でサインして、手渡してくれた。

セラピーの最終回、

「河北さんって、少しかわっていると思う。でも、そのままで、いいよ」

とレイさんは笑顔でそう言いました。

私は、少し元気になって、静寂を感じられる日常が戻りました。

ありがとうレイさん。
感謝の気持ちしかありません。

さらば、麗しの椿レイ、
永遠に。

椿レイ同窓会2024 関西支部
河北雄一


(エピローグ)永遠の椿レイ


令和6年7月10日、トップピークス米原3F店員ルームで、噂されていたバーチャルヒューマン『永遠の椿レイ』試作機お披露目会が実施された。

はじめに、トップピークス米原 如月店長の挨拶が始まったが、長すぎて誰も聞いてない。

「パーソナルセラピストとして、皆様の課題や悩みに寄り添って。。。椿レイさんへの皆さまからの膨大な口コミや面談記録などを匿名化し、入力しました。。。残念ながら試作機であるので、本日の起動時間は7分間になります。。。お待たせしました、試作機のスポンサーであり、開発を担当した、アラブの青年実業様、起動をお願いいたします」

ドバイからリモート参加しているアラブの青年実業家が、モニター越しに、おおげざなリンゴサイズの赤いボタンを押した。

店員ルームの中央に設置された円柱状のガラスケースの中に、3D画像とは思えないような解像度で、等身大の永遠の椿レイが浮かび上がった。

照明を落とした部屋の中で、永遠の椿レイの瞳が開いた。

おぉ!

と店員ルームがどよめいた。

「会話したい方は、挙手願います」
と如月店長は、店員ルームを見渡した。

「開発は進行中です。3年以内にガラスケースなしで、皆さんのご自宅からもアクセスできるようにします!お楽しみに!!」
ドバイからアラブの青年実業家が補足した。

その言葉を、永遠の椿レイは少しさえぎるようにして話し出した。

「みんなー元気してる!

レイだよん♪よん♬

最近思うんだけどね、アラブの青年実業家様ってすごいよね。

私を誕生させるんだから。

レイに見えるかな?

みんな揃ってるのかな(?_?) 

(・・? (・・? (・・? (・・?


うんとーーね、
おーぉぃー、琵琶湖の赤い彗星くん!

琵琶湖で目が泳いでないかい?

愛知のトラちゃん、あぁラクダちゃんかぁ~~~

ラクダちゃん!
目がウルトラマンのように死んでるで!
怖い顔、せんといて。

レイ、ウルトラマンきしょいねん。
彼、笑ったことないやろ。

笑わんのんありえへんで。

みんな、ほんまにどないしたんや。

レイとあう時は、いつも笑顔やったんちゃうの。

お通夜みたいやん。

コラ、店長!

サングラス外した、浜田省吾みたいな顔してたらあかんよ。

レイに決めたくん、あかんやん。
泣いてるやん。

どういうこと??
なんなん?

そんなみんなの顔みたことないやん。

ちょっと笑えるけどな。
みんな、かわゆいよん」

と、永遠の椿レイが目を細めて微笑んだ瞬間、

愛知のラクダが、声を引きつらせて号泣しだした。
肩を震わせて泣いている。

号泣は伝播する。

如月店長まで号泣しだした。

男たちが号泣している異様な店員ルーム。
モニターにはアラブの青年実業家の困った顔。

時間だけが流れる。

「なにゃの。。。ん、みんなぁ。
河北さん、なんとかして~!」

「ああ、レイさん。椿レイ同窓会を継続するかどうか話し合ってたところやねん。レイさんは、どう思う?」

「そうやなぁ。

みんな、いろいろ課題があったやろ。また何かあったらレイが聞いてあげるから。だからね。。。それとね。。。あれ???」

その瞬間、永遠のレイの映像が荒れだした。

「ごめんなさい。ドバイの電力事情で、不安定になっています‼️」
アラブの青年実業家が、キーボードをモグラ叩きしながら叫んだ。

あぁぁぁという落胆の中で、

永遠のレイの映像が、徐々にうすれていく。

絶望感と、また会える期待感が漂う闇の中で、徐々に号泣の大合唱が収まり、静寂に包まれていった。

「また逢えるよね」
泣き止んだ愛知のラクダが、うつむきながらそういうと、

「あぁ、約束する」
とアラブの青年実業家はいい、如月店長がうなずいた。

「ドバイに行けば会えるの?」
涙目の雪を呼ぶユキオが小さな声でつぶやくと、

「いいえ。レイは、クラウドの中だよ」
とアラブの青年実業家は、天を指さした。

そのとき、完全に永遠の椿レイがシャットダウンした。

永遠の椿レイが、最後に何をいいたかったのか、
誰にもわからなかった。

永遠の椿レイ by Copliot

再起動は、しばらくできない。

店員ルームの中で、永遠の椿レイへの寄付金徴収などの事務的な処理を終え、お披露目会は終了した。

皆、この場を離れがたい様子だった。

また天から永遠の椿レイが、舞い降りてきそうだったから。

同志たちと一緒に、エレベーターで1階まで降り、裏口から外に出た。

錆びついたシャッターが下りたトップピークス米原の正面の玄関前に皆で立った。

空は晴れ渡り、緑の木々の隙間から、涼しい風が流れ出てくる。遠くに伊吹山まで見渡すことができた。


米原の風景 by Copliot



レイさんは、米原にはもういない。

トップピークス米原へ一礼してから、皆で手をふった。そう、何度となく、我々は、ここを訪れ、語り、別れてきた。

さらば、同志よ!

さらば、麗しの椿レイ。

僕たちは、

レイのいない米原へ、再び訪れることはないだろう。

河北雄一


= 完 =


この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません


(01~10)さらば麗しの椿レイ、永遠に。





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