物理的な力を用いた医療技術~患者さんの症状に合わせて~
今回は生体医用システム工学科の吉野先生にインタビューしました。
吉野先生の研究
─吉野先生の研究について教えてください。
1つ目は未来の医療技術を作るということで特に循環器系の病気、例えば血管が詰まってしまうとか高血圧とか、そういう病気に対して原因を探る研究から、新しい治療器具を作っています。2つ目は、いろんな物理的な力を使って分子の構造をちょっと変えるというようなことをしています。薬はある特定の分子からできていますが、その分子一つ一つが立体的な構造をもっていて、その構造が薬としての機能に重要な役割を担います。つまり、分子の構造を少し変えることで薬の機能が変えることができます。ところで、タンパク質病って聞いたことありますか?
―初めて聞きました。
具体的な例をあげると、アルツハイマー病などがあります。こういう病気はタンパク質の異常によって起こるので、薬で治療することはなかなか難しいです。そこで、現在研究している技術を使って、既存の薬の機能を少しいじったり、タンパク質病の原因になっているタンパク質そのものを物理的な力で変化させる。これによって、原因を取り除き、病気を治すということに使えないか、あるいはすでに発症している場合は病気の進行を止めるようなことができないかと考えています。
―なるほど。そのようなアイデアや発見はどのように生まれるのでしょうか。
アニメや漫画を見ていて思いつくことが多いですね。例えば、アニメの世界ではピカピカと稲妻が走ることがあるじゃないですか。それによって何か変化が起きる。そういうときに、「もしかしたら現実の世界でも同じような状況を再現したら何かできるのではないか」と思います。もちろん話に飛躍がありますので、実際には物理的・化学的に理論立てて実践していきます。
―日常生活の中で常に研究に使えるのではないかと考えていらっしゃるのですね。
研究へのこだわり
―吉野先生が研究をする際にこだわっていることを教えてください。
誰が聞いても面白いと思える研究をするということです。研究って、同じような分野の研究をしている研究者たちには面白いと思ってもらえるかもしれないけど、それ以外の人にとっては難しくてよく分からないと思われることもあると思います。そうではなくて、世の中にいるいろんな方に自分たちの研究を紹介した時に、「面白いな!」と思ってもらえる研究をするということを心掛けています。研究は誰もが魅力を感じ、「面白い!やってみたい!」というものであって欲しいと思っています。うちの研究室に限らず、研究者が生み出した研究成果のほとんどは世界に発信されていますし、案外、皆さんの身近にあるものです。「難しい」で避けられるよりは「面白い!もっと知りたい!」と思ってもらえる方がより科学が発展する方向に進んでくれると信じています。
―研究者として大切にされていることはありますか。
諦めないということです。仮説を立てて、ちょっと実験しても、最初からうまくいくことはありません。ほぼ100%うまくいかないんですよ。でも、それを諦めずに「こうしたらいいんじゃないか、ああしたらいいんじゃないか」と試してみるという気持ちを大切にしています。
医療機器を開発したいと思ったきっかけ
─吉野先生が医療機器を開発したいと思ったきっかけを教えてください。
自分の祖父が冠動脈狭窄(注1)になってしまったことです。その時に冠動脈バイパス手術という別の血管を枝分かれさせて血液が流れる道を確保する手術をしたのですが、その時にもう少し良い医療機器があったらなと思ったことがきっかけでした。
―吉野先生は血管狭窄を機械的に拡張するインプラント医療機器についても研究されていると思うのですが、それはどのような研究でしょうか。
ステントと呼ばれる血管狭窄を起こした幹部を機械的に拡げる医療器具ですね。血管の細胞などを使って実験的に生体の応答を明らかにした上で患者さんにとって適正な性能を持つステントを作っています。我々は体の大きさも体の中の状態も違いますよね。ヒトの血管を模擬したような組織を人工的に構築して、ステントの性能を評価しながら、それぞれの患者さんの症状に合わせてきちんとした性能を持つステントを瞬時に設計することができる理論を組み立てています。そういう理論をつくることで、お医者さんが患者さんを診断すると、「この患者さんにはこのステントが適切ですよ」ということを提案できるようになります。そこの流れをつくっているということですね。
注釈
(注1)血管が詰まってしまう病気
文章:みかん
インタビュー日時: 2024年 1月 11日
インタビュアー:みかん
※インタビューは感染症に配慮して行っております。