北浦 亜以《私が刑事になった理由》
守りたいのは、守られたいから
愛してるのは、愛されたいから
貴女を見てるのは、私を見て欲しいから
《 私が刑事になった理由 》
姉は私の世界の全てだった
だって私は貴女の居ない世界を知らないから
貴女が笑って過ごせる世界が無くなるなんて
そんな世界は絶対に間違ってる
ならば私が作るしかない
私にとってのただ一人の神のような存在
その顔が雲らぬように
私が世界を正すしかないのだ…
「亜以ちゃん」
優しくそう呼んでくれる声が好きだった
「亜以ちゃん」
慈愛に満ちた眼差しが好きだった
「亜以ちゃん」
優しく包み込んでくれる暖かな手が好きだった
それはずっと私に向けられ続けると思っていた
けれど私のそんな小さな希望は
いとも容易く打ち砕かれた
あの犯罪者と、形だけの正義を振りかざす
無能な警察達のせいで…
「お姉ちゃん…」
駆け付けた病院の真っ白なベットの上
包帯やガーゼに身を包んだ痛ましい姿
擦り傷や痣、青白い顔色、目の下の隈
姉の顔はこんなだっただろうか…
「……お姉ちゃん…」
目を開けているのに視線は定まらず
虚ろな瞳は闇を孕んでいて
今にも何処かに消えてしまいそうで…
「嫌っ!!」
傷だらけの手にそっと触れれば
悲鳴と共に振り払われる
恐怖に怯えるその冥い瞳には
私の事など映っていない…
あぁ、壊れてしまった
壊されてしまったのだ…
私の大切な存在を壊した奴等を
私は一生許さない…
正義を成さぬ奴等を
私は一生許さない…
「……お姉ちゃんは、私が絶対に守るから…」
幾度目かの面会を経て
少しずつ回復する姉の手を握り呟いたその声に握られた手がピクリと動く
ゆっくりと顔を上げれば
まだ闇を孕んだ冥い瞳と視線が絡む
あぁ、やっぱりその瞳にはもう私は映らない…
「亜以、ちゃん…?」
久しぶりに姉の声で呼ばれる名に涙が溢れる
以前のように優しい声色では無いけれど
耳に届く姉の声に、私を認知してくれたことに
生きていてくれたことに…
想いが、涙が、止め処なく溢れ出す
「お姉ちゃん…」
その瞳に映らなくてもいい…
生きててくれれば、それだけでいい…
もう二度と、こんな想いはさせないから…
貴女は私が護るから…
「私、刑事になる…お姉ちゃんのために…」
あなたがいないと生きていけない…
貴女は私の世界の全てだから…
~終~