穏形鬼ショートストーリー
優しい言葉で惑わせて
甘い夢を見させてやろうぞ
ほら、よぉく見てご覧よ
お前の心の奥底を…
《 艶やかな毒 》
千鬼様と共に人間に封印された我等…
人の子が鬼を御せるなどと何故思えたのだ?
数人がかりで封印するのがやっとのくせに、何故我等に勝った等と思っているのか
やはり人間とは、斯くも浅ましきモノよな…
「ふふっ…千鬼様、お懐かしゅう御座います…」
我等を生み出した鬼の親玉、諸悪の根源
汝より出でし我等には、汝に在らざる性質がある
色を好みしは馬頭、破壊を好みしは牛頭
他を妬みしは霊鬼、全てを憎みしは鬼同丸
そして我は全てを欲するもの…
まぁ、然し…傲慢な汝は気付かぬであろう
欲を孕みし我等を止めるなど、人の子等になぞ到底出来得る筈がない…そうであろう?
何故なら我等は、鬼というものは人の子の心の闇から生まれ出でし存在なのだから…
全てを奪い、全てを喰らってやろう
この世を混沌に変えてしまおう
我の糸で、全てを操ってやろうぞ…
踊れや 踊れ、愚かな人の子達よ…
廻れや 廻れ、間抜けな鬼共よ…
「……我の糸に、操られているとも知らず…
己が意思で動いていると思って居ればいい…」
我に関わりしモノ全て、既にこの糸の餌食
指先一つで、我の気分次第で、どうとでもなる
知らず知らずに絡み付き、身動きも取れずただ為す術もなく、我の腹に入るその時を待つのみなのだよ…
「……おや、また新たな獲物か…自ら糸に掛かるとは、酔狂なものよな…」
目に付いた年端も行かぬ女子に見えぬ糸を絡ませながら、じわりじわりと近付いていく
さぁ…その身を我等に捧げよ、人の世を乱す存在と成れ、その身に宿る鬼を、自らの欲を曝け出すのだ…
「くふふ…新たな同胞よ、我等鬼の世の礎となれ…」