海舟ショートストーリー

助けに行ったのに、助けられた

連れ戻したかったのに、連れ戻された

あまつさえ自由な身体すら失った

大事なものを護れないなら

大事なものなんて、もう要らない…

《 元・破壊屋の嘆き 》


「ぅ……っ…師匠……ッ!!」

うなされて目を覚ませばまたあの時の悪夢…
禁忌のビルで俺達は一度、師匠を失った
数年の修行の下、今度は助けられる筈だった
強くなった、そう思っていた
破壊屋として、霊能者として、鬼になんて
負ける筈は無かった…

あぁそうだ、俺は傲っていた
その傲りが故に師匠を助けられなかったんだ
そして自分の未熟さ故に、半身すら失った…

「…っ、クソが……ッ!!」

動かない脚を拳で殴っても、とうの昔に感覚すら無くなっていた…
鬼の攻撃で脊髄を損傷し半身不随に陥り、今や破壊屋としての仕事すら満足に出来なくなってしまった

『命があるだけマシだろう』
『生きてりゃきっと良い事がある』

そう言われることも少なくはなかった
確かに数多の鬼を相手取り、生きて帰ってきた事だけでもこの界隈では英雄ものだ
けど、結局そんなものは強者相手に尻尾を巻いて逃げ帰ってきたのと同然だ…

「何なんだよ!何のために、俺は……師匠…ッ!!」

やりきれない想いは心の中で渦巻いて澱んでいく
堕ちる果てでは悪鬼羅刹が生まれ出づる
そうか、こうして人は心に鬼を宿すのか…
己が中に渦巻く負の感情
此れはきっと先程の悪夢のせいだろう
はぁ、と大きく溜め息を吐き動かぬ脚を抱えベッドに座り直すと何もない筈の空間を睨み付け

「…オンッ!!」

印を結べば現れる数多の異形
そうか、これが俺の心の闇か…
こんなものに取り憑かれるなんて、俺もまだまだ修行不足だな…
傍らに置かれた愛刀を手に取るも室内では流石に打刀は振るいにくく、仕方無く拳を握る

「……どうもこのやり方は、あまり品がなくて昔から好かないんだが、な…ッ!!」

蠢きながら近付いてくる異形を片っ端から殴り飛ばし、その魄そのものを破壊しこの世から滅する
元来の性格からか、悪鬼羅刹を昇華するなんて生易しいやり方が気に食わない俺に師匠が与えてくれた《破壊屋》の称号
今じゃ満足に活動すら出来ていないが、使い道はまだまだ有るようだ…

「…にしても、何か焦臭いな……」

ここ数日でまた見始めた昔の記憶、
疼く筈の無い古傷がじわりと疼く…
何かがおかしい…

二度寝を決め込むにしても、このままではまた悪夢にうなされそうで、式神を呼び出すと傍らに置かれた車椅子に身を投じパソコンに向かう

《鬼》

俺達にとって切っても切れない縁の異形
人の心に巣食う怨みや妬み、憤りの具現化
それが今になって、何故…?
何かが起こる、また鬼によって脅かされる…
そんな漠然とした嫌な予感がした

破壊屋として現場に赴けなくなった俺の今の仕事は、専ら怪異について調べる情報屋じみたこと
ここ数年の未解決事件や異様な事件・事故を調べ、纏め上げ、必要とあらば式神を飛ばして調査する
悔しいが、今の俺にはその程度の事しか出来やしない…

この脚さえ動けば、何度もそう思った
けれど鬼からの傷は一生癒えることはない
事象の拒絶や過去の改編レベルの行為が無ければ二度とこの脚は動くことは無いのだから…

「……この気配、アイツか…」

調べ物をしていれば、いつの間にか陽は高くなり、近付いてくる気配を察し部屋を出る
ボロボロの姿で現れた《かいだん屋》に色々と察しが付いた
捲き込まれたのだ、俺もアイツも、
鬼に関わる全ての存在が…

本当に面倒臭いがこればかりは仕方が無い
何せアイツ等は出し惜しみして勝てるような輩じゃあ無いからな…
これからあの鬼共を相手にするんだ、俺の霊力全て注ぎ込んでやろうじゃないか

この元・破壊屋、海舟 里見を舐めて掛かると痛い目に遭うって所を見せてやるよ…


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