「変態仮面」がいまだ語られる背景を見てみると
『究極!!変態仮面』(著者:あんど慶周)は意外に知名度が高く、誰にも知られている作品だろう。
1992年からジャンプで連載された漫画作品であるが、その連載は1年ほどで単行本も6巻。
ただ、内容の反響もあってか打ち切りに近い最終回を迎えている。しかし、人気がなければジャンプという中で1年も続けることは難しいため、それが理由ではないのは間違いないと思う。
しかし、92年の作品であっても「変態仮面」の名は今でも輝いている。それは当時の読者だけの間だけの話ではない。
実際、その人気から2013年には実写映画『HK 変態仮面』が公開されるのであるが。当時から考えれば、誰も予想していなかった展開であろう。
さて、今回はそんな愛された作品を見ながら、記録より記憶に残る作品の意義を語りたいと思います。
■究極のファンムービー
まず、実写映画に関してから語りたい。
この作品は俳優であり、ファンの一人である小栗旬らの強力で映像化された作品である。俳優やスタッフも当時であっても名の知れていた監督、福田雄一、主演、鈴木亮平。そして、違った意味で有名となった清水富美加などが参加していた。
しかし、制作費自体は潤沢ではないだけに安っぽい作りではあるが、俳優自体は全くの無名ではないので力の入れようが分かる。
主演を務めた鈴木亮平はこんなタイトルな作品だけに今後はお堅い放送局からのオファーは当面ないだろうと覚悟していたが、この作品のおかげか、元からの実力かその後はお堅い放送局からも大抜擢とあった。
また映画作品自体も興行収入的にも続編が作られたほどの作品規模以上の人気であった。しかし、興行収入は1億超えで、想定の10倍という記事があることから、この映画は壮大なファンムービーと言ってしまっても構わないのかもしれない。
ファンである小栗旬がこの映画では大きく関わって、その作品愛に打たれて各スタッフも動いたような記事も見受けられる。何より制作費、作品タイトルからも例えヒットしても、メリットは薄い。
鈴木亮平自身、汚名になるかもしれないと覚悟していた。また、興行収入は1億超えとはいえ、所詮はB級作品では大ヒットでも一線で戦う実績には乏しい。
作品愛から作ったファンムービーでなければ、映画を作る側からしてもメリットは薄い。大体、原作は20年も前で、爆発的にヒットした作品でもない。賢明な人間なら、このタイトルから触れない方がいいと考えるとだろう。
ならなぜ、実写映画化するほどのポテンシャルを持っていたのか。
ひとえに愛されていたからでないと理由にもならないだろう。
■ファンに与えた衝撃 そして、ミーム化
『それは私のおいなりさんだ』の台詞自体はいまだに一部では使われるミームである。
その他にも有名な名言はあるが、どちらかといえばコマとあいまってヒーローのような決め台詞、ポーズとなっている。
「変態仮面」自体、某アメコミヒーローを意識してデザインされているので、そういった見せ場はある種正解であるが、この作品ではそのインパクトから記憶に残ってしまう。
あんど慶周氏はこの後、漫画家としては主な活動はしていないが、イラストレーターとして活動しているようで、現在は更にアメコミテイストの作風を見ることができる。
そこに至っても、ある種一作だけヒットした消えた漫画家といえるのに現在でも「変態仮面」のイラスト、作者の活動の一片が見えるのはあまりない。
そもそもこの作品が記憶に残っていなければ、作者がイラストが上げられても効果はない。そして、ファン側も同じくらいネタにして、ファンアートも存在する。
また実写化するだけの力を持ち、それを支えるほどのファンがいなければ興行的にも成功はあり得ない。
『究極!!変態仮面』は本当に記録より記憶に残る作品である。
■ジャンプ漫画黄金期は究極のメディア
90年代のジャンプ漫画は記録より記憶に残る作品が多く存在していた。実際、90年代には最高部数653万部を誇っていた時代である。
現にヒット作でも『ドラゴンボール』、『SLAM DUNK』、『幽☆遊☆白書』が連載されていた時期である。
そんな記録的な部数を誇っていた時代のジャンプ連載は今からすれば誰もが目に触れる機会があったと言っても過言ではない。
実際、部数以上に回し読み、店で置かれる雑誌などで週刊ジャンプは誰でも読める環境に合ったからだ。
今でもそれは多少変わらないが、ただ部数の減少、生活のスタイルの変化で当時とは違っている。
だからこそ、当時の連載であれば誰の目にも留まり、インパクトのある絵で記憶に残れば誰にもが語られる時代であった。そんな時代に出てきたのが『究極!!変態仮面』、そして後にもファンに愛され今に至る。
他の90年代の漫画も同様にファンから愛された作品も多い。
『ドラゴンクエスト ダイの大冒険』にしても、2度目のアニメ化が2019年に発表された。『るろうに剣心』にしても再度、実写映画が2020年に公開される流れである。
メジャー作品ではあるにしても、20年も前の作品であることを考えれば、今の漫画読者からすれば生まれる前の作品では反応に困るだろう。素直に『鬼滅の刃』を展開してくれた方が有り難いだろう。
それだけに90年代の作品はファンに愛され続けなければ、今日で展開することは達成不可能な話である。