【あとがきにかえて全文公開】とある国産RPGとレベルに関する作品秘話
とある国産RPGがメモリアルイヤーという事で、それにわずかながら触れた話として『最弱最強の反比例剣士と3つのしっぽの女悪魔』のあとがきにかえてを全文公開します。
また、国産RPGに関する追加の思い出話も書いております。
『最弱最強の反比例剣士と3つのしっぽの女悪魔』
この物語は英雄を夢見た少年、アデルがふとしたきっかけで手にした、伝説の剣〈勇敢さをもたらすモノ〉こと、ドラ子と謎の女悪魔、ヨー・メリット・エイリアスの巻き起こす冒険譚。
あとがきにかえて レベルとは
この物語は元々、ゲームのアイデアとして作られていた。別にこれは商業作品ではなく、フリーソフトまたは個人で楽しむ程度のモノとして考えていていたもの。
『レベルが低ければボス戦に強い。レベルが高ければ雑魚戦は強い。当然、この構図は逆でも有効。レベル管理をジレンマとしたい』
これが当初のコンセプトであった。この点に関しては小説として書き上げた中でもそう変わってはいない。
強くなる過程であるレベルを意図的に上げ下げして、攻略とするケースはわずかに存在するモノの絶対的に主流ではない。また、ここでは転職、転生のような1からのやり直しとは違う。
作中にも出てくるような、『レベルドレイン』を意図的に攻略に活用する方法である。(このようなレベル低下はコンピュータゲームにおいては意図しない仕様となるため、裏技、バグを呼び出すことも多いのだが)
そんなコアなゲームを私個人、楽しむのにも作ろうと構築していった。しかし、設定こそできたが、ゲームバランスをいかに調整するかは難問であった。
だから、設定止まりで終わってしまった。
また、この設定を小説にするにしても、どう描くかは難問でもあった。
むしろ、この難問に先に答えが出たのは描き方であって、このように小説として完成したのであった。
そもそも、レベル表示とは周囲からも視覚的に強さが分かる要素である。これは家庭用でのコンピュータRPGの祖を作る際にも、有名なエピソードとして語られている。
この概念がなろう系などの定番であるステータス表示といった描写が今日まで繋がっていると思うと、考え深いものである。
しかし、本来のゲームでのステータス表示とは、戦闘後ではHP、MPを見比べて進むべきか考え、敵が強さ自体でもレベル上げとするかなどを考慮する、攻略の指針となる。
これは周囲の視点ではなく、プレイヤーの視点、判断に委ねられる部分である。
この判断とはジレンマである。
しかし、このステータス値が絶対的で負けないモノであれば、ジレンマは生まれない。ストレスもない。配慮すべき事項がないからだ。
そう、ステータスとは本来、ジレンマなのだ。
現実世界においてもある意味、試験、適性試験などの結果はレベルといえる。
それによってランク付け、資格、職業適性の判断だけでなく、根本的な選別にも使われる。これまたジレンマを生む要因である。
現実においても、レベルのジレンマは存在している。
この作品では徹底してカタカナ、外来語を排除した作りをしている。全く別の世界を作り出すため配慮であって、それ以上に深い理由はない。
また、それが難しい場面ではナレーター、第三者の語り部を出すことで補足をさせている。
それでも作品の根本となるレベルのジレンマを描くには、レベル、ステータス表示という嘘をつく必要がある。
そこに関してはRPG定番である次までの経験値を教えてくれる神視点、もしくはメタ視点を採用している。
ただ、このレベル、ステータス表示という嘘も先に語った通り、現実にも評価基準の視覚化で使われている。だから、この嘘はフィクションはあれど、現実離れはしていない。
そう考えると何だかなと思うわけで。
だからといっても、この要素を上手く使えていない部分は自分自身、多々あると思っている。次回はもう少し上手に、この嘘に説得力を持たせ、現実味と活用を見いだしていきたい。
ちなみに余談とはなるが、levelは本来は水平、水準といった意味である。そのため、地面、基礎を整えて、水平にすることを「レベルを出す」と言われている。
つまりはこの作品にも土台、基礎に対するレベルを出しが必要ということで。
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今ではシリーズ化して、多くの人がプレイしている国産RPG。そのシリーズだけでなく、多くの作品が生まれている。
そんな中で「武器や防具は装備してください」といった、本来は初心者に向けたゲーム内の発言も笑いのネタにされている節もある。別に笑うことをダメといいたいのではない。それほどまでに国産RPGでの常識は当たり前となっていることを示すエピソードと思っている。
あとがきにかえての本文でも触れているが、その当たり前で語られるのが、ある種のなろう系にもなる。
ただ、その一作目となる開発秘話というのは色んな媒体で明らかにされている。ステータスのウィンドウ表示にしても必要ないと思われていたが、家庭用ゲーム機の性質では友達や兄弟などの観戦者にも分かる基準として採用されたと語られている。先の武器、防具のくだりにしても、そうだ。
この『最弱最強の反比例剣士と3つのしっぽの女悪魔』にしても、国産RPGでのそんな要素を取り入れて作られている。ファンタジー小説を意識した部分の方が少ないかも知れない。
そんな『最弱最強の反比例剣士と3つのしっぽの女悪魔』に掲載されたエピソード「大熊と赤の女帝」はこちらで公開しております。
著者 ツカモト シュン
サブカルコラムニスト、作家等のマルチクリエイター。20年近くネットを見続け、HNタングでも勝手気ままにサブカルチャーを軸としたコラムを書いてきた。「重機兵少女」シリーズの著書がある。