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【昭和歌謡名曲集65】雨の慕情・八代亜紀

テレビを見ていたら、八代亜紀の「雨の慕情」が流れた。ああ、八代亜紀が死んで、もう一年になるのか。八代亜紀は私にとって、同時代の演歌歌手であった。
 当時、俺らはフォークやニューミュージックやアイドルや洋楽やらに夢中で、音楽で一番唾棄すべき対象は演歌であった。演歌は大嫌いであった。あの、わざわざ人生を悲しくするよな、それに酔うよな、歌詞も歌い振りも大嫌いであった。なんでこんな前時代的な、女だけが耐えるよな悲しい歌を、シチュエーションで歌って、大人は、ええ歌やいうて感動してるのやら、信じられなかった。バカ丸出しって思った。

当時、八代亜紀はトラックの運ちゃん御用達の歌手みたいに売られてて、若さ故の差別意識から、ああ、それ風の輩が好きな、それ風の歌なのね。ワシらには関係ないわ。とか思ってた。今思うと、こっちがバカ丸出しなのだが。

して、就職して、それなりに恋もして、ふったりふられたりして、社会に揉まれて、鼻高に勘違いしたり、ボロクソに言われたり、いろいろあって、知ってる人がアウトローにズレてったり、場末のスナックでひとり呑んだり、ぼったくられたり、それでも好きな女んとこ電話したり、一丁前に夢語ったり、自分が何者でもないって、嫌と言うほど、嫌と言うほど思い知らされたり、人生ズタボロな日もあった。

忘れもせえへんけど、そんなとき、場末の飲み屋で、店主のおばちゃんが歌うたのよね、カラオケで。雨の慕情。
 たまんなくヘタクソでござんした。私と同僚のも一人で、その一見の飲み屋に入って、客は他にはおらず、突き出しの変な蓮根の煮物はカピカピで、ビールはぬるくて、何食ったかとにかく全部不味くて、その夜を思い出した。でも思うたな。
演歌はええ。
てな。

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