「一歩踏み出す勇気」を手にした壱岐エテマルシェ|2022壱岐商業高校×とびゼミコラボ授業⑭
ついにこの日が来ました。壱岐エテマルシェ。
8/27-28の両日,壱岐島最北端の港町,勝本浦でマルシェを開催しました。これまでこのnoteでも記してきたように,高大連携で進めているアントレプレナーシップ教育の授業内容の一環。高校生が感じる地域課題を基礎に,持ちうるリソースを持ち寄って実践を行うプログラムです。
今回も他地域でも行ってきたように,ゼミ生によるポップアップ出店を行うBESIDE COFFEE STANDと,各地で活動を行うTANEMAKI by SPINNSの皆さんのご協力を得ました。また,BESIDE COFFEE STANDには壱岐のパン店パンプラスやイチノ珈琲焙煎所のご協力を得ることができました。出店に至るまで,下記にも記しますように,壱岐島内各地の企業や商店,島内放送など,さまざまな形でご支援を頂きました。改めてこの場をお借りして御礼申し上げます。
では,今回の2日間,どんな光景が繰り広げられたのでしょうか。今回も長文になりそうですが,ぜひご一読ください。
なお,壱岐商業高校における本プログラムのこれまでの経緯はこちらを。
各地で行っているプログラムをまとめた記事はこちらを。
それぞれご覧ください。
1日目|自分たちのお店ができた感動と試行錯誤の始まり
8月27日(土)。ここまで3ヶ月かけて準備をしてきた壱岐エテマルシェ初日。前日入りして準備を行ってきた学生と勝本浦の出店場所で合流する。
今回の出店場所は勝本浦で長年行われている朝市の入口に相当し,駐車場最寄りの空き店舗。以前も書いたように,この場所ではその昔映画館があったり,スーパーがあったり,さまざまな事業が行われてきた。勝本浦でも時代時代の移り変わりを見てきた場所だとも言える。
今回の出店にあたっては,地域との連携で勝本朝市のお母様方と連携して「朝市で朝ごはん」という企画を行う予定が,折からの流行病の拡大によって中止。エテマルシェだけの出店になった。
到着したのは開店である11時ギリギリ。店内ではTANEMAKI(SPINNS)のみやぽよさんが高校生に向かって熱く注意事項や接客のポイントについて語っている。ここに至るまで,高校生とオンラインミーティングを重ね,セールスミックスを高校生とともに検討した「仮説的販売計画」を形にするために,関わる大人も,学生も,高校生に期待をかけている。彼・彼女たちにはプレッシャーに感じただろうが,ここまで来たらあとはやるだけ。
一方,BESIDEとパンプラスのコラボ出店を行うブースではパンが並び始める。この日のために,高校生とパンプラスのオーナーである大久保さんとで共同開発した新製品が投入される。
特に,トルティーヤの生地に,チキン南蛮やサルサソース,照り焼きチキンなどが添えられていた「絶品ランチロール」は今回の目玉商品。私も2回試食したがとても美味しく頂いた。
また,画像はないがコーヒーと一緒に楽しめるお菓子が必要だろうということで,「チーズケーキタルト」も販売。2日目に来店された大久保さんの奥様いわく「試食段階からめちゃくちゃ美味しかった。これ,うちの店で出さないのって聞いたけど,出さないとにべもなく言われました」のだそう。こちらはあいにく試食することができなかったが,きっと次の出店機会に向けて秘密兵器として残しておくのでしょう。ありがとうございます!(と勝手な解釈)
おかげさまで店内は大盛況で5時間の営業でひっきりなしにお客様がご来店。入店者は200人ほどで,出店していた高校生の友達はもちろんのこと,周辺に住む方々や一見してそれとわかる観光客なども含まれていた。
それもあってか,15時を前にしてパンは完売。SPINNSも2日間の目標売上を1日で達成することができたのだそう。働く高校生も,最初は緊張の面持ちで不安そうにしていたが,お客様が喜ぶ顔や「頑張って」と声をかけられたりする中で,徐々に自信がみなぎる顔に変化したように思う。
が,売上が目標に達しても,まだまだ改善の余地はある。ということで,閉店後は成果としての売上を確認しつつ。できたこと,できなかったことをふりかえる時間に。特に今回のプログラムでは両チームともに男子生徒がチームを引っ張る役割をしていて,大学生と積極的にコミュニケーションを取りながら,さまざまなアイデアを出していく。
こうして1日目は終了。高校生たちは帰路につき,わたしたちは宿に戻って翌日の作戦を練ることにした。
2日目|試行錯誤と改善の繰り返しで「自分だけの店」ができた
8月28日(日)。朝のミーティングで前日に出た課題を解決しながら改善を図るとともに,レイアウトや展示を変えたり,お客様への声掛けの仕方を変えていくなど,できることを洗い出しての確認。
そうこうしているうちに,気温が上がってきたこともあってコーヒーを買い求めたいと言ってくるお客様が押し寄せる状態に。また,前日パンを買いそびれたお客様がグループで来店されて,この日も幸先の良いスタート。
ただ,開店の11時になっても商品が届かない。流行り病対策で個包装にするため,通常よりも出荷が送れていたのだそう。徐々にパンが並び始めると土曜日同様に多くのお客様にお越し頂き,お買い求め頂きました。前日のふりかえりとパンプラスのオーナー大久保さんからのヒントも頂いた内容をもとに,お客様の進行方向を制限したりと試行錯誤,創意工夫が進んでいく。
さらには,前日の評判を聞きつけたのだろうか。それとも,当初からこの日を予定していたのか。その真意はよくわからないが,この日もいくつかの新聞社やテレビ局から取材が入り,空き時間に生徒さんや学生が順番にインタビューを受けていく。
前日にも尋ねて回ったが,この日も高校生に対して「どう?楽しい?」と聞いていた。もちろん即答で「楽しいです!」なのだが,店内で発生するさまざまな問題やお客様の流れを見ながら,今店舗がどういう状況なのかも見えてきた感じ。特に,コーヒーを販売するために何をどのように配置するのかはオペレーションを円滑に進めるための試行錯誤が続いたようだ。
例えば,ミルの位置はどこが最適か。アイスコーヒーはあらかじめ水出しをしてお客様を待たせないほうが良いのか。決済方法は現金のみで良いのかなど,いくらでも改善点がある。そうした洗い出しをコツコツとしていく中で,この日はオペレーションの改善も進み,注文からスムーズにお客様へ品出しができるようにもなった。
そうこうしていると,今度は生徒たちが窓ガラスに水性マジックを使ってメッセージを描いたり,可愛らしい動物の絵を描き始めた。そもそもは店舗入口に立てて置いていた看板(メッセージボード)に何かを書く予定だったのが,気づけば高校生と大学生全員が想い想いのメッセージを窓ガラスに書き出した。
彼・彼女たちと画面越しに初めて会った4月。大学生側もまだ授業をどう進めて良いかわからなかった頃,経営理念の重要性を学んだ高校生たちは今回のプロジェクトの基礎となった「壱岐の課題解決を図るビジネス案」を考え,それを企業として行うとしたら,どのような想い=経営理念を持って行うかを考える時間を設けた。
そして,4ヶ月前の想いを忘れることなく,彼・彼女たちはこの日を迎えていた。BESIDE側の1人が想いを窓ガラスに書き連ねてみたら,次はSPINNS側の生徒が想いを書いていく。窓ガラスに水性マジックで何かを書く。しかも自分のありったけの想いを名前とともに書いていく。普段では絶対にできないであろうことを,みんなで何かを乗り越えるかのようにやってみる。
この時にきっと,それまではどこか借り物の店舗でやっていたお店の運営が,高校生のものになったのかもしれない。
勝本浦の街には平成,令和と建て替えが進んだ建物がいくつかある。まるで時が止まったかのような街にはところどころ新たな空気が入り込み,雰囲気を変えつつある。が,基本的には昔ながらの港町の雰囲気を色濃く残してもいる。この写真を1つとっても,令和の今,撮影したものとは思えない。
そうこうして閉店時間の16時を迎えた。2日目も300名ほどのお客様にご来店頂き,売上目標も達成。高校生と大学生,そして地域を巻き込んだ「壱岐エテマルシェ」はこうして幕を閉じた。
高校生の「あったらいいな」「できたらいいな」から始まった取り組みは,当初の想定よりも早くこの時期に実施することができた。それもサポート役の大学生が上の記事でも書いているように,高校生がジブンゴトとしてこのプログラムに関与してくれているからだと言えるだろう。
今回SPINNS側で関わってくださったみやぽよさん(TANEMAKi by SPINNS)とゼミ3年生のnoteはこちら。すごく良い文章を皆さん書かれますね…。
出店の2日間も男子生徒がリーダーとなって,積極的に動き,意見を述べ,改善点を抽出していったように見える。が,次第に控えめな女子生徒も少しずつではあるものの,自分の意見を出し,お客様とコミュニケーションを取ることで「できるかもしれない」という感覚を得たのかもしれない。
今回プログラムに参加した高校生のうち,SPINNS側の男子生徒2人は将来起業したいと考えているそうだ。それが壱岐で実現する日を信じて(もちろん自分の人生を生きてください)。
ふりかえりとまとめ|大人は自分たちの論理で若者の機会を奪ってはいないか
さて,今回の2日間をどう振り返り,まとめたら良いのだろうか。なかなか難しい。
まず,今回わざわざ勝本浦という場所を選んだのには理由がある。最大の理由は私自身が足を運び,歴史を聞いたこと,物件を見て,直感的にここだと感じたこと。が,それは一言で言えば,勝本浦という街がそもそも持っている可能性に賭けたということだろうか。
恐らく普通に考えれば,壱岐島内では郷ノ浦や芦辺でこうした商売を行うのが普通だろう。人口も多く,商業施設もある地域であれば,そもそも人が集まる場所がある。しかし,勝本浦は急激なスピードで衰退しているし,昼を回ればほとんど人が歩かない。
それでも,ゲストハウスがあり,クラフトビールがあり,カフェが盛況だということであれば,わざわざそこを訪ねていく人がいるということだ。ただし,それが島内の人なのか,島外の人なのかという問題はあるにしても,そこへ行く,行かねばならない目的を作ることが重要だと考えた。500人ものお客様にご来店頂き,目標売上を達成できる程度の事業機会がここにはある。とりあえずそれを証明できたことはホッとしている。
次に,高校生の行動パターンを把握し,実際に来店に導く方法を作ることはできなかった。今から20年ほど前に現地で高校生だった方に聞けば,そのときには島内のバスに乗って友人の家を訪ねることをしていたという。しかし,今の高校生に聞けば,バスは不便,移動するには車がなければならず,自動的に親の力を借りるしか無い。だから,休日は家でゴロゴロしてネットで動画を見たり,友達とコミュニケーションを取るのが普通だという。
そう,高校生が集まって何かを語る場所がないのだ。
これは今や地方都市共通の問題かもしれない。人口流出が若年層中心で起きるのが当たり前で,残っている人のほとんどが親世代以上。よってシルバー資本主義/民主主義がまかり通る。そこで生まれ育った子どもたちは自分たちが楽しめるコンテンツがなく,スーパーに行っても売っているものは子どもかお年寄り向け。親世代が楽しむようなコンテンツはあるけれども,自分たちは置いてけぼり。確かにそうだとしたら,ここに住み続けたいとは思わないだろう。
だから,彼らが望みそうなコンテンツを整えてみた。そしたら,高校生は多くを学び,自信をつけ(きっと),意欲的にモノゴトに取り組めるようになった。彼・彼女たちには可能性が溢れている。それを自分たちがコントロールしやすいように制限をかけて,結果的に流出して戻らないというのはそういうことなのだろう。大人と呼ばれる人たちが良かれと思ってやっているのかもしれないが,それによって彼・彼女たちの思考が奪われてしまいかねない。そうなってしまったら街のポテンシャルがますます小さくなっていってしまう。
今回はもしかしたら(良かれと思ってやってきたことが原因で)活力を失いつつある地域に一石を投じることができたのかもしれない。ただ,スポット参戦とそこに店を設けて何をするというのでは全くレベル感が異なる。何はともあれ,高校生が壱岐や勝本という場所に可能性を感じてもらえるような機会を創れたのだとしたら,それはそれで意味があったのだと思う。
一歩踏み出す勇気を持って実行してみたら,高校生にはこの景色がどう見えるのだろう。
さっそく,ふりかえりのために再び壱岐を訪ねることになっている。このあたりを高校生にじっくりと聞いてみたい。
余談|人とのふれあいが確実に人を成長させる
自己効力感に乏しい私にとって,自信を持つにはどうすれば良いのか,日々試行錯誤をしている。そんな中で先日こんな本を読んだ。
そして,そこでは自信を持つには次の要素が必要だと述べられている。
自信を持てるようになるには,他者への信頼,自分の能力を認めること,そして人生全体に対する肯定感を持つことだそうだ。そして,そのためにはトレーニングを重ねなければならない。本書を読んでいて,まさにアントレプレナーシップであり,高校生に読んで欲しいと思える1冊。
すべての研究をフォローできているわけではないが,きっとこうした要素はアントレプレナーシップ教育でも頭に置いて良さそうな学びでもある。
見る人が見たらオママゴトに見えたかもしれない今回の出店。でも,この小さな一歩が高校生にとって大きな一歩なのだとしたら。今回のような機会を設けたこと,成果が一定程度得られたことには自信を持っても良いのだろう。また,壱岐へ行って実際の評価を聞かねばならないが,関わってくださった高校生はもちろん,大学生や社会人にもポジティブな影響になること間違いないのかも。
あと,娘氏。(まだ記事にできていない大分・佐伯での合宿にも同行したことで)娘氏のコミュニケーション能力がますます上がったように感じる。どこに行っても物怖じしない性格は羨ましい。人と交わることで学べることがたくさんあるのだということを改めて確認できた良い時間になった。
というわけで,明日(8/30)朝からフェリーで壱岐に向かいます。到着後,壱岐商業高校を訪問してふりかえりの授業。どんなふりかえりになるのかが今から楽しみでもある。
最後に、今回も壱岐まで行って私が言う無茶に付き合ってくれた学生のみんな。本当にいつもありがとう。やりたいこと、やってみたいこともたくさんあるだろう中で、このプログラムに時間を割き、カタチにしていく楽しさを感じてくれていたら嬉しいです。まだまだ授業は続くけど、引き続きよろしくお願いします。