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日常と非日常を交換できる豊かさ|ゼミ10期生2022春合宿

3/16-18、ゼミ10期(2年)生を引き連れて宮崎県小林市と同西諸県郡高原町を訪ねた。

2021年春にゼミに入ってから、1回だけ数名を連れて小林に来たが、先の佐伯もゼミ生の一部だけを連れて行ったので、今回のようにほぼ全員が揃っての「合宿」は初めてだった。2月中旬にこの1つ上の世代を鹿児島県枕崎市に連れて行ったが、今回の2年生もそうであるように、ゼミに入って泊まりでどこかに行く経験がほぼ初めて。

新型コロナウィルスで自由が効かない中でも、地域との関係性構築を図りながら(現地産品を使ったカレー開発という)新規事業を構築するという取り組みが、アントレプレナーシップ教育としてどんな意味を持つのか。今回も学生の様子を見ながら、2021年度に行ってきた取り組みのふりかえりをしようと乗り込んだ。

加えて、九州移住ドラフトでできたご縁でもある鹿児島県霧島市にも再訪した。これまた1ヶ月ぶり。今回は山間の溝辺、横川だけでなく、錦江湾に面した国分を訪ねた。

いつもどおり取り止めもない記録になるが、旅の記録を認めておこう。

1日目:カレーの仕込みとキャンプ

朝7:30に福岡を出発し、約3時間半で小林に到着。今回の活動の舞台となるTENAMUビルへ向かった。TENAMUビルは街の中心地に位置するスーパーと住居、そして地域の皆さんが集まれるコミュニティセンター的な場所で、図書館だったり、木育スペースだったり、商工会議所だったりが集約されている。

そうした来訪者にコーヒーや軽食を提供する場所としてフード・ラボと呼ばれるカフェスペースがある。ここは手続きさえ踏めば1時間500円で借りることができる。初めて小林に訪ねた2021年4月はちょうど大分県日田市で学生によるポップアップカフェBESIDEがオープンしていた時期でもあり、いずれ学生たちに何かしらの商売をする機会を創ろうと考えていた。

それがたまたまこの機会になった。本来はフードハントを目的に夏合宿で訪れる予定にしていたが、新型コロナウィルスの影響で来ることができず、枕崎同様に御恩返しを目的にカレーを作って販売することにした次第。

私たちが到着した頃には先発隊で学生たちがすでに到着し、仕込みが始まっていた。何も言わずとも現地の担当者とコミュニケーションを取って活動を始める。実に頼もしい。

小林に行けば市場食堂。いつものチキン南蛮とあんかけ焼きそばを食べる。

ランチはいつもの市場食堂でチキン南蛮とあんかけ焼きそば。ペロりと平らげ、再びTENAMUに戻る。

施設内のホワイトボードで宣伝

今回の開催にあたり、ビルの指定管理を行う会社を営む青野さんにはいろいろとご無理を言った。福岡もギリギリまでまん防が出ていたこともあって、準備が進められなかった。が、今回の取り組みを好意的に受け止めてくださっていたのだろうか、学生も青野さんからのオーダー(調理内容、レシピの提出など)にも素早く対応してくれたおかげもあり、驚くほどスムーズに準備が進んだ。

15時頃から、高原町へ移動開始。霧島連山の宮崎側の麓にある小さな町。自然豊かで神武天皇がお生まれになった場所だという伝説がある。そこには御池という池がある。火山でできた池の中では日本で最も深度があるそうだ。ここも昨年4月の訪問時にも訪れたが、ようやくキャンプを行うことができた。

今回のキャンプ地は「御池野鳥の森キャンプ場」という町が地元業者を指定管理に指定し運営がされている。コロナ前から整備が進められ、テントエリアには電源もあるし、場内にはWi-Fiが飛んでいる(もう少し強いとなお良い)。

ここでは研究会ということで、今回お声がけをして参加してくださった福岡県柳川市の乗富鉄工所かた乗富さんと川久保さんからのお話、私から2022年度の運営方針の説明、そして学生によるプロジェクト報告を行う予定にしていた。当初は場内にある施設の室内を使う予定だったが、内装工事中で使うことができなかった。

当初予定してた場所が使えなかったので青空ゼミを実施

そこで上記のような青空ゼミに。きっと無いだろうと予測してスライドを持参したのが良かった。電源もあるし、椅子もお借りして春の暖かな日差しの下、ゼミを行った。

乗富鉄工所によるノリノリプロジェクトのご案内

しかし、2時間ほど経つと日は陰り、だんだん寒くなる。途中高原町役場から担当がわざわざご挨拶にお越し頂き、恐縮。私が喋ってる間についに暗くなってしまった。寒そうなので乗富さんにお願いして同社製品の「メッシュタキビダイ」で急遽火を起こして暖を取ることに。

そうこうしているうちに学生からのプレゼンは中止して、夕食のBBQが始まった。

おっさんチームで囲む焚き火台。美味しいお肉をだらだら会話しながら頂く。

これまでなかなか公式的に食事会もできなかったが、天気にも恵まれたし、美しい景色の中で、しかもほとんど貸切状態だったこともあって、リラックスできる時間を過ごせた。ご厚意でキャンプファイヤーも行うことができ、火を囲みながらしんみりとそれぞれが語り合う時間も取れた。BBQスタートから4時間ほど経過した23時頃に終了。片付けをしてそれぞれのコテージで休むことに。

部屋に戻ってテレビをつけると、東北地方で大きな地震が起きていたことを知る。今回の地震で被害を受けられた皆様にはお見舞いを申し上げます。

2日目:いよいよ販売当日

2日目朝は美しい朝日とともにスタート。

御池に映る朝日。絶景でした。

午前11時からの販売に備えて、学生たちも早めに出発。当初は仕込み班だけが早出という話だったのが、結局全員早出になって9時前には撤収。おじさんチームは部屋の点検、片付けをしてからゆるりと出発。学生えらい。

青野さんとご挨拶
販売開始直前の仕込みチーム

そして11時のオープンを迎えた。お客様は果たして来るのだろうか。告知の遅さ、距離もあって見えないお客様の顔、不安いっぱいだけれども、やれることをやるしかない。

TENAMU内にはそこら中に広告を出して頂きました。

最初の1時間は数食の販売だったが、12時回るとチラホラとさまざまなお客様が来られるように。同じフロアにあるTENAMUビルの管理をしている会社の皆さん、商工会議所にお勤めの皆様が中心ながらも、10月のカレーフェスだけでなく、今回は宿泊でもお世話になるホテルのオーナーさんや、中心部でカフェとゲストハウスを営むご夫婦までお越し頂くことができた。まさに枕崎と同様に、ここまで商品化できた御恩返しをするかのよう。

私も頂きました。

今回のカレーでは、カレー粉を除く、牛すじ、にんじん、玉ねぎはいずれも小林産のモノを使用。牛すじは前回同様西之原牧場から、にんじんはホリケンファームから、玉ねぎはJAの直売所からの仕入れ。そして、今回のは先に訪問した大分県佐伯市の糀屋本店で購入した塩麹入りのカレー粉を使用。図らずも小林と佐伯という、ゼミで関わりができた街の食材を活用することに。

そんなこんなで営業時間は15時まで予定していたものの、好評頂けたようで14時過ぎには完売。32食を売り切ることができました。カレーを召し上がって頂いた皆様、本当にありがとうございました。

片付けを見届けてCHILKへ移動

終了後は少し時間ができたので、小林駅近くの商店街内にある古着店CHILKを訪問。久しぶりに地方都市でビジネスを立ち上げた若者2人に会う。

実は初日の仕込み時に驚きの出会いがあった。私の講義を履修していた他学部の学生が今年から移住して、青野さんの会社(TENAMUの運営をはじめ市内でコワーキングスペースの運営、農産品の販売などを行う)に就職したとのこと。今や「ケビン」とあだ名がついた彼も移住以来CHILKのメンバーと懇意にしているのだそう。

私たちからも先の飯塚で行った古着販売のワークショップを小林でできないかという提案を。どうやら高校生や近くの看護学生たちも気になるお店になってきたようだが、オシャレすぎて入りづらいという意見もあって、コンセプトは変えずにバリエーションを増やしてタッチポイントを増やしていこうというようなことも。この夏にできるといいなぁ。どうかなぁ。

夜は小林滞在時にいつもお世話になる無駄イバーハウスへ。本来であればこの日の夜もBBQの予定だったが、雨予報もあって残念ながら室内での懇親会に。それでも大変お気遣い頂いて、小林中のさまざまなお店からケータリングをしてくださったり、オーナーのお母様がハウスに作った農園で採れた野菜を使った料理を作って頂いたりと、贅沢なパーティーができた。

農園で採れた野菜で夕飯
オーナーの姪っ子とうちの娘氏のツーショット

パーティーはそれなりに盛り上がりはしたのだけれども,さすがに前日移動,仕込み,そして販売と若い学生たちも疲労困憊だった模様。21時頃にはだんだん眠そうな顔をしてきたので,翌日無事に福岡へ戻れるようにと早めに解散。片付けも積極的に手伝っていて,本当に真面目な学生だなと関心しきり。

最後はみんなで記念写真

私も23時を回った頃にうとうと。いつもだったら深夜まで繰り広げられるトークも今回は早く店じまい。

3日目:小林から霧島へ

最終日は11時に鹿児島県霧島市でのアポイントがあったため,少し早めに起床。9:30には出発し,霧島連山を横目に高原町から都城市をかすめて霧島神宮を通るルートで現地に向かう。お母さま(私たちはくーたんと呼ぶ)が急遽準備してくださった朝ごはんを頂いて出発。

翌朝の朝食の様子

車で走ること約90分。今日の目的地である霧島市立国分中央高校に到着。

国分中央高校は霧島市立の唯一の高校で,園芸工学科,生活文化科,ビジネス情報科,スポーツ健康科の4学科から構成されている。2022年で創立115年を迎える伝統校でもある。

学校の様子

最初は「大学のセンセイ」が来るということで少し緊張した面持ちではあったが,こちらが今回訪問した意図をご案内し,校長先生とディスカッションを進めていく過程でだんだん打ち解けた雰囲気になってきた。聞けば,高校でも多様な取り組みをしている。例えば,校内の農地で作られている野菜等に認証評価を取ったり(ASIAGAP),焼酎用の芋を生産している農家に僅かに残されていた「蔓無源氏」を校内の施設で培養して農地で育て,周辺農家と協力して地元の酒造メーカーに購入してもらったり,さまざまな商品開発をしてはビジネス情報科が販売するなど,私たちがこれまで進めてきたプログラムを遥かに凌ぐ活動をされていた。

園芸工学科の実習施設でディスカッション

また,校長先生は4つの学科がこれまでそれぞれバラバラに動いていたものを1つに結集させる「校内での6次産業化」の取り組みを進めようとされるとともに,高校での学びを通じて,大学や専門学校に行っても,就職をしても,地元で業を興してみようと考える生徒をいかに育てるかを思案されていたそうだ。まさか学校の先生から「ここで業を興せる人材を育てたい。チャレンジできる生徒を育てたい」という言葉を聞けるとは思わなかった。それだけ地域における人材不足が深刻になってきているということだろうが,こちらの取り組みも含めてディスカッションしていく中で問題意識の共有ができたように思う。

どのように進むか不透明な部分もあるが,「一歩踏み出す勇気」を持って不確実なことに取り組むこと,失敗を許容する文化を作っていくこと,地域に愛着を持てるような機会を創出し,そこで仕事を創っていくような働きかけを大学生とともに進めていくことについては時間をかけてでも進めていきたいという覚悟のようなものを感じ取れた。いいディスカッションでした。

終了後,霧島市北部の溝辺,横川地域へ移動。

再び横川kitoへ。
みぞべるの「ごま」と「しお」のヤギさんコンビ

再び横川kitoを訪問して少し休憩。温泉を挟んでみぞべるを訪問。しばし,ヤギさんたちと遊んで帰路につくことに。今回も濃厚な3日間の旅になりました。

まとめ:「日常」と「非日常」の交換ができる豊かさ

これにて2月のゼミ9期(3年)生との旅,今回の10期(2年)生の合宿が終了し,2022年のゼミ行事はすべて終了した。この間にも佐伯に行ったりもしていたので,福岡と九州内の地域を行き来する生活を繰り返してきた。私が目指す微住(びじゅう)生活ができているとも言えそう。

普段は福岡という大都市で暮らしていると,日中はもちろん,夜でも街は明るく,ご飯を作りたくないと思えば周りにいくらでも飲食店がある。ちょっとした何かが欲しいとなれば,街に出れば良い。スーパーや飲食店で並んでいる食材が馴染みのある地域であったり,特産品で絶品だと知っていれば,多少お金を払ってでも口にしたい。確かにモノに溢れて,欲しい物を手に入れることができるという意味では不自由がない生活だと言える。

が,そうした都市的な生活を維持するために,神経をすり減らして働くことにどれだけの意味があるのだろうかという疑問を持っている。だからこそ,都市的な生活を遅れるわけではない地域に足を運び,「非日常」に触れる機会が極めて重要だと考える。

が,これを日常としている人たちからすれば,私たちが喜んでいる景色や環境は当たり前のもので,ありふれたモノ。逆に私たちが当たり前だと思っていることが当たり前ではないからこそ,多くの地域出身の若者たちが期待を寄せて都市にやってくる。そして,都市的な生活スタイルを送るようになる。

互いに「ないものねだり」だと言えばそれまでだが,自分の生活をどう創り上げていくかという問題だとすれば,どこでどのように生活していくかは生きることに直結する重要な事項だ。残念ながら「働く」がどこかの組織に所属し,雇用され,会社という場所で働く関係性に基づくものであるならば,なかなか日常と非日常,都市と地域を行き来するような微住的生活は難しい。が,少なくともデスクワークを中心とする仕事であれば,それは十分に可能であろうし,この2年でそれは十分に明らかになったのではないか。

また,今回の合宿で改めて気づいたのは,地域におけるアントレプレナーシップを持つ人材を育てることが急務であるということ。どこでも「人がいない」という話は聞くけれども,こうした帰結になることはすでに20-30年前からわかっていたことでもある。が,その空白はチャンスでもある。

私自身の今の関心事に引き寄せるとすれば,大学というキャンパスと教室という場所にいることが求められる仕事を季節的に求められつつ,地域に飛び出してさまざまな実践に触れることで得られる知見に価値がある仕事をしている。となると,オンラインをうまく使って同期,非同期を活用しながら仕事のパフォーマンスを上げていけそうではあるけれども,なかなかそれが許されない。が,いくつかのスタートアップ企業が地域のサテライトオフィスを持ち,家族同伴で微住しながら働く環境がすでにあるということを考えれば,大学人も同様の働き方ができても良さそうなものだ。

が,なかなかそうはならないのが現実。地域にある豊かさをその場で享受してみたいという贅沢な願いが叶うことはあるのだろうか。2022年度は大学生による高校生へのアントレ教育を推進する1年になりそうだが,物理的距離が精神的な距離とならないように自分自身をコントロールしたい。

今日もダラダラと文章を書き連ねてきたが,福岡の街の灯りを見ると,どんどん気分が憂鬱になるのはほんと。一方で,妻氏には「あなたは本当の田舎で生活したことがないからわからない。かぶれるんじゃない」と常々怒られている(笑)。どこかにバランスが取れるブレイクスルーが落ちていないだろうか。

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