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「授業をする」という行為から何を学ぶのか|2024スプラウト&kAIware飯塚高校②
昨晩、北海道から大阪を経由して帰福。
大阪では医療系の皆様と中小企業管理会計のポイントを議論するという機会でした。コーディネーター曰く、中小企業に規模ごとにフィットしたマネジメント・システムを要するように、病院も同じようなことは言えるだろうと。そして、外部や内部に環境に適応してシステムをどう構築するか=デザインするかという議論は未来の病院や福祉系組織のあり方を考えていく上でヒントになるだろうと。
そうした期待に応えられたかはわからないが、先生方には興味深く映ったようだ。自分はこれまでの研究でもって異分野に当たって砕けただけなのだが、「面白い」は僕に対する最大限の賛辞だと思っています。
そして、今日は飯塚に。久しぶりにゼミ11期生、現4年生を乗せての飯塚高校での授業。昨年中核的な役割を果たしていた彼女たちが飯塚に凱旋ということもあり、後輩たちの試行錯誤や1年経っての見える世界の違い等、彼女たちの話を聞くだけでも楽しみにしていました。
果たして授業はどのように進んだのでしょうか。今回は飯塚高校での授業の模様をお届けします。なお、これまでの経緯は下記のマガジンをご参照ください。
今回の講義の模様
それではそれぞれの授業の様子を覗いてみよう。
kAIware:生成型AIでビジネスプランを作るクラス
午前中は生成型AIを活用してビジネスプランを作る授業「kAIware」の授業。3年生の2名の女子学生が中心になって、昨年の授業をバージョンアップさせている。
プログラム進行上昨年と大きく異なるのは、①受講生が倍になっている、②ChatGPTの入力方法がキーボードだけでなく音声入力が可能であること、③授業の翌週にフォローアップ授業を行えることにある。とりわけ、③は重要で、今日学生が用意していた授業計画ではかなり厳しかったであろうものを2週間4コマの授業で進めることができるようになり、余裕が生まれた。
それもあって授業は急かすというよりも、じっくり議論ができることになった。
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最初はアイスブレイクで「ChatGPTで恋愛相談」という面白いテーマを用いて、高校生に身近に生成型AIを使ってもらう機会づくりからスタート。特に男子生徒を中心にモジモジするかと思いきや、割と面白がって話をしている。今回は大学生も大量投入していることもあるが、彼・彼女たちのフォローもうまく入っていることもあり、円滑に授業が進んだ。
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今年はChatGPTの進化もあり、全9グループのうち、3グループでは実験的に音声入力で使用してもらっている。キーボード使用の学生と議論や質問内容にどう差が出るのか、出ないのか、学習の志向性に変化は出るのかという研究に着手している。
グループについていた学生によれば、「対話するように質問できるってのは良くて、文章を打ち込むと丁寧な文章を書くことに集中してしまうが、音声入力だとたまに聞き間違いが発生することはあるけれども、概ね自然なやりとりができてるんじゃないか」と。
授業内容が高校生にとっては高度で、馴染みもない情報であるにも関わらず、学生たちは絶えず質問を繰り返す努力をしている。「深掘り」という観点からはまだまだだが、時間をかけて試行錯誤している跡が見えるのが良い。
続きは次週のフォローアップで。高校生同士でインタビューをお願いしているが、どこまで深掘りできて、面白い課題に当たるかどうかが楽しみでもある。
トータルライセンスコース(商業系クラス)2年生:スプラウト応用
午後からはトータルライセンスコースの1-2年生向けの授業。こちらがアントレプレナーシップ教育を柱とする他地域でも展開をしている内容。
ただし、飯塚高校では1年生に基礎編、2年生に応用編と内容を段階的に上げていく取り組みをしている。今日は戦略実行のための計画策定の重要性を伝える内容として、損益分岐点分析を教えることになっていた。
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1年次では収益と費用の差額としての付加価値を最大化することにビジネスの意義があると伝えることに主眼があったが、ここでは費用の変化様態に着目する損益分岐点分析の基本的な考え方を解説し、自分たちで商品案を出し、損益分岐点分析を用いて経営計画を作ることをゴールにしている。
そのために概念解説に時間を割くのだが、なかなか簡単な作業ではない。ともすれば、学生も十分に理解していないであろう内容を説明しなければならない。自主的に学び、腑に落として、他人にわかりやすく説明するにはどうするか。
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学生も高校生に理解して欲しいからとさまざまなワークを作っては試すという授業を行っているが、今日の説明は本当にベストだったのだろうか。この点はふりかえりで指摘しているが,そうではないと思う。きっと,学生は数値を扱う問題が苦手だという認識があり,公式に当てはめて解けば良いという理解をしているから正しく概念を理解していない可能性がある。そういうスキーマができてしまっている。こういう大学生がやってしまいがちなことをブレイクすることにだってスプラウトの意味がある。そんなこんながありながら,高校生たちはカフェの運営を行うワークを行いながら,理念→戦略→計画の一連のプロセスを学習した。
そして,今日の授業のハイライトは最後だと言えるだろう。それは,今年11月23日に開催される「まちなか学園祭」と12月21日-22日に開催される「飯福商店商い場」での出店品目を決めるためのじゃんけんだ。結局,飯塚と言えばのカカオ研究所のチョコレート,サッカー部も愛飲するさつまいもシェイク,そしてゼミ3年生によるプロジェクトで各地展開を行っている「パリイモ to アイス」の3品目の割当が決まった。
出店まであと1ヶ月。ここから怒涛の日々が始まる。
トータルライセンスコース(商業系クラス)1年生:スプラウト基礎
最後はトータルライセンスコース1年生の授業。
今回はあいにくすべてを見ておくことはできなかったが,学生のふりかえりを聞いているとポジティブな評価もあるものの,先輩たちからは学生の授業の進め方について多少異議が唱えられていた。
スプラウトを大学生に担当しもらっている理由はさまざまだが,この2コマという時間を割いて大学との連携を図ろうと尽力頂いている学校(中学校・高校)の生徒さんに対して「大学生はさすがだな」「すごいなぁ」と感心してもらうことも大事だが,確実にここでの学びが伝わるようにする,そのためにファシリテーション,コミュニケーション,知識への正しい理解とそのアプトプットといったあたりを学ぶことにある。
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そうした観点から見たとき,4年生から見た3年生の授業の進め方には疑問が生じていたようだ。それぞれのパーソナリティでもって授業することを否定することはないが,その伝え方で正しく高校生に伝わるかどうかという点について。ちょっとしたエクスキューズで「◯◯みたいな感じです」とか,曖昧な表現を使ってしまうのは理解していない証拠だと。
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授業を聞いているとそこそこ進んでいるように見えるけれども,高校生の集中度合い,話し合いの内容,空気感からして解せない部分があったのだろう。ふりかえりでそうした指摘を受けることはとても重要だし,自分に足りないと思ったスキルを磨く必要があるのだと思うのなら,(各クラスの授業は録画されているので)繰り返し録画を見て,他の人達の授業と何が異なるのかを検証し,改善していくことが求められる。
大学生が始めてだから,慣れていないからは顧客たる高校生には全く関係がない。この1回の授業を通じて,彼・彼女たちとコミュニケーションを取り,その後のワークや模擬店出店までのプロセスどう構築し,結果出店後にどうなっていて欲しいのか。まさに,大学生が高校生に経営理念や戦略を考えるように求めていることと同じであるし,自分たちも同じように創業体験プログラムでの出店に臨んでいるに違いないのだ。
ま,今後に期待。自信を無くすんではなくて,他者のために自分が何ができるかを必死になって考え,実行に移しましょう。アントレプレナーシップは「限られた資源を活用して機会を追求すること」。資源が潤沢にはない中で質を高めようとすれば何ができるのか。まさにkAIwareの授業で高校生が直面しているソリューションの質と解決策の質をうまく組み合わせて前進することが授業においても必要だということだ。
ふりかえり
以上,午後の授業が終了。ふりかえりがスタート。
今回の授業には福岡県から青少年育成局青少年育成係の一行が来校。県でのアントレプレナーシップ教育として,都市部で生まれるようなITベースの企業を作る起業家ではなく,地域経済の担い手を作ることにももっと取り組むべきだという話が出てきているらしい。十分な情報が共有できたかはわからないが,少なくともスプラウトが持つ意義,対象,内容をマルっと理解頂けたようで良い機会になった。皆さんの本音を聞きたいところ(笑)。
とは言え,こうした機会が増えれば増えるほど,授業できる人をどのように確保し,授業の内容,手法を形式化していくかが課題になる。いくらか誤りもあるし,修正点もたくさんある。ニーズの拡大=機会がどんどん大きくなっていくのに,資源は限られたままという状況をどのようにして乗り越えていくのか。まさにアントレプレナーシップを持ってこの状況をどう乗り越えるかを考えることが求められそうだ。
ところで、県庁職員さんとも話になったのだが、学生は「授業をする」という行為をどうやって学んでいるのか。実は特別なトレーニングは一切していない。特段講義をしているわけでもない。なぜ「スプラウトをやるのか」は話しているが、授業のテクニックについてはほとんど教えていない。無責任なように聞こえるかもしれないが、これを定めると画一的な尺度しかなくなるし、学生のアイデアが出てこない。
良い授業なんか、どういう尺度で決まるかなんて20年経ってもわからん。それよりも、自分たちで試行錯誤して、トライアンドエラーを繰り返して、パターンを作っていくことしかない。理論を理解し、説明できるのは当然として、それをどうすればわかりやすく教えられるかに「理解度」が反映される。そのための準備をどこまでできるか。
そういう意味では今日の授業はその差が如実に表れたわけで、学生間の差なんか無いに等しい。が、自分が先生役となって授業を行う以上、リーダーシップも、フォロワーシップも、一歩踏み出す勇気も、組織的に活動して成果を実現することも、インプットもアウトプットも、貪欲に学んで貪欲に発揮してくれさえすればいい。
授業を行うという行為を通じて学ぶことがたくさんある。だから続けていられる。
さ,明日も授業。