壱岐でマルシェやりながら日南のオンライン授業ができる|2023スプラウト 壱岐商業高校⑤+にちなん起業体験プログラム②
8月も最後の土日。夏休みの最後にお出かけしたり、夏祭りがあったりとあっという間に8月が終わりそうです。
先週のシンガポールに続き、昨日まで3年生の合宿で雲仙、2年生の合宿で天草に行ってきました。
私は5日間、娘氏を連れて2つの合宿を連投。さすがに娘氏と4泊5日の旅はどうだろうと思いましたが、娘氏からすれば遊んでくれるお兄さん、お姉さんがたくさんいることで満足の旅だったようです。
学生がやるプログラムですから、学生間の微妙な人間関係も見えるし、極めて楽観的で何にも進んでいないのにどこかで「大丈夫」って思い込ませたり。担当している教員からすれば不安だらけなのですが、毎年この合宿の充実度がそのままプログラムの結果に繋がっているような気もするので、気が抜けません。
そして、今日からゼミ生の一部は壱岐へ、私は学会に参加するために静岡へ(日帰り)、そしてその裏でにちなん起業体験プログラムの第2回授業の実施と大忙し(こんなことできるのも学生のおかげ)。にちなん起業体験プログラムはさすがに現地に行けないのでオンラインということで、静岡までの道すがら、私も授業に参加することになりました。
それぞれのプログラムの状況は下記のマガジン、投稿をご覧ください。
今回はこの2つのプログラムの様子をお伝えします。
前半:壱岐でマルシェ準備しながらの日南向け講義(理念・戦略編)
前回の冬のマルシェから8ヶ月。学年も変わって、今年度は1回限りのマルシェ。「壱岐エテマルシェ」を再び勝本浦の皆さんのご協力を得て、今年も開催することになりました。
昨年は夏に洋服(SPINNS)とパン屋(パンプラス)、そしてコーヒー店(BESIDE)で空き店舗を活用したマルシェを行い、冬には文化祭をコンセプトにして地域のお店にも出店頂いてマルシェを実施。ともに大きな成功を遂げ、今年はさらに売り上げを伸ばしたい、多くの方に来て頂きたいという意気込み。
今年は前回に引き続き出店してくださった方もいれば、新たに出店があったり、暑さ対策でかき氷を売ったり、舞台の観覧席にテントを張ったりとこれまでのふりかえりを活かした会場設営ができた。これも現場で日々活動してくださる壱岐商業高校の担当の先生、勝本浦まちづくり協議会のご協力、現地のオーソライズをしてくださるMさんのおかげ。
また、高校生が勝本浦の商店街を訪問していく中で使っていなかった綿菓子機をお借りできたり、地元漁協さんのイカ焼きが販売されたりと、前回以上の成果が得られることが期待された。
チラシは市内の全戸が見るようにと1,500枚用意したものの、SNSの運用が進まなかったり、なかなか集客が進んでいる様子も把握することができず、当日は不安で仕方がなかった。とは言え、そもそも遠隔地だし、出張続きの中で手を十分に打つことはできないし、祈る思いでいた。
これに加えて、今年あるありったけの資源を活用して、今回のマルシェのために大学生15人を投入することにした。
当日の高校生のサポートはもちろん、足りなくなった商材の調達など車を出して対応することができるようにと準備前日から3年生と洋服店を担当する学生の合計10名が入り,同じく合宿に出ていた2年生5名が現地入りすることで2つのプログラムを同時に運営できる体制を整えることができた。
そうして,9:30からはにちなん起業体験プログラムの授業がスタート。「スプラウト」の中核的なメンバーを2手に分けて,前回の授業を担当した3年生3人が別会場でオンライン講義を実施することにした。
にちなん起業体験プログラム第2回の授業は理念,戦略,計画を立てるところまで。これは通常のスプラウトでは第2回と第4回に分けて行う内容であり,受講する中高生には相当タフな内容になるはずだ。
しかも,中高生が理念だ,戦略だと考えたことはないだろうし,授業の中には事業機会の探索なんて言葉も出てくる。3時間の授業でどこまで中高生の集中力を切らさず,ある程度理解を促し,11月のマルシェに向けた準備を行えるようにするか。大学生の腕の見せどころでもある。
今回のプログラムでは11月に実施される「油津キャナルマルシェ」での販売を行う。よってメインとなるターゲットは日南にお住まいの皆様になるだろうということで,学生も日南の人口,人口構成,主要産業などを高校生に伝えるようにしていた。
そして,何のために自分たちはモノを売るのか,誰に対して,どんな風になって欲しいのか。いつも使う「経営理念の4要素」をベースに中高生に対してグループワークを仕掛ける。
が,3人の参加者のうち,今回から参加した女子高生は事前課題,ワークをしっかりやって参加してくれているけれども,前回から参加している2人の中高生がやってきていない(涙)。その2人もアイデアを色々出したりするけれども,言葉にすることができない。事前課題ありきでこの授業が進んでいるのに!(と言っても仕方がない)
そこで,まず出店するイメージを固めて,何を誰に売るかからスタートして,抽象的な議論をせず,深掘りもせず,概要を固めていくことにした。ここまでで前半戦が終了。
後半:戦略を策定する日南組と実践にトライ中の壱岐組
後半戦は会計のお話。収益,費用,利益という言葉に慣れてもらうことと,数値で活動の成果を測定することによって過去に何が起き,今どうなっていて,未来どうしたいかが見えるという話を通じて,計画を作ることの意味を伝えていく。
ここではすでに壱岐商業の授業(第4回の記事参照)でも述べているように,付加価値の最大化が重要であり,そのために売上(収益)を伸ばすか,費用を減らすことがそれにつながることを伝える。また,前半で説明した経営戦略と収益,費用,利益の関係を学習することで,自分たちがどんな戦略を取って利益を最大化できるかを考えるヒントを提供した。
数値が出てくることでどんな反応を中高生はするだろうか。私はその時ちょうど昼食を食べているタイミングでありながら,固唾をのんで見守っていた(笑)。まずは日南側で担当してくださる方から昨年度も参加していた男子高校生に水が向けられる。昨年はどんな感じで事業を構築し,計画を練り,当日はどうだったか。
商品はあれが良い,これが良いと考えることができても,いくらでそれを売れば良いかなんて考えたことがないだろう。ましてや,ここまでの授業で差別化だ,コストリーダーシップだと説明を受けてきた中で,自分たちがどんな商売を志向するかも考えたことがないに違いない。それでも,中高生たちは自分たちのアイデアをなんとか言語化し,「こういうことができたらいいな」という言葉にしていく。
ここで概ね時間になったので,大学生からの授業は終了。午後からはこれを日南にいるサポートメンバーの方とともに詰めていくことにし,次回の授業冒頭で説明してもらうことにした。
午後の様子は画像で送られてきたが,相当頭を使っていたようだ。それぞれがそれぞれの視点を持ちながら,どうすり合わせるかもそうだし,そもそも1つのブースを使うけれども店舗は1つなのか,3つなのか,共通の理念はあるのかなど,気になることは多々ある。次回授業を楽しみにしよう。
壱岐の成果はいかに?
一方,壱岐ではどんな感じだったのだろうか。
学生向けの創業体験プログラムでも学園祭当日に行っているように,時間あたりの売上が現地から報告される。1時間ごとに各店舗の売上がスプレッドシートにまとめられる。学会中とは言え,私もそちらが気になる(笑)
今年のマルシェには,地元名産のイカを使ったイカ焼きや高校生の綿菓子に加え、福岡を中心にゼミOG夫妻が展開するコーヒースタンド,壱岐島内では知らない人がいない製氷業によるかき氷といった新商品が登場。
このプログラムに参加している課題研究「起業体験プロジェクト」とは別に、壱岐の特産品を活用した新製品を販売するなど、高校側の動きも活発になり、このマルシェを良い機会として捉えようという様子も伺える。
また一般出店でもポップコーンや勝本浦のゲストハウスからはラム麻婆が販売されたようだ。知らないうちに店舗数が増え、どんどん規模が大きくなる。ありがたいことだ。
そうした中で、売上報告を見ると、立ち上がりから売上が伸びる店舗,なかなか商品が入らずに機会損失が発生してしまった店舗,試行錯誤が必要な店舗など,さまざまだったようだ。
それもそうだ。ここに至るまでいろいろと難しい点もあった。売上目標は立てたものの,いざ販売するとなるとさまざまな問題も発生する。
例えば,ある商品は勝本浦に住んでいる住人であれば格安で食べているものだから,その価格では買わないという話だったり,ある商品は壱岐の人はコンビニでいつも見ているから売価を知っているとか。あるいは,綿菓子は高校生の手作りだから慣れないと多くの数が出せないだとか。そして,そもそも売価をどうするかということも。
だから,売価がどんどん下がる。授業で決めた売上目標金額が置き去りにされるし,そのための具体的な方策が提示されるわけでもない。合宿の間も3年生はそれぞれの品目で担当する高校生とオンラインミーティングをするけれども,その本人でもどうして良いかがわからなくなってしまうなど,状況が目まぐるしく変化していく中で方向性を見出さなければならない。
当事者の高校生も不安だっただろうし、大学生とのミーティングを重ねていく中でその不安を吐露しながら準備が進められていたなんて話も耳にはしていた。
が,そうした不安を打ち消すように一部の商品は早々に売り切れていく。とりわけ,壱岐島内では圧倒的な支持がある食堂のカレー,地元漁協のイカ焼きは昼時になるとハイペースで売れていく。価格帯が多少(高校生や地元に人には)高いように感じても,こうした特別の機会であれば売れることもある。商売はこれだから面白い。
一方で,思うように売上が伸びない店舗もある。企業さんのご配慮で多く商品を卸して頂いている商品でも仕入個数の3割程度が残ってしまったりと,思うようにはいかない。そこで勝本浦から出て,他の地域に出張販売なんてこともしてみたようだ。とにかく売れない時にどうやってその状況を打開するか。そもそも事業機会の探索が十分にできていたのかなど,ふりかえるポイントも多々出てきた。
また,今回のマルシェの収穫の1つと言えば,島内にあるもう1つの高校からバンドが参加してくれたこと。過去2回のマルシェでの課題は,壱岐商業高校主催のイベントだけれども,もう1つの高校の生徒さんにも来てもらえるような仕掛けを作ることだった。それが,市内で行われたある発表会で壱岐商業高校の生徒が報告し,それを聞いたもう1つの高校の生徒が「参加したい」と言ってくれたそうだ。そこで,バンド出演が決定した。
こうして2回目の「壱岐エテマルシェ」は終了した。当初の売上目標に対して75%の進捗であったが,昨年度よりは売上を伸ばすことができた。ここには壱岐商業高校の他の課題研究で開発した商品やキッチンカーの売上を含んでいない。よって、トータルではもう少し売上が上がっていたかもしれない。こうして今年のエテマルシェは終わった。
スプラウトとして壱岐商業高校の授業はあと1回ある。ここまでの4回の授業と今回の出店を踏まえてのふりかえりだ。また10日後、学生とともに壱岐へ向かう。
売上云々はさておき、こうした経験が本プログラムに参加してくれている高校生にどんな影響を与えたのだろうか。「成功したね、良かったね」よりも多少の課題感、物足りない感があるくらいがちょうど良い。彼・彼女たちが本音ベースでどんなことを感じたのか。聞きたいところではある。
ふりかえり
高大連携アントレプレナーシップ教育プログラム「スプラウト」を展開して5年目。おかげさまで,どんどん展開が広がっている。そうした中で,今回は長崎県壱岐市でのマルシェと宮崎県日南市での授業(オンライン)を同時に進めるというチャレンジをした。
しかも,学生にとっては合宿直後でもあるし,私も学会報告のため日帰りで静岡へ行かざるを得ないという環境の中でのプログラム。無茶苦茶なんだけれども,今年も学生たちだけでプロジェクトを任せることができるところまできた。グイグイと成長しているように見える。
ただし、今日の日南への授業実施については多少の課題がある(細かいところでの理解度がまだ高くない)。それでも、ただでさえ難しいオンライン環境の中で大きなトラブルもなく安定的に進められたことは良し。本当によくやってくれている。昨年までもそうだが,今年も学生たちが(いろいろとチャレンジしたくて仕方がない教員のせいで)チャレンジせざるを得ない状況でも明るく楽しそうにしていることがせめてもの救い。
もし壱岐でのマルシェが来年もあるのだとすれば,昨年と違って今度は丸1年後になる。となると,ここまでの授業内容ももちろんだが,今年どんなことをどのタイミングで決めたのか,どう協力を募ったのか。今年はほとんどが高校側の動きで決めて頂いた部分があるが,「スプラウト」を確固たるものにしていくためにもこのあたりのノウハウはしっかりと学んで,他地域での横展開を図れるようにしていきたい。
スプラウトも、学校との連携で進むパターン、地域との連携によって学校に入るパターン、地域主体でプログラムを実施し、講義を提供するパターンといくつかの類型化ができるようになってきた。また、5回フルバージョンもあれば、アントレプレナーシップについて1回だけ授業を行うパターンもある。こうして多様な授業提供ができるのも、春から進めてきた授業内容の標準化、パートの切り出しの成果だろう。それもこれも学生のおかげ。
次は2日挟んで月曜日に飯塚高校での第1回授業が始まる。本来第1回授業は7月中に実施する予定であったが,大雨のため通学できない生徒が出たために中止になった。ここでは3パターンの授業を展開する。準備をすでに終えているとは言え,夏休みでなかなか学生と擦り合わせもできていないので,老婆心ながら心配している。ぜひ頑張っていきましょう。
余談
先日の天草合宿において,苓北町で町長と面談。どうやら中学生向けの「スプラウト」が始まりそう。日南も遠いが,天草・苓北もそれなりに遠い。史上最大の難易度になるかもしれない。が,救いはこの話をした時に学生が「僕行きたいです!」と言ってくれたこと。甘えてはいけないが,そういう学生に支えられていることに改めて感謝したい。
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