大学生の授業は高校生の心を動かせる|2022日田三隈高校×とびゼミコラボ授業②
7月も早いもので13日。3年生4人を乗せて大分県日田市に向かうことに。昨年からコラボ授業を始めた県立日田三隈高校へ。
日田と言えば全国的に暑い街として知られている。最高気温は33℃。真夏には40℃近くまで上がるのでまだ低い方なのかもしれないが,盆地だから蒸し暑い。恐らく授業をする体育館も暑そうだが,その暑さを吹き飛ばすほどの若い力に期待。
今回は日田三隈高校でのアントレプレナーシップ授業「みんなが社長プロジェクト」の第2回の模様について記していきます。
前回の授業の様子はこちらから。
日田と言えば|授業前に日田を知る
まずは日田で腹ごしらえとして名物の日田焼きそばを。地域の名店で行列ができる三久(さんきゅう)へ。今日は授業もあるし控えめにしておこうと思ったのに…。画像の通り大盛りにしてしまいました(笑)
さらに少し時間もできたし,学生はこれまで日田に頻繁に来ててもゆっくり街の様子を見る機会もなかった。そこで少し市内観光。写真を取りそびれてしまったが,まずは口直しと清涼感を求め,地元の味噌・醤油メーカーの原次郎左衛門が出している24色ラムネを頂きに。
さらに,少し車を走らせて,私も愛用している日田下駄のメーカー,本野はきもの工業へ。学生たちは下駄を手に取りながら,「いいですねぇ」「これかわいい!」と欲しそうに眺めている。
ちょっとした時間に過ぎないが,地域に根ざす産品にどのようなものがあるのかを知ることも貴重な学びになる。特に日田は江戸時代天領として栄え,九州の交通の要衝として重要な場所だった。それだけに街にはさまざまな遺構が残されているし,歴史ある街独特の趣もある。それを少し体感できただけでも価値があったようだ。
2回目の授業|今年度は2コース,3プログラムからの選択制に
2022年度4校で実施する高校でのアントレプレナーシップ教育。この日田三隈高校でのプログラムは他の3校とやり方が異なる。ここでは授業3回と実践1回を基本セットとしているが,全員が実践を行うわけではない。2年生100名ちょっとを2つのコース,3つのプログラムに分けて授業を行う。つまり,座学と実践の2コース,そして実践コースにカフェとアパレルでの出店を行う2プログラムを用意している。
前回の授業では実践コースの内容を話し,参加希望者が先生に申し出るようにしていた。結果,カフェに7人,アパレルに19人の合計26人が参加することに。在籍している2年生の3割近い生徒が実践的なプログラムに参加したいと手を挙げてくれた。まさに,前回のnote『上級生が下級生のロールモデルになる』の通りになった。これは嬉しい。
これを受けて,今回は8/6-7の出店前最後の授業ということもあり,実践コースはそれぞれのプログラムの概要と打ち合わせ,座学コースはアントレプレナーシップとコレクティブ・ジーニアス,将来のキャリア形成との関わりについて授業を行うことにした。
なお,プログラム全体の予定は次のような感じ。
今回は2022年度第2回授業の様子を述べる。
座学コース|アントレプレナーシップとコレクティブ・ジーニアスを学ぶ
まず,(こちらで勝手に名付けた)座学コースでは,体育館に80名ほどの生徒が参加した。暑い日田でエアコンのない体育館。大きなファンを4台回し、熱中症に気をつけながらの授業。
午後の授業ゆえに眠たいだろうが、今回のこのプロジェクトでは実践を行う2コースだけでなく、実践には参加しない生徒向けにも授業を提供する。後に述べるように、実践コースはそれぞれ出店までの時間が限られているのでカリキュラムもタイトであるのに対し、座学コースは9月のふりかえりの時間と合わせて2コマある。
そこで、今回は「アントレプレナーシップとコレクティブ・ジーニアス」の話に加えて、そろそろ進路が気になる2年生向けにキャリアの偶然性、リスクと不確実性への対応について話すことで、短絡的ではなく、複線的にしなやかなキャリア構築を考えてみようという趣旨の授業を構成することにした。
まずは、私たちが高校に授業しにきた理由を話す。
それは「アントレプレナーシップ」を教えること。起業をすることではなく、一歩踏み出す勇気を持って課題に対してジブンゴトとして捉えられるようになること。ただし、それは1人ではできないこともあるから、その個々人の能力を目的実現のために活かす「コレクティブ・ジーニアス」という考え方が重要。
そのことを伝えるために、学生は昔話「桃太郎」の動画を見せた後に、鬼退治に向かう桃太郎、きび団子をもらって大活躍するそれぞれの動物たちの例を用いて、手際よく高校生にもわかるように説明していく。
続いて、このプロジェクトのマネジメントをされている岡野涼子さんにご登場頂き、Uくんとの対談形式で授業が進む。さすがは元テレビレポーターだった岡野さん。自分史を語りながら、私にとって「鬼」はなんだったのかと、地域のあり方、若い人の働くことへの意欲など、何と向き合って事業を営んできたのかを伝えていく。
Uくんもうまく岡野さんのコメントを拾いつつ、自分が高校生の時に思い描いていたキャリアと今がいかに異なるかを語る。そして、今があることが喜ばしく、「キャリアの8割は偶然で築かれる」ことを引き合いに出しながら、高校生に向けたメッセージを伝える。
また、リスクと不確実性についても語り、人間は利得が確定していればそれを取りに行くが、損失に見舞われる可能性があるときはギャンブル思考に陥りやすいことを説明する。こういうことを知っておくことで人の思考の癖がわかるし、何より自分のキャリアにとって確実なものはないのだから、今学ぶべきことをしっかり学び、選択肢を増やしておくことが大事なんだというメッセージを伝えようとしていた。
授業としてはもう少し練る必要があったかもしれないが、高校生に言わんとしたことがしっかりと伝わっていたのではなかろうか。ま、リスクと不確実性の話は大事だから、もっとゆっくり噛み締めるように落ち着いて授業できているとなお良かったのだけれども。
実践コース①|TANEMAKI by SPINNSとのコラボ
続いて実践コースからTANEMAKI by SPINNSの授業。と言っても、私は同席していないので、あくまでも報告をもとにした内容。
今回の授業ではアイスブレイクはもちろん、服を選ぶ楽しさを疑似体験するために、SPINNSの宮崎さん福岡の店舗から、そのサポートをしている2名の学生が高校から授業をするという形態に。
しかし、高校のWi-Fiになかなか接続できず、ZOOMでの中継が始まらない。それでもだんだん即興的に対応できるようになっている学生たち。冷静に落ち着いて対応。自己紹介を交えつつ、チーム分けなどを段取りよく進める。
中継が始まってからは「カワイイ!」「あれよくね?」といった感じで高校生同士が服を見ながらキャッキャッ言っていたそう。手を挙げて積極的に発言というわけではないけれども、大学生が語りかけると自分の意見を言ってくれたりしたそう。
高校生にもなれば自分の好みのファッションをしたくもなるでしょう。自分がアパレルで働くというイメージはなかなか持てなかったかもしれないけど、こうして授業の中で機会を設けることの意味みたいないことを考えさせられる。先生方もヒヤヒヤだろうが、学生の授業を温かく見守ってくださる。普段教室で見せない顔をした生徒の様子は先生方にどう映ってるんだろうか。
実践コース②|BESIDE COFFEE STANDとのコラボ
最後は実践コースもう1つの学生によるポップアップカフェ、BESIDE COFFEE STANDによるもの。こちらは授業の様子を録画してくれているので、それをもとにふりかえってみよう。
今回授業を担当するのは、現在BESIDEプロジェクトのリーダーを務めるNくん。地域に関わるプロジェクトに一生懸命取り組んでいて、先週末はTANEMAKIをしに彼の地元島原に行っていたのだそう。
壱岐商業高校とのプログラムでも、そして昨年度から日田でのプロジェクトでもカフェ事業を営んできたこともあり、落ち着いて授業を進めている。
まずはプロジェクトの全体像を説明。前回の授業で私が話した利益最大化の条件から入り、今回のプログラムの目的・目標を示す。出店にあたっては「みんなが社長プロジェクト」からチームごとに1万円が出資され、その範囲内で物品を購入し、商品開発して利益を出すことを目指す。
今回のこの取り組みは2021年末から2022年年始にかけて行ったプロジェクトを基盤とし、1日目は商品開発、2日目に商品を販売するというプログラムになっている。その後のふりかえりの内容を含めて地元紙にも取り上げて頂いた(何度もこのnoteで書いてますね)。
今年も原則それを踏襲するが、今年は夏休み中の活動ということもあってなかなかスムーズに進まなさそう。高校生は夏休み、学生は期末試験期間に入るのもあって、連絡をいかに綿密に取っていけるかが重要。今年も昨年同様7人の参加があったので、2チームに分けて実施。昨年もカフェだけのプロジェクトならほぼ同人数。昨年の生徒はその後も学生の出店をお手伝いしてくれたり、日田観光祭の際にも頑張ってくれたそうだ。これから進路のこともあって手伝うという機会があるかわからないが、後輩が先輩のそれを見ながらちゃんと学んでいるんだなと。
生徒が記入してきたワークシートを見る限りでは商品開発までにたどり着くかも不安。実際に先生とやり取りしていても、「大丈夫かな?」と思ってしまった模様。が、今年は元々BESIDEのファンになってくれている女子生徒がいて、Instagramのフォローをしてくれているそうだ。そうやってフックになる場所を作ることを少しずつ、少しずつ。
なんやかんやと定着には時間がかかるかもしれないが、少しずつでも常連のお客様をお迎えできているBESIDEにはますます期待したいところ。
ふりかえり|ナナメ上の関係だからできること
こうして日田三隈高校での2回目の授業は終了。50分1コマだったが、折からの暑さもあってぐったり…。学生たちがよく頑張ってくれた。
特に私も同席していた体育館でのアントレ授業は生徒にも響いていたよう。これまでは座学+実践を基本ベースとしてきたが、今回の座学コースのような授業の座組みでも高校生の心を動かすことはできたというのは大きな収穫だった。昨年度の実践した3年生が何かを気づいてくれるのは理解できるにしても、授業にロールモデルになり得る人をお呼びして話をすることの効果。少しでも関心を持てるように導けるというのは、まさに理論通りとも言える。
今回の座学コースが高校生の心を捉えられた理由はいくつかあると考えられるが、高校生にとってとても難しく、身近ではないアントレプレナーシップについての授業を、大学生が澱みなく話していたことに驚いていたそうだ。また、岡野さんや学生のここまでの歩みを聞いて、人生いろいろだと気づいたり。限られた時間の中で伝える内容を絞り込んで授業を設計したことが功を奏したのだろう。
そうした話が高校生の心を捉え、専門学校に進むか、大学に進むか、相談があった。いや、厳密には「大学に行く意味ってなんですか?」と鋭い質問を投げかけてくれた。ほんと若い人はちょっとした機会で気づき、成長するもの。羨ましい。
それは大学生にとっても同じで、繰り返し高校生と触れ合い、授業というファシリテーションを行うことを通じて多くの学びを得ている。高校生からも大学生が学んでいる。まさに相互にGiveし合う関係になっている。だから、大学生はますますもって高校生により良いプログラムを作ろうと努力する。
もう十分なおじさんである私には高校生の心を動かすのは難しくても、少し年上のお兄さん、お姉さんである学生の話は高校生も真剣になって聞いてくれる。また、彼らが学校に行けば、高校生たちはキャーキャー騒ぎ、学生が一躍アイドルのようになる。アイドルの話は聞いてくれるし、彼・彼女にとっては憧れの対象になっていく。まさに、ナナメ上の関係だからできていることだ。そして、その関係があるから、高校生の心も動く。学生の持つ力の大きさに敬服する。
先日、1回目の授業の翌週に校長先生とお話する機会を頂いた。その目的は研究のためのアンケート調査実施のお願いだったが、ひとしきりお願いを終えた後、しばらく教育談義になった。まさにこれまでここに書いてきたようなことを話し、その狙いは何なのかについて語った。おかげで納得してくださったことで、大学生に授業を委ねて頂いている。ここからはいよいよ8月の実践に向けた準備段階に。福岡と日田では相応の距離があるので細かな調整が難しいかもしれない。これを克服するために高校には多くのご協力を頂いている。生徒に対する細かなサポートをしてくださっている。
それに対してわたしたちができることは授業カリキュラムの開発を怠らず、研鑽あるのみ。が、ここ最近のnoteのトーン、内容が似てきていることが気になっている。どこでも同じような記事を書き、発表しているだけ。読んだ論文の学び=貯金が少しずつ無くなってきた感がある。これはまずい。夏休みは彼・彼女たち以上にインプットしまくらないといけない。
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