九州全県にスプラウトの種を蒔いた|2024スプラウト多久高校①
2025年を迎えました。明けましておめでとうございます。今年も宜しくお願いします(果たして読者はいるのだろうか(笑))。
さて、2025年に入って一発目の高大連携アントレプレナーシップ教育プログラム『スプラウト』は新たな進出地である佐賀県多久市へ。多久高校は佐賀県多久市に位置する県立高校で、商業ビジネス、人文科学、社会福祉、工業技術の4系列から構成されています。この多久高校への進出により、スプラウトは九州各県で実施できることになりました。
しかし、折からの猛烈な寒波襲来で九州北部山あいは積雪の影響を受けて一部通行止め。福岡市内でも西鉄バスが朝から運休、日陰ではアイスバーンができていて学生に運転させるわけにはいかないと判断。前夜の段階でJRでの移動に切り替え、チケットを予約。それでも交通障害の影響で2名が所定の列車に間に合わず、1名がバス運休の影響で自宅から遠隔参加に切り替え。バタバタのスタートに。
10:19発の特急で佐賀、そこから唐津線で多久まで。約1時間半の列車の旅は快適そのもの。列車でなければゆっくり見ることもないだろうという景色を堪能しつつ、12時前に多久に到着。
ランチは多久の名物でもあるアムールのカツカレーを頂きました。電車に乗り遅れてしまった学生も後続の列車で到着して合流。そして、いよいよ多久高校に到着。授業が始まります。
今回はこの多久高校での記念すべき第1回授業の様子をお届けします。
いよいよ2年生のデビュー戦
13時過ぎに遅れていた後続をピックアップして多久高校へ。雪がちらつく寒空であるにも関わらず,担当の商業科の先生方が外でお待ちくださった。すぐに応接室に通して頂き,校長先生からご挨拶,教頭先生から授業に至る流れをご説明頂いた。
今回の取り組みに関する学校側の期待は大きく,県庁の地方創生担当部局,地元新聞,ケーブルテレビと多くの来客。おまけに協定書に調印まですることになった。あ,協定はあくまでも「飛田ゼミ」とのものです。
そうしてバタバタしている中でスタートしたプログラム。緊張の中,2年生の授業がスタートします。
1コマ目:アントレプレナーシップとコレクティブ・ジーニアス
今回のプログラム,ゼミ側の主旨としては「代替わりを円滑に行う」ことだろう。ここまで中心期としてゼミを引っ張ってきた2022年入学生から,ゼミに入って半年足らずの学生=2023年入学生へのバトンタッチを図る。そのため,今回のプログラムには8名の学生が参加したが,2名が3年生(プロジェクトリーダーと佐賀県出身者),6名が2年生(このうち1名が佐賀県出身者)の構成。
前半戦授業を担当したのは,この『スプラウト』のプロジェクトリーダーではなく,日頃は和太鼓部で活躍中の男子学生。事前にスライドをもらっていて気づいていたのだが,少しでも自分たちの言葉で語ることができるようにとアップデートをしている。ここまで引き継がれてきたレジュメとスライドをそのまま活用しようとするのではなく,少しでも自分の手で触ったものにしておこうという意欲が素晴らしい。
一方,多久高校側は商業ビジネスコースに在籍する1-2年生が参加。1年生約30名は学年全体で,2年生約10名は希望者が参加。インフルエンザのために欠席した学生が相当数いるが,高校生は6つのグループに分かれる。
授業はアイスブレイクからスタートし,自己紹介を含んだワークショップを行う。スタートは授業日の1/10に最も近い誕生日の人からで,以後時計回りで当てていくという趣向。どうやら2年生は男性と女性でグループ分けができ,お互い仲が良いこともあってコミュニケーションが取れているが,1年生はクラスが混成されていて,ここで初めて話をする生徒同士というのもあるようだ。
よって,グループワークの盛り上がり方が異なる。コミュニケーションが取れている2年生側は意見がいろいろと出てくるが,1年生側はそれなりにしんどそう。それぞれレジュメには書き込みをしているし,意見を持っているのに「正解思考」や「恥ずかしさ」が邪魔をする。どこの高校でも同じようなことがあるが,こういうのは思春期特有のものなのか。
アントレ教育の目的の1つには「自分自身をブレイクする」がある。無理して殻を破れというわけではないが,議論をする,自己開示をする,互いの考えを行き来させることが他者への貢献という意味を含む。しかし,そこがなかなかうまくいかない。学生たちは一生懸命話しかけていくが,人間関係の構築を図りながら授業を進めていくのはやはり難しい。
しかし,授業を見学されていた先生方は驚きの感想をお持ちのようだった。ハニカミながらも話そうとする高校生たちの姿,それを引き出そうとする大学生たちの様子を見て「うちの生徒もあんな顔するんだなと思いました。生徒が羨ましい」と。それまでも大きな期待を持って『スプラウト』の開始を待ち望んでいるとは聞いていたが,こうした様子を見て先生方にもご納得頂けたようだった。
こうして無事に多久高校での『スプラウト』がスタートした。
2コマ目:理念→戦略→計画
続いて2コマ目。こちらもオーソドックスに経営理念を起点に戦略,計画を創るための基本的な知識についての解説を行う。授業担当者は別の男子学生。緊張しながらも淡々と授業を進める。こちらもスライドに使用する絵やフォントを替えながら,高校生にとってだけでなく,自分でも理解しやすい資料に作り替えている。
これまでも何回もこのnoteで書いてきたように,企業経営の目的として『スプラウト』では経営理念から話す。そもそも我々はなぜここにいるのか。なぜこのビジネスをするのか。ここで言うなぜは大きなことを言う必要はない。このビジネス,いや商売という行為が自分と他者をどのように結ぶ意味を持つのかを表現してみようということ。そして,その理念=志が自分を駆動させるものであること。その理念を実現するために,どのような戦略を用いてビジネスモデルを構築し,当座の目標を達成するために具体的にどのような活動を行うのか=計画を策定する。この一連のプロセスを通じて,商売というものがある程度計画性を持って行われるものだという理解を促す。このこと自体は大学生が講義をしつつ,彼・彼女たち自身もその重要性への気づきを得て欲しいと願っている。
ここでの事前学習は,定石通りコンビニエンスストア3社を取り上げ,各社経営理念の違いが戦略や行動,メイン商品の違いなどの差となって表れていることへの理解を図る。また,授業でのグループワークは定番のお祭りワークで,今回は周辺に競合がいる中で類似商品をどのようにして販売するかを考え,ロジックを組み立てるものであった。
2コマ目になると次第に空気も温まってきたこともあるのだろうか,だんだん高校生たちの発言も多くなっていく。ただ,同一性別であれば話が弾むようだが,1チームだけあった男女混成チームではコミュニケーションを取るのが難しそうだった。3年生がグループワークに入ってコミュニケーションを円滑にしようと試みるが,なかなか岩盤が固い。無理強いしても仕方がないのだが,このあたりはどうしたら良いのだろうか…。
それはさておいて無事に授業は終了。少し時間を超過したが,関わる誰もが満足したように見えた。次回は2月21日と1ヶ月以上開く。そのために上記の画像のような課題を出した。
1つは自分たちの店舗の経営理念,戦略,品目,原価の算定を行うこと。これについてはすでに学校側で品目リストを出しているそうなので,直に決まるだろう。
もう1つはイベントそのものの企画をどうするか。ゼロから新しく始まるプロジェクトであるし,これは高校生たちに主体的に取り組んでもらうことを目的にしたプログラム。よって,名称,イベント開催の目的,ターゲット,告知方法を自分たちで決めましょうと。高校生と大学生との間のコミュニケーションはPadletを活用することになっているので,遠隔地でも問題なくできる(が,このあたりのリテラシーが必ずしも高くないのがこの世代の課題でもある)。
授業後のふりかえりによれば,この話を聞いたときに一部のチームでは「ああしよう,こうしよう」と話していた生徒がいたとのこと。グループでの活動はなんとかなるにしても,イベント全体の運営を高校生主体でやり切れるかどうか。このプログラムを通じて周りの仲間だけでなく,先生方,地域のみなさん,他校に通う友人,保護者など,いろいろな資源を活用するスキルを身につけられるといいな。それこそがアントレプレナーシップを学ぶことそのものなのだから。
ふりかえり
こうして代替わり最初の授業は無事に終了した。雪がちらつく中,殆どの学生にとっては縁もゆかりも無い場所に来て授業をするだけでも大変だっただろう。先生方が「初めて授業したんですか!」と驚かれていたように,学制のポテンシャルが引き出された良い機会だった。もちろん,細かな授業を進めていくスキルについては指摘するべき点があるものの,ここから成長する余地を感じさせる機会になった。
ふりかえりはSCOLカフェでお茶を飲みながら。それぞれ2年生からのコメントに引き続き,3年生からもコメント。一定程度の評価をしつつも,彼女たちが先輩から言われてきたことを改めて指摘する。どこかで見てきた景色。が,こうしてゼミ全体のレベルアップを図ってきたのだし,私が直接的に指摘するよりも良いだろう。課題は多々あるけれども,「できたこと」からその人の良さを引き出していこうとする。かと言って,できなかったことを放置するわけでもない。こうした姿勢は,すっかりこのゼミに根付いたように思う。ここから2年生がどこまで成長するか。これからの楽しみでもある。
ふりかえりを45分ほど行って17時過ぎの列車に乗車。多久では着席できたものの,小城から大量の生徒が乗車してきて車内はあっという間に満席に。佐賀駅からは特急列車に乗り継いで博多に到着。すっかり疲れ切っていたようだが,学生たちの顔つきは少しだけ逞しくなったように感じた。