1クール終わって得られる気づき|2023 壱岐商業高校スプラウト⑥
壱岐・勝本浦を舞台に実施した「壱岐エテマルシェ」を終えて10日足らず。今日は朝から壱岐へ向かい、新学期が始まった壱岐商業高校での最終回の授業を行いました。
今回この授業を行うため、同行してきた学生は4名。明日から大学の行事に向かう人、つい先日まで帰省していた人、プロジェクトで諸々忙しい人さまざまですが、夏休み終盤になってそろそろ進路のことも気になる時期。そんな忙しい中で時間を割いてくれている彼女たちに感謝。
さて,「スプラウト」の最終回はふりかえりと決まっています。なので、今日の授業も高校生とこれまでの授業内容、エテマルシェ当日の営業成績と自分たちの活動成果を見ながら、90分間でふりかえりを行うことにしました。
ということで、今日の授業の様子をお届けします。ぜひ最後までご一読ください。
なお、これまでの授業の様子は以下のマガジンをご参照ください。
1コマ目:確認をするようにここまでの学びを振り返る
13:10授業開始。今回の授業担当は、本プログラムのリーダーであるHさん。事前の打ち合わせでも緊張するを連呼しつつも、淡々と授業を進めていく。
5月30日に現地での授業から始まった2023年の壱岐商業高校でのスプラウト。その時は生徒も学生も緊張してて、どこかぎこちない空気で授業が進んだ。そこから3ヶ月ちょっとの間に3回の授業と1回のマルシェを実施して,互いの距離感が縮まっていった。
初回授業とマルシェは対面で,2-4回目の知識を学ぶ授業はオンラインで。「スプラウト」を九州各地で広げていくには,オンオフを組み合わせた授業でどれだけ成果を上げられるかということも重要になる。その成果がいかなるものかを測定する重要な機会が今回の授業だとも言える。
今年度の「スプラウト」は,各地の授業を標準化しようという挑戦をしている。第1回の「アントレプレナーシップとコレクティブ・ジーニアス」から始まり、第2回の「理念・戦略・計画」、第3回の「組織と個人」、そして第4回の「会計:マルシェの計画策定」と授業の中身をある程度決めつつ,地域の状況や実践機会の創出をどう行うかによって内容を変えていく,密度の濃い授業が行われてきた。
恐らく高校生には初めて聞く言葉ばかりだっただろうし、なぜそんなことを学ぶのかがなかなか腑に落ちないままの授業だっただろう。
最終回では,改めてここまでの授業におけるメッセージをベースに企業経営の基礎的なストーリーに並び替えて概観することで、高校生がやってきたことをふりかえる授業構成とした。高校生がマルシェにおいて自分たちの力でイベントを企画し、販売するという経験をした上で改めて授業を聞くことで、何を学んでいたのかを振り返られるようにした。
マルシェを経て高校生とのコミュニケーションも円滑になったようで、先生役の学生の問いかけにも頷きながら答える。授業を実施したその時点ではわからなかったことも、今となればなぜそんな話をしていたのかが理解できる。ここに反転学習+実践機会の創出によるPBL実施の効果があると言えるかもしれない(本当はちゃんと測定したいが,ここが研究上の大きな壁でもある)。
45分の授業は少しの余裕を残しながら終盤を迎える。これまではオンラインで進めてきたこともあって、高校生と対面で対話できるようになったのは今日が初めてで、そして最後の機会だ。
それまでであれば遠慮して、あるいは恥ずかしがって話をしなかったであろう高校生も、指名されれば自分の言葉で感想を語るようになった。一言ポロっとではなく、事例を挙げたり、根拠を述べながら、自分の意見を述べる。売上記録を見ながら「もう少しできたのではないか」だったり、「起点を効かせて販売方法を変えたのが良かった」といった主旨のコメント。
こうして高校生に成長に手応えを感じつつ、時間を残して1コマ目は終了した。
2コマ目:ちょっとした課題感が残るくらいがちょうど良い
2コマ目は私からのふりかえりワークの授業。いよいよ壱岐商業高校でのスプラウト、最後の授業だ。
冒頭で結果を見ながら、ああでもない、こうでもないという話をし過ぎてふりかえり時間が無くなっていってしまう凡ミス。が、高校生が事前課題を済ませてきてくれていたことで、ふりかえりはつつがなく進行していく。
ここでも高校生の本音がチラホラと。
「正直サボってました。どうにかなるだろうと思ってた」
「安売りがいいと思ってたけど、数売るの大変」
「もうちょっとやりたかった」
そうなんだよね。やってみて分かることもたくさんある。まだまだできたし,学ぶことで自分の常識をブレイクしていくことが大事。
この間,マルシェを成功させるためにさまざまな人が動いてくださったことも理解していただろうか。
2,000枚のチラシを刷って回覧板で島内全戸配布したって、見て行動を起こしてくれる人はわずかしかいない。自分が数人の友達に声かけて呼んでくるだけで客数は増える。Instagramで投稿する手間も惜しんで動かない。来ると思ってたお客はなかなか来ない。そりゃ、そんな簡単に行きませんよと(笑)
「あの商品は価格を上げても良かった。」
「自分たちで価値を作って売るということがどれだけ難しいことなのかよくわかった。」
「日頃見ているお店がこれだけのことをやっているってわかって、ちょっと尊敬した。」
そうなんだよね。本当にそう。そして、こんな声も聞こえた。
「最初の頃は正直なんでこんなことやってるのかよくわからなかった。けど、3回目、4回目って授業を受けているうちにだんだん面白くなってきた。」
高校生にとってこの授業の内容はそう簡単なものではない。最初は極めて抽象的な概念からスタートするし、ジブンゴトとしては捉えづらい内容が続く。商業高校にいるからって,日常的に企業活動に触れているなんて意識することはないだろう。でも,私たちの周りにはさまざまな企業が事業を営み,私たちの生活を豊かにしている。そして,高校生の彼・彼女たちも,やがて働く場所として企業と関わることになる。私たちの生活とビジネスは切っても切れない関係だ。
マルシェをやる、自分たちでやるってことがわかってきて、授業で出てくる事例の意味も理解できるようになる。が、その面白さに気づけることと、ジブンゴトとしてマルシェに臨む、何をすれば良いのかという具体的な活動と繋がっていくかと言えばそうではない。
そういう成長過程にある高校生がどんな学びを得たのか。もっと私たちは耳を傾けるべきかもしれない。
最後はリーダーからの挨拶で終了。これで壱岐商業高校全5回の授業が終わった。感傷に浸る間もなく、教室から退室。
ふりかえり:1クール終えて
授業終了後、港へ戻る道すがら、ちょっとしたふりかえりスタート。
やったらやったで課題は出てくるし、この課題を他の高校での授業に活かしていかねばならない。2023年度、スプラウトの全行程を終えた初めての学校が出たことで、見えてきた課題もあったようだ。
特に「なぜこの授業をやっているのかを高校生がどこまで理解できているか」という点については、授業の前提そのものを問うものでもある。いくらこちらで目的を説明しても、先生方が日頃どこまで生徒に話をしてくださっているのかによって左右されてしまう。そもそもの前提をどう伝えるか。
そこには学校の先生がどのようにこの授業をご覧になっているかという「先生側の視点」も入ってくる,その関与度合いによっても授業実施の難易度が変わるというような話もあった。生徒がモチベーションがあって、やる気があっても、先生方の方で差配してしまって生徒が動き切れないというような相談も学生にあったのだそう。このあたりの高校側の人間関係というか、互いの関係性がどのようになっているかも重要だという話も。
また、授業が「アントレプレナーシップとコレクティブ・ジーニアス」という抽象度が高く、初回で学生の練度が上がっていない中で始まることへの学生の抱える不安と高校生の「何が始まるのか」という不安にどう向き合うか。
あるいは、地域に応じた授業内容や事例の出し方の問題。見たこと、聞いたことがない企業を高校生は想像しきれるか、でないとするとどう地域の状況に対応するか。学生もその地域のことを知っていなければならないよねという話も。
どれもそうで、一朝一夕では解決できない。教員という職業について、熟達度が増すことで対応可能な問題もあれば、高校生に授業するという形を借りて大学生の学ぶ機会を創出しようとしている「スプラウト」とでは教える側に求められるスキルも異なるし、到達点も異なる。むしろ、大学生が伴奏者として授業することでの相乗効果を狙っているし、学生にはジェネレーターとしての役割を期待している。
このあたりを整理して次の機会にどう活かすか。
学生の成長を実感しながら、1クール終えて課題を明らかにして今回のプロジェクトは終了となった。次に壱岐に行く機会はいつになるのだろうか。