高校生のプロアクティブ行動を引き出すカリキュラムが見えた?|2022飯塚高校×とびゼミコラボ授業⑦
この授業の直前,週末に大変喜ばしいニュースが。
飯塚高校サッカー部が全国高校サッカー選手権に初出場が決定!
県大会に優勝しました!
パチパチパチパチ!
先の製菓コースによるスイーツ甲子園優勝に続く快挙。その後も飯塚高校の生徒さんは各所で大活躍してましたが,サッカー部はあの「赤い彗星」東福岡高校を倒しての優勝でした。玄関に優勝旗が飾ってあったのでついつい写真を撮ってしまいました(笑)
それはさておき,いよいよ2022年度飯塚高校での高大連携アントレプレナーシップ教育プログラムも最終回。2年生はすでに全5回+販売実践のカリキュラムを一旦終えて,今日(15日)から修学旅行へ。
今回は1年生向け講義の第5回目。繰り返し述べてきましたが,本年度飯塚高校は創立60周年を迎えることになっており,発祥の地でもある商店街を舞台に文化祭を開催します。10月末に出店した2年生は前回に引き続き,そして今回の文化祭では1年生のトータルライセンスコースの生徒もそれぞれの企画で事業を立ち上げます。
今回はその出店に向けて事業計画書を作成するというもの。なかなかにしてハードルが高い設定ですが,どんな授業が行われたのでしょうか。その様子を報告します。
なお,飯塚高校でのこれまでの授業の様子はこちらのマガジンから御覧ください。
1コマ目:ここまでの総復習(前半)
さて、1コマ目。
今回は文化祭の模擬店における事業計画書の作成がテーマ。が、その裏側にはこれまでの総復習ができるように構成されている。
すなわち,これまでの各階の授業テーマだった「アントレプレナーシップとコレクティブ・ジーニアス」、「経営理念と経営戦略」、「組織的に目標を実現する+自分自身のキャラクターをいかに活かすか」、「付加価値と付加価値創造プロセスとしてのマーケティング」。学生がこれまでの4回の授業を通じて伝えてきたことをこの1回で総ざらいするという意欲的な授業構成になっている。
この飯塚高校でのプログラムは4年生が主力で構成されている。彼・彼女たちは昨年の福岡女子商業高校(女子商)での授業を作ってきた経験がある。その上で飯塚高校では前年できたことはもちろん、できなかったこと改善してみたり、彼・彼女たちなりにさらにブラッシュアップしていくチャレンジも見られた。当初はどこか及び腰だった4年生も徐々に授業に参加してくれるようになって,これはこれで良かったのだと感じている。
例えば,1年生を担当した学生は,こちらが提示した授業カリキュラムに則りつつ,そのカリキュラムから何を伝える必要があるのかを考えながらオリジナリティを発揮してくれた。必要であれば動画を探し,スライドも(著作権の問題も一部あるけど)1年生が概略だけでもイメージを持てるような工夫を凝らしていた。そういうチャレンジする姿勢が授業のサポート役たる2-3年生にも伝わり,他の高校の授業の中身が濃くなっている印象がある。
そうした中での1コマ目のグループワーク。
まずは,本授業の前半のカリキュラムであった経営理念を中心軸に,各グループの経営理念と店名を決め,今回の文化祭で販売する商品やサービス(射的/ストラックアウト/ワッフル)をどうお客様に伝えるかを考えるというもの。ここではいきなりそれを決めるのも難しいので,今回サポート役になっていて,創業体験プログラムの一環で七隈祭に先日出店した2-3年生の事業計画と販売成果について発表した。
これを聞くだけではなかなかイメージしづらいとは思うが,高校生たちはメモを取りながら真剣に話を聞いてた。ただ,何を自分たちがこれから決めなければならないのかは理解していたようだ。なぜなら,この時間の終わりに各グループからの発表があったが,射的を行うグループからこんな経営理念が提示されたからだ。
地域の人の心を射止めよう
射的にかけた洒落た経営理念だけれども,7月に初めて授業したときにはまさかこんな言葉が出てくるとは思いもしなかった(笑)。まだ高校に入学して3ヶ月でコロナ感染対策も厳しく,教室には「黙食」と書かれているような状態。ほとんど周りの人とは会話もせず,教室は陰鬱とした感じすらした。それはもちろん「大学生が高校に来て授業する」という普通にはないシチュエーションだったことも影響しているのかもしれない。が,今や高校生は大学生に対して自分から話しかけるし,投げかけにも答えてくれるし,自分たちの活動を伴走してくれる人がいるという信頼関係のようなものを感じさせてくれた。
思わず声が上がるような経営理念が策定されて1コマ目は終了。
2コマ目:ここまでの総復習(後半)
続いて2コマ目。
ここでもまずは講義からスタート。前回の授業で取り上げた「利益」の意味とそこから導かれる組織として(あるいは企業としてと言うべきか)取るべき行動について説明が行われた。
この1年10組というのは飯塚高校においては「総合学科トータルライセンスコース」であり,資格取得を目指すコース。授業は商業系の科目があり,簿記も学ぶことができる。とは言え,彼・彼女たちの中で簿記という技術が企業活動を記録する方法であることは理解していても,それが実際にどう結びついているかを理解できているとは限らないし,「利益の意味」など考えたこともないだろう。が,今一度,学生からはその意味を説明され,その利益を最大化するには収益を最大化し,費用を最小化する,その裏側には収益を最大化するための戦略,費用を最小化するための仕掛けが必要になることを教わったし,改めてその概念を使って自分たちの事業をどう成立させるかを考えていくことがこの時間の課題。
そうこうして2コマ目のグループワークに移る。
ここでは収益,費用の関係から利益を最大化するための販売個数,売価,販売戦略を考えようというもの。まさに前回授業で大学生が教えたマーケティング戦略,とりわけ付加価値を大きくするような差別化をどう行うかを考えるお題が提示された。
そして,ここから大学生がサポートに入りながら,高校生と一緒に試行錯誤の時間。射的,ストラックアウト,ワッフルのそれぞれを,ある一定の価格で顧客に納得してもらえるような商品・サービスにするための知恵出しが始まる。各クラスには学校から予算が割り当てられているが,ここではその予算を3等分し,その中で模擬店を出店することになる。だから,その予算の中にも収まる事業を計画するという難しさもある。
例えば,ワッフルでは生産可能な個数が少なくては販売個数が稼げないのでオペレーションを考えなければならないし,差別化しようと多品種少量生産をしようと思えば,やはりオペレーションが複雑になる。かと言って,品目数が少なければ顧客の支持が得られないかもしれないというジレンマをどう解決するかといったようなことが話し合われていた。
そうこうして2コマ目の授業もあっという間に終了。最後は学生から高校生に向けて一言ずつメッセージを伝え,授業を終えた。
私は一足先に控室に戻ったけれども,学生たちはなかなか戻ってこなかった。きっと高校生と別れを惜しんでいたのだろうか。また月末に会うことになってるんだけど(笑)。
ふりかえり:次第に高校生がプロアクティブに動くようになってきた
以上で飯塚高校における2022年度の授業は終了。あとは今月末に控える文化祭での出店を残すのみとなった。
2年生は一度出店を経験し,オンラインで大学生とのふりかえりを行っている。中には自分で書店にかけあって店主と次回の出店に向けた交渉を行ったり,修学旅行で訪問するスパリゾート・ハワイアンズでアロハシャツを譲ってもらってTANEMAKI by SPINNSが企画している「愛情循環」(極めてわかりやすく,誤解を恐れずに言えば,着なくなった古着を集めて,値決めして販売するという取り組み)で販売できないかというようなことを提案してきたそうだ。前回の出店前にも高校生が近くの小学校に営業しに行ったりと,自分たちにできることは何かと自分たちで考えて動くようになったと先生方も喜んでくださっている。
それは1年生の今回の授業でも伺うことができた。どうせやるなら少しでも多くの人に買ってもらいたい。そのためにできることは何かを考える。各チーム10人の中にはチームを引っ張るリーダー役のような生徒が現れる。それをサポートするフォロワーもいる。わからなければ大学生や先生に質問を積極的にする。イベントが近づくにつれて生徒のテンションが上っていく。
まだ調査をしているわけではないので,こうした事象がそうだと結論づけることはできないが,これがアントレプレナーシップ教育であったり,PBL(Project Based Learning)の教育効果だとは言えるかもしれない。つまり,受講後における生徒のプロアクティブ行動(組織からの期待に応えるために、自ら行動を起こして学んだり、組織に馴染もうとしたりする行動)がもたされているのではないかということ。実はこの点については次の調査で行う予定にしていたのだが,この時点でこうした成果が定性的に(私の感覚的にと言うべきか)得られていることは自信になる。
この点,高校生の場合はクラス内における人間関係等が大きく影響するので,このプログラムが彼・彼女たちに影響を与えているとは言い切れない。ただ,以前別の高校では「まさかあの生徒がこのプログラムに参加するとは思ってもみなかった」というコメントを頂いたこともあり,クラスで目立つような生徒だからこういう活動に積極的,目立たない生徒だから消極的と決めてしまうのは早計。あくまでも1つのキッカケに過ぎないわけで,どこに生徒の可能性を拓く機会があるかどうかはわからない。
授業終了後,担当の先生方,校長先生,理事長先生とご挨拶を頂く中で,「生徒の中に確実に今までなかった何かが生まれ、60周年の飯塚高校の新しい始まりの、1つのスイッチを押していただいたと思います」というお言葉を頂いたりしたのは,この活動を続けてきた成果と言っても良いだろう。恐らく,当初は先生方も「本当に大学生に授業させて大丈夫?」と思っておられただろう。そうした中でも回数を重ねるごとに授業の力量が上がるとともに,店舗出店における高校生とのミーティング,各所との交渉を通じて次第に学生に対して信頼頂くことができたこともあっただろう。そうしたことの積み重ねが(今の時点では)ポジティブな影響をもたらすことができたと言えるのかもしれない。
また、大学生側からもこんなふりかえりが出てきた。
私が高校生の様子を見ながら感じていたことを、大学生目線で授業をしながら同じように感じ取っていたということ。先生と生徒という縦の関係ではなかなか難しいところを、学生という少し年上にお兄さん、お姉さんが介在すること、ジェネレーターとしてともに答えを持たない状況で自分たちにとって望ましい解とは何か、それを解くためにどのような問題を解けば良いのかを示したこと、それを体感できるところまで持って行けたことは素晴らしい。
何より、このnoteに彼が書いているように、プログラムのもう1つの狙いである「授業を通じて大学生が学ぶ」を実践し、回を追うごとに自分の成長を振り返りつつ、できたことに自信を持てるようになったことが嬉しい。
兎にも角にも,それぞれの立場でそれぞれが切磋琢磨できる環境を作れていることは望外の喜び。もう自分の役割はこれで終わりにしても良いのかもしれない。
お礼
それもこれも,関わってくださった皆様のおかげです。暖かく見守ってくださった飯塚高校の先生方,生徒のおかげです。無茶に付き合ってくれた4年生はじめ,学生のみんなのおかげです。本当にありがとうございます。
まだ11/26-27の文化祭がありますので,引き続き宜しくお願いします。
余談
ほんと棚ぼたなんだけれども,九州移住ドラフトから始まったつながりが,商店街,飯塚高校との連携という活動へと進化しつつある。市は今後できる商業施設の整備に関心が強いようだが,付加価値の創造,地域への分配を考えれば足元のこうした活動を疎かにはできない。
壱岐,日田,飯塚とそれぞれの地方都市にある高校と連携しながら活動しているが,それぞれで地域との関わり方が異なる。そこに住む大人は彼・彼女たちに何を残そうとしているのだろうか。地域の最高教育機関で学ぶ高校生をどう見ているのだろうか。そんなことを考えながら,私は何を追いかけているのかとだんだんわからなくなりつつもあったりする(笑)