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スタートアップを対象としたMCSデザインの研究における壁?
この月曜日,投資ファンド氏からのお誘いで,先日ディスカッションをした経営陣とMCSのデザインについて議論をした。残念ながら,3社のうち1社の経営者は当日になって欠席されたが,残り2社がその後にどんな議論を社内でされているのかをお伺いし,大変勉強になった。
なお,その時の議論の様子はこちらからお読みください。
議論の内容
この記事で触れているTwitterでA社と示している経営陣からは,「ファイナンスバックグラウンドの私は管理会計(業績管理)をどうしても企業価値評価(バリュエーション)との関係で考える傾向があるかもしれない」(意訳)という話があった。そして,その上で,MCSの設計はバリュエーションとの接合も大事だけれども,企業活動の実態をしっかりと捕捉する,組織成員があるある程度納得感のある目標の設定が必要だと指摘されていた。
また,B社と示しているCFOからは,同社で経営陣が共有している中長期の目標(時間軸),事業内容,現場レベルでの活動をイメージできる図をベースに議論を進めているとのお話を伺った。
上の記事でも示した3軸(時間,組織階層,事業領域)に類似したものだったけれども,経営陣が見ている視点と現場レベルで見えている視点をどのように結びつけていくのか,そのためには数値目標だけではない何かを考えていくことが必要なのかなというような話をしていたように記憶している。
海外の先行研究で明らかになっていることだけでは不十分
これ以前にこの分野で海外の一流ジャーナルに掲載されている数本の論文を読んだが,スタートアップ企業が企業規模の拡大に伴いどのようなMCSが整備されてきたか,IPOが近づくにつれて内部統制との関連でどのようにMCSが整備されているのかという客観的な証拠は積み上げられていることはわかった。
しかし,今回の話を聞いて改めて感じたのは,企業成長のスピードが早過ぎてMCSの整備が追いつかないほどになっている場合,経営者はどのようにその状況を認知して,状況に対応しようとしているのかが見えていないということだった。
時間(現在と未来、現在と過去)、組織階層、事業領域という3軸も重要だけど、スタートアップのMCS設計においては成長スピードという変数も考慮しないといけない。それは事業領域の変化量なのか、事業領域の変化量なのか、いや、スピードだから量ではなくて、変化の速度なんだよな。どう捉える?
— とびモン(の中の人) (@to_2106) June 29, 2021
これまでやってきた中小企業のMCS研究は、本来やりたかったスタートアップのMCS研究では絶対に関わってくる変化だったり、変化スピードを捉えることが困難だから、変化を止めて静態的にそれぞれの企業を捉え、規模に集約して進めてきた。変数を増やさずに状態を把握するためだ。
— とびモン(の中の人) (@to_2106) June 29, 2021
これにスタートアップ研究をやるとなると「速度」が入る。これは結構厄介。AからBへの変化は、速度が速くても遅くても、総量の動きで説明ができる。が、変化速度を記述するには時間を示すしかなく、それがいかにダイナミックに起きているものかを説明するのは難しい。微分して傾きにできればいいけど。
— とびモン(の中の人) (@to_2106) June 29, 2021
先程の3軸で言えば,組織階層と事業領域の進化スピードだ。しかも,それは目に見えて組織階層や事業領域が増える(役職者や部署が増える,新規事業が増える)という目に見える変化という場合もあれば,売上や資産規模の拡大という形で見えるのかもしれない。スタートアップ企業の成長スピードが時に線形ではなく,指数関数的になる場合があるとしたら,単に3軸で立体が伸び縮みするという3次元的な見方をしていたら間に合わない。
研究戦略として,私が著書にまとめた中小企業の管理会計研究では,企業規模をもとにMCSのデザインがどのように変わりうるかを見てきた。しかし,それは静態的で,基本的に同一企業の成長を予定していない。成長に応じたMCSの設計がどのように行われているのかを論文にまとめたものはあるが,それも経営者の記憶と残された記録に基づいてまとめたものだ。
今,私の目の前には,これからIPOに向かって,さらに加速度的に成長しようと考えている経営者たちに話を聞く機会がある。彼らの思考の変遷,思考がMCSにどのように落とし込まれていくのか,MCSが変化したことで組織成員の認知はどう変わるのか。そもそも経営陣がどうMCSを設計するのか,何に基づいてその設計を決めるのかも気になる。
ディスカッションの最後に
ディスカッションの最後に参加者全員で確認したのは,「今後CFOに求められる重要な仕事は,MCSをどうデザインするか。資金調達を行うためには事業成長が欠かせないが,その事業成長を担保する,ロジックを構築するためにも,企業として掲げる(数値)目標と現場の活動がいかに整合性を持って行われるかが重要になる」(意訳)というようなことだった。
こうしたことに私が直接的に何かアクションを起こすことはできないけれども,このような気づきを与えられたのであれば,今回の研究には一定の実務に与えるインパクトが残せたと言えるのかもしれない。改めて確認できた。もちろん,機会を頂いた投資ファンド氏が果たした役割が大きいのだけれども。
成長速度をどのように把握するか,イメージするかはまだまだ課題はある。また,これまでは経営者の目付けがMCSの進化,デザインの変化に与える影響をアントレプレナーシップ(起業家精神)との関わりで明らかにしようと思ってきたけれども,今出てきたアイデアと合わせてよく考えることにしておきたい。
あれ。これ,時間かかりそうだし,論文になるんやろか(笑)