魔法がつかえるなら…… 大統領は女性
スーパー・チューズデーが終わった2020年3月、エリザベス・ウォーレンがアメリカ大統領選挙指名争いから撤退しました。そこでいろんなコラムや論考が出ているわけですが、再度注目されたのが以下の調査。
2019年6月に発表されたAvalanche調査では、民主党員に以下のような質問を行っています。
「問:本日予備選が行われたとしたら誰に投票するか」
1. ジョー・バイデン (29%)
2. バーニー・サンダース (17%)
3.エリザベス・ウォーレン (16%)
そしてもう一つ。
「問:あなたに魔法の杖があったら誰を大統領にするか。
その対象は誰かを打ち負かす必要も、選挙で勝利する必要もない」
1. エリザベス・ウォーレン (21%)
2. ジョー・バイデン, バーニー・サンダース (19%)
競争を鑑みない仮定だと、ウォーレンが首位に転じたのです。つまり、多くの人が“Electability”を踏まえた投票行動をとっていることを示す調査になっています。このなかで、最も大きな障壁とされた要素は「ジェンダー」。「年齢」や「イデオロギー」、「人種」よりも、性別やジェンダーが高い障壁だと示唆されています。
このアンケートに触れたネイト・シルバーは、とくに女性有権者が「候補者が女性であること」を懸念する傾向を指摘。想像にすぎませんが、女性として生きているゆえに「どれだけ競争で不利か」を意識し、投票者としてリスク回避しがちになるのかもしれません(言葉を選んだ結果、他人事みたいな表現になってしまいましたが、シルバーの言う通り重要な問題です)。
「キャンペーン・レースにおけるジェンダーの影響」は、ずばりエリザベス・ウォーレンの撤退コメントにあらわれています。
選挙において、ジェンダーに関する質問はトラップだ。「セクシズムがあった」と言ったのなら、こう言われるでしょう。「泣き言だ!」。「セクシズムが無かった」と言えば、膨大な数の女性がこう考えます。「別世界に住んでるの?」
「撤退で最もつらいことの一つは、約束を交わした少女たちをあと4年は待たせてしまうこと」と吐露したウォーレン。2024年大統領選挙レースについて語るのは時期尚早ですが、じつは、有力な女性候補が共和党サイドに存在します。
2011年、サウスカロライナ州にて史上初の女性&マイノリティ人種知事となったニッキー・ヘイリーです。2016年大統領レースではドナルド・トランプを支持していなかったにも関わらず、同政権下で国連大使を任された輝かしい経歴の持ち主。インド系移民の子どもとしてアメリカに生まれ、結婚を機にメソジストに改宗した人工中絶反対派としても知られています。国連大使を辞任した2019年には、中絶にまつわる問題について、以下のような発言も行いました。
不幸なことに、多くの左翼が、中絶議論を用いて、女性たちを分断し、意見に同調させようとしています。フェミニズムの名の下に行われていることです。しかし、それはリアルなフェミニズムではありません。女性たちは一つの価値観を厳守すべき、とする考えは、今日において最も反女性的な観念の一つです。イクオリティと寛容を除外しています。それら2つの内包こそ、女性ムーブメントのあるべき姿だというのに。
この言い方、おそらく一定数の有権者、とくに彼女を支持するポテンシャルが高い層には聞こえがいいのでないかと思います。ほかにも、近年の彼女はインド系としてマイノリティ人種ルーツに鈍感なトランプ大統領をジョークにしつつ著書で政権内の反トランプ派を批判、また、TVインタビューでは厳しい質問も柔軟に受ける手腕も発揮しました。つまり、保守サイドでバランスよく”感じのいい”パブリック・イメージを築く政治家かなと。先のリサーチにもあったように、大統領選挙レースにおいて「女性候補」というだけで投票行動に支障をきたすのなら、なんだかんだでヘイリーのような存在が「アメリカ合衆国初の女性大統領」に近いのかもしれません。