【王道の新時代】 2020年スーパーボウル・ハーフタイムショー:シャキーラ&ジェニファー・ロペス
・ボロボロだったハーフタイムショー
毎年のようにアメリカの歴代最大級レーティングを叩き出すNFLスーパーボウルですが、ミュージシャンが出演するハーフタイムショーに限ってはこの2年混迷を極めてきました。
《参考》
政治的緊張のもととなったのは、大統領すらも言及した、コリン・キャパニック選手にまつわるNFLの人種問題。2019年には、NFLより出演を求められたスターが次々と拒否しつづけたことで、20番目の候補とされるMaroon5に決定した結果、前年ジャスティン・ティンバーレイクに引き続き不評に終わっています(彼らの場合、ソリストのスーパースターがド派手に魅せまくった2010年代の同ショーの色や規模に合わなかったことが最大の要因に思えますが)。こうした政治的緊張によるグダグダを上の記事で紹介したわけですが、このあとプロット・ツイストが起きまして、2018年の出演オファーを断ったヒップホップおよびブラック・コミュニティの長ジェイ・ZのRoc NationがNFLと提携発表。こうして、第54回目となる2020年度は同レーベルのシャキーラ、そしてリバイバル旋風真っ只中のジェニファー・ロペスという二大DIVAヘッドライナーに決定。住民の7割がラティーナとされるマイアミ会場にふさわしき超豪華な「王道」ハーフタイムショー復活とあいなりました。
・スーパーウーマン新時代
派手さは約束されていたシャキーラ&ジェニファー・ロペスの公演は大成功。まさに大勢が求めている「王道」だったわけですが、実はこれ、同時に「革新」的なハーフタイムショーでもありました。まず、2000年代に盛んだった「スター・アンサンブル」方式と2010年代的な「ソロ・スター」式が上手い具合にフュージョン。40代と50代の女性スターがおなじラテン・ルーツの若手男性ラッパーをゲストに呼ぶあたりも良かったですね。
・シャキーラのラテン、中東、セクシュアリティ
まずシャキーラ。正真正銘グローバルなラテン・コミュニティを代表する彼女はコロンビア出身。ハイライトに使われた『Hip's Don't Lie』は今でこそ代表曲ですが、2006年リリース当時は「絶対アメリカのラジオでかけられない」と反対されたクンビアでラテンなサウンド。アメリカの多数派、つまりは白人層の価値観(とされるもの)に迎合せず首位に立ってみせた重要なポピュラー・ソングです。つまり、シャキーラって、アメリカからすれば「US市場でカリビアン・サウンドが受容されると証明したアーティスト」で、カーディB等が活躍する道を作ったポップスターと評される存在なんですね。
ハーフタイムショーにおいてもシャキーラは「アメリカ多数派とされる白人層」におもねることなきパフォーマンスを披露しました。ラテンのみならず中東ルーツも発揮するロープ・ダンスがその筆頭。Voxが書くように、ジャネット・ジャクソンの悲劇以降、15年ものあいだスーパーボウルで封印されていた「女性の内なるセクシュアリティ表現」としても革新的でした(マドンナとかビヨンセもセクシーと言えますが、どちらかというとアスレチックなので)。バイラルになった舌の動きも“Zaghrouta”と呼ばれるアラビアンの表現スタイルらしいです。
・ジェニファー・ロペスのリプリゼント
母国アメリカの映画界と音楽界の両方で「ラテン女性に被せられるガラスの天井」を破壊してきたジェニファー・ロペス。
《参考》
今回は最初から飛ばしてまして、映画『キング・コング』を模したようなビルの頂上から登場。同作といえばエンパイア・ステート・ビルディングということで、この姿を見た瞬間、地元ブロンクスへの忠誠を誓う『Jenny From The Block』がオープニング・ナンバーであることがわかります。マイアミ開催なのに「私はまだブロックのジェニー、ニューヨークのブロンクスから来た!」と宣言して始まるの、結構サプライズですね。彼女の再評価シーズン記事でも紹介したように、ストリート出身のリアルさを保つアイコンの誇りを見せました。
『Wating For Tonight』では、キャリアハイ映画『ハスラーズ』をトリビュートするポールダンス・パフォーマンス。スーパーボウルお約束のバラード・タイムに入るわけですが、2017年レディー・ガガと同じくラストには置かない采配。さらには足腰がどうなっているのかわからない超絶イエス・キリスト・ポールダンスなため「お約束」感が消滅。
そしてやってきた大盛り上がりなラスト・パートは『Let's Get Loud』とブルース・スプリングスティーン『Born In The USA』。ここもスーパーボウル定番の「キッズの大群」演出なのですが、キャスティングをラテン系の女の子に集中させたこと、そして実の娘に歌わせまくるDIVA芸を持ち込むことで「お約束」感が消滅。
注目されたことは、ジェニファーが纏う旗がアメリカ合衆国でありプエルトリコでもあること。2つとも彼女のルーツであるため『Jenny From The Block』より連なるレプレゼンテーションなわけですが、当然、国民的番組のスーパーボウル中継で行うからこその大きな意味を持ちます。曲名にかけて「騒いで、ラティーナ!」と叫んだあと「我らはアメリカ生まれ」と熱唱。軽視されがちなプエルトリカンも含めてラティーノ・プライドを訴える、スーパーボウルとしてはかなり濃いマイノリティ・ルーツ発信と言えます(2016年ビヨンセ2017年レディー・ガガが話題になったと言え、同ショーの定番ポリティカル表現って「国民的」とばかりに米軍賞賛や世界平和に偏るので)。当日、国歌斉唱で起立せずに一悶着あったジェイ・Zも、コロンビアンのシャキーラとプエルトリカンのジェニファーのステージこそ「最大のプロテスト」と評してますね。
・王道でありながら革新
大成功に終わったシャキーラとジェニファー・ロペスのハーフタイムショーですが、「王道」でありながら「革新」でもある舞台でした。ここまで「非白人」なルーツ主張に満ちたショーはそれだけで「政治的」とされるわけですが、パフォーマンス自体は国民的番組の名誉に足る100%エンターテイメントに仕上がっているから凄い。「白人マジョリティの価値観に迎合しないと売れない」とされてきたアメリカ市場の常識を打ち破ってきた2人にしか出来ない芸当でしょう。色んなことが起きるスーパーボウルですが、「求められる王道」を見せるには時勢ごとに刷新とリスクテイクを重ねて黄金比バランスを探求しなければ不可能だと思わせる、そんな「王道の新時代」舞台でありました。
・メドレーふくめたセットリスト再現プレイリスト
・出演情報
2/7(金)27:00放送、blockfm『MUSIC GARAGE : ROOM 101』にて渡辺志保さんと ジェニファー・ロペス出演映画『ハスラーズ』を語ります! USストリップ事情や劇中流れるブリトニー・スピアーズ等の2000年代ヒット曲、キム・カーダシアン登場シーンなど盛り沢山。放送後1週間はradikoで聞けるようです。
・過去記事
政治的緊張が走るなか愛国心と問題提起のバランスをはかり称賛された2017年レディー・ガガによるハーフタイムショー評。