カマラ・ハリスのVogueカバーはダサいのか? エレガンスの対極をいく女性政治家
バイデン政権発足ということで、US Vogue2021年2月号カバーは初の女性副大統領カマラ・ハリスとなりました。
それで一騒動起こったのが、上記の表紙画像だけ公式より先んじて流出し「酷い写真」「間抜けに見える」などなど顰蹙を買ったこと。ハリスがジャマイカ系とインド系のマルチレイシャルということもあり、前年のシモーン・バイルズ選手カバーからつづくかたちで「黒人の撮影が不得意なUS Vogue」だと批判する声も(これには、アナ・ウィンターを筆頭とした同誌編集部が長らく人種差別的だったとする告発もあった経緯があります)。しかしながら、今回撮影を担当したのは、黒人初のVogue表紙撮影者としてビヨンセ表紙で話題を呼び、前回大きな話題を呼んだハリー・スタイルズのドレス着用写真も手がけたタイラー・ミッチェルです。
個人的な所感は「とりたて良いわけじゃないけど凡庸なものより良いんじゃないか」という感じなので後述しますが、この件について、ライターとしても活躍するトム・フィッツジェラルド&ロレンソ・マルケス夫夫アカウントが興味深い見解を展開していました。いわく、非政治的で伝統的エレガンス志向のVogue誌は、カマラ・ハリスのパブリックイメージに元々不向きだった。スレッド抄訳↓
「Vogueはこれまでもファーストレディーを表紙にして、政治的な女性を華やかにする機会を与えてきました。今回の表紙の失敗は、ファッションメディアの限界、それら媒体がスポットライトを与えて高められる女性のタイプの制限にあると思います」
「 FLOTUS(アメリカ合衆国ファーストレディー)とは、19世紀の社交界の慣習から生まれた役職です」「ミシェル・オバマやヒラリー・クリントンのような規範を破る女性を対象とした際も、Vogueはエレガントな社交界ポートレイトのような手法で彼女たちを捉えてきた」
「副大統領をVogueの表紙にする前例は無い。そして、カマラは、非常に法律家的で質素な像を見せている。そのため、クチュールや気取ったポーズで(Vogueの表紙になる選択肢は)問題外だった」
「ELLEが彼女を表紙写真にした際も、グラマーやファッションフォトグラフ的なものからかけ離れて飛行機雑誌の裏表紙のようになっている」
「今回のVogue表紙はお世辞にも良いと言えない悪いものだが、私からすれば、Vogueがまったくもってグラマラスになる気がない立場の人物をグラムにしようとしたようにうつる。コンバースのチャックテイラー、ビジネススーツ、そしてVogue的な"崩壊しかけた貴族制度"の文脈が相まってひどいイメージになってしまった」
「Vogueは、オールドスクールなエレガンスにあたらないフェミニンなパワーの撮り方を知らないのだ」
「Vogueの表紙に適切なかたちで女性副大統領を写真におさめることは可能だろうが、非常に難しい」
……ということで、全体的に腑に落ちる意見でした。今回、Vogue側は「黒人を滑稽なものだと貶めるような人種差別的態度」疑惑すら投げかけられていましたが、前の同誌ミシェル・オバマ表紙はもっと見栄えしてるんですよね。昨今のタイラー・ミッチェル撮影カバーは淡い色合いが多いので、たとえばアニー・リーボヴィッツやマリオ・テスティーノのような王道Vogue表紙とは違ってたりもするのですが……。ただ、大きいのは、やはりミシェル・オバマやヒラリー・クリントンと異なり、カマラ・ハリスがVogue的エレガンスとは対極のスタイルでパブリックイメージを培っていることにある気がしています。今回、顰蹙を買った写真で彼女はシンプルなジャケット&パンツにコンバースを合わせていますが、元々これが彼女のトレードマークであり「売り」でもある。大統領選挙レースでは画期的な女性政治家の衣装として注目されていました。
スニーカーを履いて選挙活動を行うことには、歴史的に重要な意味もある。これまで主流派の女性政治家がこれほど堂々と、カジュアルなシューズで選挙活動を行ってきたことはなかった
ヒラリーは『エル』に対し、「(カマラは)ありのままの自分に自信を持ち、満足しています。女性候補者の服装や行動に関する慣例に従う必要がないのです」とコメント
つまり、Vogue側はカマラ・ハリスの「エレガンスではない」ペルソナを活かそうとして(前評判で)失敗したと伺えます。コンバースはもちろん、背景カラーにしても母校ハワード大学ソロリティへのオマージュらしいので、基本的に個人のブランドとルーツを汲もうとしている。ここを結構自分は評価していて、ラグジュアリーファッションマガジンの美しいフォーマットに終始していたVANITY FAIRのAOCことアレクサンドリア・オカシオ=コルテス表紙より印象は良いです(AOCを被写体にするなら、彼女の地に足の着いたシンプルなスタイル、市井の人々と対話して社会を動かしていく個性&魅力&ブランドをファッションフォトグラフィーとして表現すべきだと思うので)。
ちなみにトム&ロレンゾさん、Vogueのカマラ・ハリス表紙について追記しております。
「しかし、このファイナルカバーは間違いなく、大幅に改善されている」
そう、Vogue2021年2月号はカマラ・ハリスのダブル表紙だったのです。ネット騒動としては「2枚組表紙のうちチャレンジングな片方だけ先に流出して叩かれた」かたち。もうひとつのライトブルースーツの写真は癖なく評判も悪くないので、最初から両方お目見えしていたら反応も違っていたかもしれません。自分が「VANITY FAIRのAOCよりは良い」としたのもダブル表紙だったからです。リーク情報によれば、こっちのライトブルーのほうがVogueとハリス陣営が同意したバージョンの模様。
結構な頻度で議論を巻き起こすUS Vogueカバーですが、男性ソロ初表紙となったハリー・スタイルズがロングドレスを着ていた件について書いているので、よろしかったら是非↓
関連記事