「映画の成功を興行収入で判断してはいけない」by劇場CEO
実写版ディズニーリメイク『リトル・マーメイド』騒動の記事に書いた「興行収入だけで映画の商業的成否を決めてはいけない」という話↓
記事で引用したのは投資家の意見なものの、劇場ビジネスからも同様の苦言があがっています。米国市場4位の映画館チェーンMarcus Theatresの CEO、グレッグ・マーカス。
映画ジャーナリスト、デヴィッド・ポーランドのsubstackで紹介されている見識は「映画館はIP(知的財産)延命に今のところ向いてるビジネス」であること。そこで上映された映画作品は、その後もVODやレンタル、さらにはおもちゃやライセンス、テーマパークなどで利益をあげていく。以下、マーカスの発言の意訳。
多くの国のチケット売上が即座に見られる今、興行収入ファンカルチャーが盛りあがるのは自然なことだし、そうした文化によって劇場鑑賞者が増えるメリットはありそうです。ただし、興行収入は映画コンテンツビジネスの「ケーキのひときれ」に過ぎないことを覚えていて損はないでしょう。近作だと、コロナ禍の劇場興行はパッとしなかったもののストリーミングと楽曲で文化現象となったディズニー『ミラベルと魔法だらけの家』が好例です(以下記事参照)。
今回の騒動で皮肉なのは、興行収入ファン界隈が成功作とみなす『スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース』。ソニー・ピクチャーズ配給なので、ヘッダー画像のように「ディズニーに勝った!」と盛りあがる派閥も形成されています。しかし……
ディズニーは『スパイダーバース』のグッズ権利を持っている。同作が当たれば収益が潤うエコシステムが構築されているのです。同社の業績は、2022年Q4だと興行収入&デジタル&レンタルの売上が1.7B、マーチャンダイズが1.3Bほど、今年の良好部門がパーク&リゾートがQ2で2.2Bなので「興行収入はケーキの一片にすぎない」の代表格かもしれません。
余談
記事で触れた実写版アリエルの現実的な髪色、および謎の多人種シスターズにしても、ドール販売を見越してると考えればわかりやすいかも。米国では自分と似た姿の人形を欲しがる子どもが多いとされており、画期的技術でリアルなブラックヘアーを再現したらしいマテル社ブラック・アリエル人形は公開前からベストセラー。オール姉妹セットならいろんな肌や髪のトーンを選べる。姉妹3人セットだと綺麗に黒人、白人、アジア人のラインナップ。
まぁ、記事余談としては、6月に入って『ザ・フラッシュ』『マイ・エレメント』が爆発したため『リトル・マーメイド』興行収入議論は潮に流された感じもあるのですが……。そもそも『ワイスピ』『トランスフォーマー』しかり、入れ食い状態な2023年のサマームービーって好調そうでもないんですよね。成功した『ザ・スーパーマリオ』はリリーススケジュールも幸運だった雰囲気。中国市場のハリウッド冷え込みもあるでしょう(低迷の一因は共産党100周年の愛国文化政策?)。
個人的に実写版『リトル・マーメイド』騒動で引っかかったハリウッド業界の声は「海外のインターネット荒らしをコントロールできない問題の深刻化」。公開前からレビューサイトで低スコアをつけていく荒らしが出た場合、米国ならプラットフォームと連帯して早めに対応できるでしょう(削除対象ルールをちゃんと決めていない場合は更に荒れる種となりますが、米国間ならそのあたりもノウハウが培われている)。しかし、中韓などのローカルプラットフォームではそうもいかない。一般ユーザーの荒らしならともかく『スター・ウォーズ/最後のジェダイ』の時のように他国による政治工作の疑いがあれば問題が大きくなります。最大コケ領域こと中国で『リトル・マーメイド』を糾弾したメディアは中央委員会の傘下でした。
エンターテインメントふくめて、インターネットの社会政治の話題は距離とって接したほうがいい気がしています。日本でも2021年自民党総裁選の時点で分断工作の疑いが報告されているので、遠い話でもありません。