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カニエはヴァージルとの「ファッション公民権運動」を宣言していた

 ヒップホップ的デザイン手法やストリート支援を中心としたヴァージル・アブロー追悼記事を書かせていただいたのですが↓

 あまり書けなかったのが、約20年に渡る盟友カニエ・ウェストとの関係、および略史。ヴァージルのキャリアのみならず、2010年代ストリートファッションのラグジュアリー興世はこの2人の結託なしに語れないほどの出来事でした。
 2人の出会いは、カニエがまだソロデビューしておらず、ヴァージルがスクリーンプリントを制作していた2000年代初期。ヴァージルいわく、シカゴは(NYやパリと違って)ファッションシティでもコスモポリタンでもないから、やる気あるクリエイティブ人材の距離が近く、出会いやすかったとのこと。

 そうしてヴァージルはカニエのチームに雇われるわけですが、なかでも有名なのが、ヘッダー画像にした、2009年パリファッションウィークでの'Louis Vuitton Don'な集合写真。当時、Garçonsのコレクション会場の外には人がおらず、ストリートウェアを着てる人も皆無だったとか。そして、同伴していたドンCいわく「アメリカ代表」として気合いが入りまくっていたカニエは「ファッションの公民権運動」を予言したそう。

「カニエは言ってた。『このことは、いつか公民権運動のように振り返られるだろう。俺たちは声をあげるために立ち上がったのだから』。その時は『お前、ローザパークはないだろ』って感じだった。だけど、今思えば、近かったね。俺たちは新たな人々の参加を呼び込んだから」

https://www.gq.com/story/virgil-abloh-cover-story-spring-2019

 これはカニエ節、「壮大すぎるパワーワードのため叩かれたり引かれたりするが10年後には的を得ていたと判明する」現象ですね。CINRA記事にも書いたように、カニエとヴァージルが主要プレイヤーとなって「ハイファッションへのストリート美学埋め込み」が行われ、情報環境発達とともにビジネスの諸所が民主化されていったわけなので。

 「Pyrex 23」を標語にしていたヴァージルも「ファッションの公民権運動」のようなものを志していたと言えます。2019年展覧会「Figures of Speech」の「Black Gaze(黒人の視点)」カテゴリでは、Louis Vuittonの黒人モデルを型どったマネキンの上に『プリティ・ウーマン』のセリフ「ここはあなたの場所ではありません(You’re Obviously In The Wrong Place)」。映画では、娼婦のジュリア・ロバーツが高級店の店員に放たれる言葉ですが、この場合、「ハイファッションに入ることを許されなかった黒人の人々」ともとれます(黒人の人々は、客としても「万引き犯」扱いを受けがちで、MoschinoやVersace、ZARAの店員間では「黒人客の来店」を伝達するコードが使用されている疑惑で近年も問題になった)。

 話をカニエ&ヴァージルに戻し……カニエチームで「建築家」と呼ばれながら経験を積んでいたヴァージルは、2009年ごろ、カニエとともにフェンディ社でインターンとなり、LVMHの人の目にとまります。また、ヴァージルいわく記録されていないらしいのですが、2人は服づくりの勉強もかなりしたみたいです。こうして「自分も服をつくれる」と確信できたヴァージルは、インターン後、記事で紹介したPyrex Visionを開始。しかしながら「きちんとラグジュアリーに作らないと駄目だ」と学び、同ブランドを閉めたあと、2012年にイタリアを拠点にしたOff-Whiteを開始。この同年、カニエもadidasとYeezyを始めてるんですよね。ヴァージルいわく、ストリートウェア旋風をブーストさせた重要な存在が、このYeezyでした。

 これからの流れはCINRA記事に書きましたが、狂乱の「ラグジュアリーストリート」旋風が爆発。その中で「ストリートの美学を消費させて終わらせてはいけない、持続するインテレクチュアルにしなくては」と考えたヴァージルはその定義づくりをかなり意図的に行っていったと。そして2016年ごろにはBalenciagaやGucciのようなハウスがストリートを組み込み、2年後には自分がLouis Vuittonメンズのクリエイティブディレクターに就任します。

 このVuittonファーストコレクションで話題になったのが、カニエとの涙ながらの抱擁。ヴァージルは自身のVuittonディレクター就任について「"我々"が築いた夢」と語り「カニエなくして今の自分なし」であることを強調していました。実際、2000年代ごろのカニエは「俺たちはファッションウィークに行く!」と連呼していたらしく……「自分たちは入れてもらえないのでは?」と感じていたヴァージルは、カニエに引っ張られたからこそファッションの道に進んだんじゃないかと感じさせる言い方してるんですよね。前述の台詞「ここはあなたの場所ではありません(You’re Obviously In The Wrong Place)」を内面化していたヴァージルに「我々の場所にできる」と教えたのがカニエなんじゃないかなと。

 そして2021年の1月、ヴァージルは、自身のLouis Vuittonクリエイティブディレクター職が「若い世代へのロールモデル」となる重要性を説いていました。

「僕にとって、Louis Vuittonでデザインすることは仕事のいち段階にすぎない。本当の仕事というのは、6人の黒人の子どもたちが僕の仕事を引き継ぐような未来を確かにすること」
「マルチなバックグランドを持ち、ファッションスクール出身ではなく、異次元な思考を持っている男がチャンスを得て、ファッションハウスの次期ヘッドデザイナー候補になる。そうしたことに最も感銘を受けるだろう」

https://podcasts.apple.com/us/podcast/virgil-abloh-kaws-life-outside-the-box/id1535243744?i=1000504262093

 カニエの「公民権運動」という言葉選びはいささかオーバーでデリケートだったかもしれませんが、彼とヴァージルが「裕福な白人ばかりのラグジュアリーファッション界」の景色を変革し、扉を開いてみせたことは確かでしょう。

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