「HIPHOPの仇敵」 N.W.Aのマネージャーは冤罪なのか?
音楽スターたちのマネージャー事件簿を紹介したのですが↓
このうち「極悪マネージャーか冤罪被害者か」、見方が二分しているのが、ギャングスタラップグループ、N.W.Aを担当したジェリー・ヘラーです。
2015年の映画『ストレイト・アウタ・コンプトン』にも登場……というか、上の記事に書いたように、この大ヒット作によって因縁が再燃しました。ヘラーと敵対したN.W.Aメンバーが制作した物語なので、劇中のヘラーは悪役寄りだったのです。一方、ヘラーと近かったメンバー、イージー・E中心のドキュメンタリー『N.W.A & EAZY-E:キングス・オブ・コンプトン』だと論旨もちがっている。イージー寄りの関係者が「(最初にヘラーに激怒して脱退した)キューブはグループで浮いてた、なんで抜けるのかよくわからなかった」みたいに証言しているわけです。
「ヒップホップで最も憎まれたマネージャー」とまで言われちゃってるヘラーって、結局どうだったのか? と思ってたら、経済誌Forbesに検証記事がありました。ライターは『Original Gangstas: The Untold Story of Dr. Dre, Eazy-E, Ice Cube, Tupac Shakur, and the Birth of West Coast Rap』の著者、ジョン・ウェストホフさん。
まず、大雑把にN.W.Aのマネージャー騒動の経緯。
1987年 N.W.A結成。リーダー格のイージーEは音楽マネージャーのジェリー・ヘラーとルースレス・レコードを設立
1989年 N.W.A、大成功するも……楽曲制作も行っていたアイス・キューブがロイヤリティの不満を表明。イージー&ヘラーばかり儲けていると糾弾して脱退。ヘラーを訴えるも、法廷外和解で終わる。ソロラッパーとして出した古巣ディストラックでは、ヘラーに対する人種差別的口撃も
1991年 ドクター・ドレーがロイヤリティへの不満で脱退。彼もイージー&ヘラー体制を公然と糾弾
世間的に共有されたのは「強欲な白人マネージャーが黒人たちを搾取して破滅に追い込んだ」物語。それは実際どうだったのか、ジョンさんは当時の状況を調べていきます。
①アイスキューブ:支払いスパンの問題
N.W.Aを脱退した1989年、キューブは「儲けまくりのラップスター」生活はしておらず、実家で皿洗いをする生活を送っていた。前年ソングライターとして参加したN.W.AとイージーEのデビューアルバムとイージーは500万枚セールス達成したにも関わらず……彼が89年半ばまでに受け取ったアルバム印税は3.2万ドル程度。N.W.A全国ツアーの報酬はそれよりも低かった。
ヘラーの弁。音楽業界において、アルバム売上の支払いが遅れるのはよくあること。発売から数十年間で、キューブは『Straight Outta Compton』でちゃんと数百万ドルの利益を得ている。この意見には、ルースレス・レコードの幹部も同意している。
ヘラーいわく、裁判を起こされた際、自分とキューブ側の弁護団がルースレス・レコードの会計をチェックしたが、不正は見つからなかった。
②ドレー:契約条件の問題
ドクター・ドレーは80年代後半から90年代前半にかけて、ルースレス・レコードのさまざまなアーティストをプロデュースし、数千万ドルの売上を達成。しかし、ドレーの報酬は8.6万ドルとされた。
結局、ドレーは訴えなかったため、少なくとも法的観点からは「ヘラーはドレーを騙していない」可能性が高い。事務系のやりとりを嫌っていたドレーは(自分を過小評価するような)不利な契約を結んでしまったと思われる。
だから、イージーとヘラーは、ドレーに対して新しい契約条件を交渉するべきだった。「我々は君を失いたくない」と伝えなければいけなかった…というのが、比較的中立な立場をとっているN.W.Aプロモーターの弁。
実際、ヘラーの回顧録では、ドレーに交渉を行ったと記されている。前金200万ドルでドレーのサブレーベル設立を計画していた。結局破談し、ドレーはデスロウに移った。
③イージー:決裂の謎
1995年に逝去したイージーは、死の直前、ヘラーと絶縁したと言われている。ヘラーは(金銭面で)不正をしている」「レーベルから何百万ドルも消えている」と主張していたそう。ヘラーはこうした噂を否定。ルースレスの関係者にはヘラー擁護派もいる。ただし、その人も「イージーは"ヘラーのせいでキューブとドレーが脱退した"と言っていた」と証言。
映画『ストレイト・アウタ・コンプトン』では、イージーの未亡人トミカがヘラーの不正を発見する設定。彼女はドレー、キューブとともに同作のプロデューサーを務めている。
Forbesにおけるジョンさんの結論は「ヘラーがメンバーを騙したり、報酬を盗んだりした証拠は発見できなかった」。また、「人好きのする人物ではないにせよ、死後も叩かれつづける謂れはないのではないか」みたいな雰囲気で、同情寄りです。
……ということで、キューブ&ドレーに関しては、ビジネス関係としてよくありそう、かつ「両者ともに不公平に思えたのは仕方なさそうな黎明期シチュエーション」っぽいんですよね。
ちなみに、個人的にヘラーさんに元々極悪マネージャーのイメージは持っていないというか、それこそ映画『ストレイト・アウタ・コンプトン』のポール・ジアマッティの「悲しそうな面持ち」の印象が強いんですよね。
イージー・Eとの初期の絆は本物だっただろうから、二人の写真とか見るとやはり寂しくなります。
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