ドレイクのTikTok大作戦とマイケル・ジャクソン継承
2020年4月、ついに公開されたドレイクの新曲「Toosie Slide」。"It go right foot up, left foot, slide Left foot up, right foot, slide"....とあるように、ダンス・チャレンジを前提とした内容なのですが、実はこの曲、リリース前からTikTokでバイラルになっていました。
タイトル"Tossie Slide"にも冠されているTossieらTikTok人気ダンサーがリリース3日前に(トラックを一部公開するかたちで)ダンスを披露、見事バイラルへ……といった流れだったのです。Rolling Stoneによるとドレイクが直々に頼んで成立した企画だったとか。「今はTikTokユーザーが若者と文化をコントロールしている」、そう豪語するTossieによると、多くの音楽スターがTikTokインフルエンサーに楽曲プロモートを頼んでいる状態だそう。新作をリリース前にTikTok投下してみせたドレイクはやはりこういうの上手ですね。
パーフェクトに見えた"Tossie Slide"作戦ですが、危機にも見舞われたよう。新型コロナウイルス感染症によって、リリース・スケジュールどころかTossieらTikTokダンサーが参加する予定だったミュージック・ビデオもおじゃんに。マスクをしながら自主隔離するドレイクが1人で踊る内容になったわけですが……結果、「ソーシャル・ディスタンス時期に人々をつなげるダンス・チャレンジ」としてまさしく時事的なポップアンセムに仕上がっております。本リリース前、離れ離れになっている息子とのツーショットを初公開し「今このとき大切なのは内なる光とつながることだ」と啓蒙をポストしたりと、ピンチを迎えていたとは思えないほど素晴らしいリスケジュールでした。
まさしく今日的な"Tossie Slide"ですが、プレコーラスにはレジェンドの名前が登場しております。
Don't you wanna dance with me? No? I could dance like Michael Jackson (俺と踊りたいか? ちがう? マイケル・ジャクソンのように踊れるよ)
キング・オブ・ポップといえば、ドレイク憧れであり目標。2017年、グラミー賞ラップ・カテゴリにノミネートされた"Hotline Bling"は(ラップではなく)ポップソングだと苦言を呈した際、「マイケル・ジャクソンのような存在になりたいからポップソングを書いている」と明かしております。今回、彼はダンスを披露したわけですが、ダンスチャレンジ・マーケティングふくめて「現代のキング・オブ・ポップ」計画のよう。拙書『アメリカン・セレブリティーズ』で紹介したのですが(宣伝)、マドンナが追悼してみせたように、マイケルのダンスを真似する子どもたちは代々生まれ続けています。世界中に模範ダンサーを生み出すポップ・ロイヤリティを今目指すなら、それはTikTokのようなソーシャルメディアでのダンスチャレンジを成功させる存在なんじゃないかな、と思った次第です。
スターダム継承のようにMJの名をドロップしたドレイクですが、2020年には、他にもレジェンドをリファレンスするトラックを出しています。"When To Say When"は彼がかねてより尊敬するジェイ・Zの"Song Cry"を踏襲する一本で、ミュージックビデオのロケーションもジェイの故郷ブルックリン。
"Toosie Slide"と"When To Say When"で思い出したのが、去年末にドレイクがRap Radarにて語っていた2020年代の抱負。2010年代を代表するラッパーであるJコール、ケンドリック・ラマー、ドレイクは、次なるディケイドどうなっていくか? みたいな質問の返答が以下。
2020年代は、俺たち3人が世代交代できることを見せる10年になるだろう。ジェイ・Zとリル・ウェインがやったように。Hot Boyzのあとのウェインは(ジェイの同名曲ビートをつかった)"Show Me What You Got"フリースタイルで完全に切り替えた
次世代への継承を意識しているからこそ、自身の礎となった先人をリファレンスしてリスペクトを表明したのかな、と感じる2020年ドレイク・ワークズでした。あとやっぱりドレイクってフックアップとかビックビジネス志向とか、ミレニアル世代のジェイ・Zっぽいですよね。
・著書『アメリカン・セレブリティーズ』
4月30日に単著『アメリカン・セレブリティーズ』が発売します。20組のセレブにフォーカスして2010年代アメリカのポップカルチャーや社会事情を追う集大成?的な内容で、音楽ポップスター多めですがTV映画も有。手に入れる際は事前予約が確実と思われます。カバーや目次などは随時お知らせします。