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【所得税】専従者に対する退職金

⑴疑問

個人事業主がその専従者に対して退職金を支払うことはできるのか

【ケースA】
個人事業主がその事業を廃業するときはその専従者も退職することになる。その際に専従者に対して退職金として金銭を支給し、その金額を当該事業の必要経費に算入することができるだろうか。

【ケースB】
個人事業主である父のもとで働いていた娘が結婚を機に専従者を辞めるケースは十分に考えられる。この場合、娘に対して退職金を支給し、その金額を事業の必要経費に算入することは認められるか。

⑵検討:退職金として支給することの是非

青色専従者給与については所得税法57条1項に規定されている。

事業に専従する親族がある場合の必要経費の特例等

1 青色申告書を提出することにつき税務署長の承認を受けている居住者と生計を一にする配偶者その他の親族(年齢十五歳未満である者を除く。)で専らその居住者の営む前条に規定する事業に従事するもの(以下この条において「青色事業専従者」という。)が当該事業から次項の書類に記載されている方法に従いその記載されている金額の範囲内において給与の支払を受けた場合には、前条の規定にかかわらず、その給与の金額でその労務に従事した期間、労務の性質及びその提供の程度、その事業の種類及び規模、その事業と同種の事業でその規模が類似するものが支給する給与の状況その他の政令で定める状況に照らしその労務の対価として相当であると認められるものは、その居住者のその給与の支給に係る年分の当該事業に係る不動産所得の金額、事業所得の金額又は山林所得の金額の計算上必要経費に算入し、かつ、当該青色事業専従者の当該年分の給与所得に係る収入金額とする

まず大前提として、青色専従者給与は「青色事業専従者給与に関する届出書」に記載されている方法・金額の範囲内でしか必要経費として認められない。「青色事業専従者給与に関する届出書」には退職金の記入欄がないため、【ケースA】も【ケースB】も認められないと考えるべきだろう。

⑶検討:専従者給与は退職所得になり得るか

⑵で述べたように青色専従者に対して退職金を支給することはできない(税務上認められない)。次に事業専従者について検討したい。事業専従者給与については所得税法57条3項に規定されている。

事業に専従する親族がある場合の必要経費の特例等

3 居住者(第一項に規定する居住者を除く。)と生計を一にする配偶者その他の親族(年齢十五歳未満である者を除く。)で専らその居住者の営む前条に規定する事業に従事するもの(以下この条において「事業専従者」という。)がある場合には、その居住者のその年分の当該事業に係る不動産所得の金額、事業所得の金額又は山林所得の金額の計算上、各事業専従者につき、次に掲げる金額のうちいずれか低い金額を必要経費とみなす

一 次に掲げる事業専従者の区分に応じそれぞれ次に定める金額
イ その居住者の配偶者である事業専従者 八十六万円
ロ イに掲げる者以外の事業専従者 五十万円

二 その年分の当該事業に係る不動産所得の金額、事業所得の金額又は山林所得の金額(この項の規定を適用しないで計算した場合の金額とする。)を当該事業に係る事業専従者の数に一を加えた数で除して計算した金額

このように規定されており、あくまでも最大86万円が必要経費になるとしか示されていない。これならば金額の上限は存在するが、退職金として支給する選択肢も存在するように思える。なぜなら退職所得控除が給与所得控除を上回るなら有利になる可能性があるからである。

残念ながらそんな余地はない。所得税法57条4項を確認しておこう。

事業に専従する親族がある場合の必要経費の特例等

4 前項の規定の適用があつた場合には、各事業専従者につき同項の規定により必要経費とみなされた金額は、当該各事業専従者の当該年分の各種所得の金額の計算については、当該各事業専従者の給与所得に係る収入金額とみなす

このように事業専従者給与を退職所得とする余地はないため素直に給与所得として申告するしかない。ちなみに青色専従者給与についても給与所得として申告する以外の選択肢はない(所法57条1項)。

⑷まとめ

以上のことから青色専従者であっても事業専従者であっても退職金を支給して、それを個人事業主の必要経費に算入することはできないし、青色専従者または事業専従者が退職所得として申告することもできない。

ただし、税務上認められない=支給できないということではない。退職金として支給しても良いが、税務上認められないだけである。なお、錯誤による支給であれば問題はないだろうが、意図的なものであれば贈与と認定されるリスクはあるだろう。

ただ単に青色専従者または事業専従者に対して退職金を用意したい(かつ必要経費に算入したい)のであれば、中小企業退職金共済への加入が現実的なのではないだろうか。

⑸参考文献


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