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近年ニーズ急増中! バーチャルショッピング動向

AR/VR/MR技術を活用し、仮想空間で買い物を楽しむことができる「バーチャルショッピング(VRショッピング)」。2010年代後半から国内外でいろいろなサービスが生まれていましたが、COVID-19の影響で新たな買い物体験を提供する方法として俄かに注目を集めつつあります。

今回はバーチャルショッピングについて調べてみました。

GoogleやAmazonがチャレンジするも、サービス浸透とまではいかず

バーチャルショッピングと聞いて最初に思い出すのが、2016年のクリスマスシーズンにGoogleが公開した「Window Wonderland」です。これは、Barneys New YorkやBloomingdale’s 、FENDI、Tiffany & Co.などニューヨークの有名ブランドストア18店舗のウィンドウショッピングを体験できるというもの。VRヘッドセッドを利用すれば、各ブランドストアの伝統的なクリスマスデコレーションや街の賑わいをバーチャルツアー形式で楽しめます。気に入った商品を見つけたらブランド公式ウェブサイトへのリンク、または「Googleでギフトを購入する」ボタンで購入できる点もポイントです。

Window Wonderlandの公開から遡ること数ヶ月前、AlibabaはVRショッピングサービス「BUY+」をローンチ。バーチャル空間に用意された部屋から、複数の店舗にアクセスすることが可能で、店舗では実際に好きな商品を手に取り、購入はAlipayを用いるという、かなりシームレスなショッピング体験を実現しています。

他にも2016年にeBayが「VR百貨店」を立ち上げたり、2018年にAmazonがプライムデーに合わせてインドのショッピングモールを体験できるVR店舗を公開したりなど、各社でバーチャルショッピングの可能性を模索していました。

しかし、新しいビジネスとして確立できるほど世の中に浸透したかというと、疑問があります。技術の進歩により一定の没入感はあるものの、実際に使ってみると「酔いやすい」とか「映像のクオリティが現実空間からは程遠い」といった感想を抱いた人も多いのではないでしょうか。

エンタメ業界におけるAR/VR/MR技術の活用がどんどん進む一方で、バーチャルショッピングについてはやや停滞していた印象です。

コロナ禍でアパレル・コスメを中心にニーズが急増

しかし今、COVID-19のパンデミックで人々の生活様式や価値観が大きく変わったことで、バーチャルショッピングに再び脚光が当てられつつあります。

言わずもがな、コロナ禍による外出自粛や非接触ニーズの高まりは、買い物のオンラインシフトを一気に加速させました。従来の店舗は単にECサイトを展開するだけでは事足りず、OMOも含めた新たなショッピング体験の可能性を模索しています。その一つの解として、バーチャルショッピングへの期待が高まっているようです。

各業界の中でも積極的な導入が目立つのは、アパレルブランドです。

2020年、GUCCIがイタリアのフィレンツェにある2階建ての美術館「GUCCI Garden」をオンラインで回遊できるバーチャルツアーをスタート。臨場感を再現するために足音などをBGMに設定し、歴史あるゴージャスな空間を360度隅々まで体験できます。一部商品はメールや電話での問い合わせ対応により、現地のみで取り扱っている限定商品を購入することが可能です。

同年、COACHはAlibabaが展開するハイブランド専用プラットフォーム「Tmall Luxury Pavilion」にて、ニューヨーク5番街にある店舗を再現したバーチャルストアをオープン。イベント開始からわずか60分以内に、前年度の1日あたりの売上記録を上回ったそうです。

コスメ業界では2021年、化粧品メーカー最大手のL’OREALとFacebookが、ARによるバーチャルメイク機能をインスタグラムショッピングに実装したことを発表し、話題となっています。ユーザーはL’OREAL傘下の各ブランドのインスタグラムページから、リップ製品などを購入前にバーチャルで試すことができます。

コスメ業界のバーチャルショッピングは意外と国内でも実装が進んでいる分野です。例えばコスメ・美容のクチコミサイトの@cosmeは2021年、XRを活用したバーチャルストア「@cosme TOKYO -virtual store-」をオープンして新たな買い物体験を追求しています。他にも2020年に資生堂が「マキアージュ」のメイクをオンライン会議ツールに活用できるARフィルターを開発したり、2021年にカネボウがバーチャルメイクとバーチャルマスクの同時体験を可能にするAR機能を提供したりなど、ニューノーマル時代に合わせた新しいユーザー体験が国内でも盛り上がっています。

ちなみに、バーチャルメイク技術を提供するPerfect Corp.が2021年に発表した調査によると、一度バーチャルで試してからの商品購入率が2〜6倍に上がるというデータもあるようです。

スタートアップの存在感が高まり、大手企業の買収が加速

バーチャルショッピングのニーズが高まると共に、バーチャル空間を提供するプラットフォームにも注目が集まっています。

アメリカでBtoBオンラインマーケットプレイスを展開するNuORDERは、2020年に360度の視界をバーチャル空間で楽しめる仮想ショールームをサービス化。ファッションブランドはもちろん、コスメやホームインテリア、ガーデニング用品といったあらゆるジャンルで、バイヤー向けのバーチャルショッピングを確立しています。

同年にはファッション展示会を主催するInforma Marketsと提携し、世界最大級のオンライン展示会「Informa Markets Fashion × NuOrder Digital Trade Event」を開催。8週間で97ヵ国以上、20,000人以上のバイヤーからアクセスがあり、ブランドとバイヤーの間で55,000もの取引が生まれるなど、新たなビジネス機会の創出に大きく貢献しました。

その後、NuORDERは2021年に4,500万ドルの資金調達を行い、さらなるビジネス拡大に向けて加速。そして同年6月には、カナダを拠点に小売店・レストラン向けにクラウドPOSを提供するLightspeedに買収されました。同社はNuORDERのプラットフォームを活用することで、小売店とブランドにより利便性の高いサービスを提供し、双方の架け橋となることを目指します。

このように、バーチャルショッピングのプラットフォーマーを関連業種・他業種の企業が買収する動きも海外では目立っています。

2013年創業のバーチャル試着アプリを提供するイスラエル発スタートアップZeekitは、コロナ以前からADIDASやTOMMY HILFIGERといったアパレルブランドと提携し、さらにイギリスの大手アパレルECサイトのASOSとも提携してファッション業界で存在感を高めていました。

そして、コロナ禍でオンラインショッピングのニーズが急増したことで、同社のバーチャル試着アプリはさらに脚光を浴びるようになります。2021年にはグローバル規模のアパレルECサイトのFarfetchと新たに提携を結ぶ中、同年5月、WalmartがZeekitの買収を発表しました。同社の共同創業者および経験豊富なチームがWalmartに加わり、Walmart.comへの実装に向けてこれから準備を進めるようです。

他にも2021年にShopifyがARスタートアップのPrimerを買収するなど、大手企業の投資・買収の動きも活発になっており、従来のショッピング体験を塗り替えるような新しいサービスが今後どんどん出てくるかもしれません。例えば、オンラインショッピングの返品率を改善するサービスとして、バーチャルトライオン(バーチャル上での試着サービス)を導入する企業も少しずつ増えています。

コロナ禍の影響でリアル店舗の復調がまだまだ見込めない中、単なるECとは一味異なるバーチャルショッピングは、新たな付加価値の提供や競合との差別化を図るためのメニューとして有効活用できる可能性を秘めています。

もちろん、費用対効果や在庫管理・維持コスト、決済サービスとの連携など考慮すべき点はあります。その意味では、テクノロジーやウェブに詳しくない店舗の方々でも簡単に、分かりやすく、手頃な価格で使えるプラットフォームの登場に期待ができそうです。

東芝テックも新たな付加価値を創出するサービスとしてバーチャル試着サービスなどにも注目しています。また3Dボディスキャン技術を提供するVRCにも出資しており、今後もバーチャルショッピングの動向を追いながら、新たな可能性を模索していきたいと考えています。

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