「美輪明宏と『ヨイトマケの唄』」佐藤 剛
桑田佳祐のテレビ番組「音楽寅さん」は、僕にとっては、好きな番組ではあったけど、録画したり欠かさず観るというのではなく、家にその時間にいたらぼーっと観るぐらいの感じの番組だった。
その番組で、ある時突然、桑田佳祐が「ヨイトマケの唄」を歌い出し、そもそもこの曲をフルコーラスで聴くのは初めてで(この本にあるが『土方』などの表現のため放送自粛状況だった)、その歌詞に、テレビから目が離せなくなった。
そういう人は僕だけではなく、この放送を機に、この本の一番最後に書かれているような経緯でこの曲は復活し、2012年の紅白歌合戦で、圧倒的な迫力で美輪明宏本人により歌われることとなった。
「『ヨイトマケの唄』には、聴いた人間の記憶や体験を呼び起こし、その人の本質を明らかにしていく力がある」
美輪明宏と言えば三島由紀夫、というところであるが、この本でも三島に関して語られる部分が多い。三島への賛辞に溢れていると言っても良い。三輪本人への言及よりも多いのではないかと感じるくらいである。
「ものごとを素直に受容する力、分析の正確さ、本質を見通す眼力の鋭さ、その洞察能力には脱帽するしかない」
「日の当たらない場所でひたむきに仕事に取り組んでいる表現者たちに、三島由紀夫は太陽のように光を当ててくれる存在だった」
このような適切な観察力で多くのエンターテイナーを評価しつつ、深作欣二の、東映の上層部からまったく評価されなかった作品を絶賛し、そのため監督として使い続けられたことについて礼を言われた際にも「ああそうですか、面白かったですよ」と簡素に答えるのみで、恩に着せるということはまったくなかった。
三島の誠実さと、将来の日本を見通す力は、残された文学作品よりも後生に評価されているように思う。