my happy virus
リビングで全員がそろって、それはそれは大騒ぎしている。
夜、これから帰る、って連絡が来た。
車に乗り込んで、会社まで迎えに来たら、そこには丸くてかわいい頭が7つ、ウキウキと待っていた。
「え?全員乗るの?」
「うん。今日、宿舎にみんなで帰る」
「え。そうなの?早く言ってよー」
「今言った!ジミナー!車来た!早く来て!」
言われるがまま、指示されるがまま、まるで執事の如く扱われていた。
主は、いつになくご機嫌で、というか、全員がいつになくご機嫌だ。
まぁ、たまにこういうテンションの時がある。彼らは。
そのまま宿舎へ行けとの命令を受けて、車を走らせる。
「ねぇこれ、みて!!ジョングギの顔!!」
「ぎゃはは!なにこれ!おまえ、こわっ!!」
「公開するか!?」
「それはだめ!」
楽しい事があったのか…後部座席で、修学旅行のバスの中の如くはしゃいでいる。
夜の11時を回っている。眠い。
パーキングへ入りエンジンを止めると、疾風のようにジョングクが車を降りた。
残りの6人も彼に続き、まるでデカくて獰猛なカルガモ(?)のように連なって
ドスドスとエントランスを突き抜けて行った。
うるさい…。ものすごくうるさいし、このままのテンションだとしばらく眠らないだろう。
酒でも飲んだんだろうか。
明日が仕事だという事に眩暈を起こしながら、一人遅れて自動ドアをくぐった。
玄関にはいると、なにかの手本のように綺麗に脱ぎ散らかされた靴たちと対面する。
一つ一つ並べて、リビングへ入る。疲労は、ほとんど恐怖に変わっていた。
どうやら会社から、ライブ配信用の携帯を借りてきたらしい。
意気揚々と配信準備をする次男。
「なぁ、やっぱりさっきのであってたんじゃん!テヒョンア!うそ言うなよ!」
「違う、おれはアイテムを使ってそれをやれって言ったの〜」
「なんだよそれぇ〜もう5回も負けたし〜」
「あ、待って!これ見て!」
「何これ?取ったほうがいいの?」
「うん!あっ、違う、あ〜もう、へたくそ!」
「ユンギヤ、さっきのチャドルバギ、どこで頼んだの?」
「え?いつものところですよ。あれ会社でしか配達出来ないから」
「いつもよりおいしかった気がする」
「ヒョンがおなかすいてたからでしょう」
「でも今冷麺食べたい。ひゃっひゃっひゃっひゃ」
「あ〜ジニヒョン。冷麺は肉と平壌冷麺にしないとって〜何回言ったらヒョンは学ぶんですか!ぎゃはは!」
「や〜ナムジュナ。ヒョンは昨日も同じことしちゃったんだよ。」
「ちょっと、まさか今から頼むんですか?」
「頼まないよ。ここおいしいのデリバリー出来ないから。代わりにラーメン食べよう。ジョングガァ〜!!」
「あ〜もううるさい!夜だから〜みんな。…おっ、ジョングガ、ラーメン作るのか?作るんなら5個にしとけよ」
「ホソギヒョン、何言ってんすか。6個ですよ。今6個作ってます。」
「6個ぉ?あほ、そんなに食べるのか〜?さっき飯食ったじゃん!」
「食べれますよヒョン。ラーメンは別でしょ?一人1.5個がちょうどいいんですけど、この麺は太麺だから6個です」(←?)
至るところで別の話が盛り上がっている。
ただの彼らの日常。深夜だが…
帰宅後に一通り騒ぎ、ラーメンで満たされた彼らは、0時ちょうどにライブ配信をする、といそいそ片付け出した。(髪の毛を直したり、帽子をかぶったり。)
食い散らかされたラーメンの袋、チルソンサイダーの空きボトル(CMをし始めてから何ダースも宿舎に届いた。嫌いになりそう)、彼らが決して手を付けない洗い物をひとりで黙々と片付けていた。
やっと終わったころには、後ろのリビングで7つのつむじを寄せて、なんだか楽しそうにライブ配信をしていた。
音声だけの音声配信をするらしい。ファンのみんなにも見て頂きたいくらい、激しく動いて騒いでいる。
そのまま重たい疲労感に襲われて、自分の部屋に入った。
このマンションの壁は防音であり、いつもは防音されていると感じていたが、今日は…壁もあきらめたようである。
獰猛なカルガモたちの笑い声を聴きながら、ゆっくり目を閉じてみた。
彼らは最近新しい事に挑戦し、幸せに生きようとし、曲を作り、英語の勉強をし、健康を維持できるよう努力し、まぁ。そんなことをしているようだ。
あの子たちのおかげで、体の疲れは取れず、毎日が重たい日々である。と同時に、こんなに幸せな寝不足があるのか、と考える。
フラストレーションしかない昨今の日常に、そばでうっとおしい程仲が良くて、うるさい程笑っていて。
確かに同じ空を生きている事が、こんなにも砂漠に広がる海か、と感じた。
ーDear my happy virus!ー
on 20'27 Jul by kimchaewon
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