Life goes on. To BE.




歯磨き粉のミントのかおりと、コーヒーの味がする。
彼は氷を食べる癖があるから、冷たい唇と、ひんやりとしっとりした舌が気持ちいい。
ゆっくり絡まるそれに、皮膚がチリチリする。
咥内の奥までそれはやってきて、まるで僕を支配するみたいに。
やがて甘い唾液の味がした。脳まで響く水音に、感覚がなくなる。
口の端から、どちらともない甘いものがタラリと零れる。
ドキドキと心臓の音がうるさくなって、だんだん呼吸ができなくなる。
ふたりしかいない部屋には、熱い吐息と、服の擦れる音、そして苦しそうに小さく喘ぐ声が静かに響く。
薄く目を開けて盗み見ると、律儀にその綺麗な瞼を閉じていて、
窓際から入る太陽に、きらきら反射する長い睫がある。

なんだか唐突に心臓がぎゅっと苦しくなって、
彼の、長年の痛みであったほうと、反対側の手を握る。
僕の行動がおかしかったのか、それとも僕の心のなかを覗かれたのか、
彼は小さく笑って、指を絡めて握り返した。
そのまま彼は僕に覆いかぶさってきたので、僕は慌てて、うっとり重ねていた唇を離し、
思ってもいないのに「だめだよ」と制した。

「なんだよ」
「なんだよって、なんだよ。おまえ、怪我してるだろ。」
「そういうつもりじゃねーんだけど?」
「前もそう言って騙しただろ。もう騙されないから。馬鹿。ほら、どいて。腕、気を付けてよ」

ちっ、と可愛げない悪態をついて僕の上からそっと降りる。
離れていく彼から、いつもの香水と、体温が上がって少し火照った、彼の肌のにおいがする。

ソファに座りなおして、アイスコーヒーをズ、っと啜る。
今にも閉じそうな、とろんとした瞼。


「なんか、疲れてるね。昨日寝るの遅かったの?」
「いや。リハビリしてて、夜まで。帰ってきてそっち行こうと思ってたんだけど、疲れて寝てた。」

そういう彼の表情には、綺麗な肌の上に疲労の陰が我が物顔で居座っていた。


「ヒョンたちは、どうせ朝まで騒いでたんだろ?」
「ん、いや。あいつらはずっとうるさかったけど、ぼくは寝てたよ」
「そっか。だから電話でなかったんだな。」
「やー、それをしつこく言うなよ。謝っただろー」

僕は彼の方を向いて唇を尖らせて、文句を垂れてみる。
明け方、きっと泥のように眠っていてふと目を覚まして、動かない頭で、なんとなく不安になり、
だってずっと待っていた今日の発表を、彼はこんな風に過ごすと思っていなくて、
ひとりで目を覚ました彼の表情、そんなものを想像した。

「…まだ許してないって言ったら?」
「こら、だめ。怪我人。おとなしくしろ」


そういっていたずらにまた僕を倒そうとする彼の目は、昔みたいに不安の波は少なくて。
結局、こうして僕らは続いていくんだと、ふと思った。

結局僕らは人間で、結局何にも逆らえなくて、
時間は無常に過ぎ去って、いつも通り春はやってきて
ごめんのひとつも言えずに去った時間に、もう恨みはない。

「怪我人とする、っていうのもありかもよ?」
「ナシだよ!馬鹿。何、変態おやじみたいなこと言ってんだよ。」
「……はやくヒョンを、ちゃんと抱きしめたい」

時間は、何も言えずに僕たちの直ぐ横を通り過ぎていく。
僕たちは、生きていくしかない。ただ。
これだけ外が変わっても、幸い、僕らの絆はちっとも変わらないままだ。

Life goes on. To BE.

(Happy happy birthday JIN!)

on 20'26 Nov by kimchaewon.

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