Green Label
今日は一人でピクニックに来た。
この街に住んで1ヶ月。
いつも帰り道に見えていた小さな山に行ってみることにした。
「若草山」と入り口の看板には書いてある。
小さな木は少しだけあるが、少し伸びた若草がびっしりと山全体を覆っていた。
月の実がたくさん落ちている。月のように綺麗なので、何個か拾ってポケットに入れていく。
登り始めて1時間もかからず頂上に着いてしまう。
遠くに自分の住んでいる家々が見える。
作ってきたおにぎりを食べながら、若草山の風を感じていた。
一瞬だけ少し風が強くなる。
かぶっていた帽子が飛ばされる。
帽子を追いかけて走っていくと、地面にドアノブが突き刺さっているのを見つけた。
ドアノブ?どう見てもあのドアノブだ。
若草に思いっきりドアノブが突き刺さっている。
私はドアノブに手をかける。
ドアノブが私の手を使って勝手に回り出す。
私にドアを開けさせようとしているようだ。
ドアが開く。
地下へと続く階段がドアの向こうにはあった。
私はその階段を降りていく。
階段の向こうにはオレンジの光があった。その光に導かれていた。
階段を降りきると、焚き火をしている人がいた。
焚き火の陰でその人の姿はよく見えない。
「疲れたろう。ノド乾いてないかい?」
陰の人が私に話しかける。
「はい、少し」
「じゃあ、これをあげよう。ちょうどできたところなんだ」
陰の向こうからコップが差し出される。
コップの中には茶色い液体が入っていた。
私はそれを少しずつ飲む。
少し苦いが、コクがあって、とても美味しい。
これまで味わったことのない飲み物だった。
「気に入ったかい?」
「はい、とても美味しいです。はじめて飲みました」
「ではそれをあげよう。君が生きている世界に持っていくといい」
「はい、ありがとうございます」
「じゃあ、その代わり何かをくれないかい?君の世界のものが一つほしいんだ」
私は若草山で見つけた木の実を差し出す。
「それは月の実というものです。月のように白くて綺麗な実だから」
「ありがとう。月の実、大切にさせてもらうよ」
私は来た道を戻っていく。
階段を上ると、若草山の頂上に戻っていた。
青空も滑らかな風もなつかしい。
街に戻って、喫茶店に入る。
メニューの写真に、あの茶色い液体があった。
ん?これ、前からあったっけ?
前はなかったはずだ。こんな茶色い飲み物絶対なかった。
私はポケットに手をやる。ポケットには月の実が入っているはず。
ポケットにはドングリが入っていた。ドングリなんて拾っていない。
月の実がなくなっていた。
私はマスターに聞く。「月の実って知ってますか?」
マスターは不思議な顔をして、首を振る。
この世から私の大好きな「月の実」が消えていた。
その代わり、この世には「茶色い飲み物」が誕生していた。
苦くてコクのある茶色い飲み物。
私は毎朝それを飲む。月の実はどこかの世界で元気にしているのだろうか。
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