忘れられない小説ー『村上龍映画小説集』
二十三歳の頃だった。私は美術大学に通っていた。今、考えるとなぜ美大を選んだのかよくわからない。確かに父親が美術の教師で油絵を描くのをながら育ったのだが、自分も画家になろうなどと思ったことはなかった。たぶん仕送りが欲しかったのだと思う。どこか大学に入らなければ仕送りは貰えなかった。私は、世間的に言うと、二年浪人をしたということになっていたが、「浪人」というイメージからひどく遠い生活を、米軍の横田基地の傍で送っていた。年上の女と同棲し、GIと付き合い、ありとあらゆる麻薬をやり、い