ショートショート『まぼろしのこえ』

冬に呼吸をすると、体全体が景色と溶け込むような静けさがある。
血液がノイズを消して、はっきりと流れる音が脳内に響く。
もしも地球全体が新たな氷河期を迎えたとしても、私はこの空気を手放したくなくて、温かいもので誤魔化したくもない。
白い吐息は今日も鮮明で、それで煙草の空気を吐き出す真似をしながら実家までの帰路を歩き続ける。川の水は速すぎる西日の沈むスピードに合わせて、生きるように輝く。
それを私は、冷ややかな目で見つめることしかできないし、下ろした髪の毛も艶がないままだった。

怖いのかい
怖くはないのかい

ううん
怖いか怖くないかじゃないの
そこに挟まれているんだよ

もしこの大地と会話ができるなら
きっとこんな会話ばかりを交わすだろう

もしこのまあるい世界と言葉を分かち合えるなら
こんなことばかりを思うだろう

みんな いつかまぼろしになるのでしょう
届かない声が 今の空に詰まっているのだろうと






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