ショートショート『地球の広さを知ったとき』
「ばあちゃんは、まだここさ行ったことねぇんだよ」
私は小さい頃、世界はとても小さなものだと思っていた。
番組に映るところだけが、国の全てであり、きっと自分も大人になれば世界一周とかいう壮大なことも簡単にできると思っていた。
自分が小さい頃には既に70歳を超していた祖母は、それはそれはいろいろなことを教えてくれた。
大好きだったおやつのレシピ、母が全然作らないような手の込んだ料理の振る舞いだとか、話す時の仕草も何もかも。
昔の給食は、今と比べると美味しくなかったとか時々尖ったことを言った。
「ばあちゃんは、まだまだ行ったことがないところがたくさんある。まだ若いんだからいろいろなところに行きんさい。ハワイの海は見た方がいいんでねぇか」
大人になっていくにつれて、世界はあまりにも広すぎることを知った。
しかしながら、人生の濃さが桁違いの祖母からそんな発言を聴くとどうしても心は疑問を発する。
私たちは、どんな手を使おうとも
やりたいことを達成して死ぬということは不可能で。
だから子供の頃に想像した「りっぱなおとな」として成長することも難しいのだ。
世界は
元はと言えばこの街でさえも
どんなに足を運んでも
文化や生活をどれだけ学ぼうとも
全て行けるはずないことを
教えてくれたのは
教えてくれたのは
テレビでも音楽でもなく、身近な人であると教えてくれた、青年期の夏の出来事である。