なかたにつよし

シンガーソングライター なかたにつよし 雑感と不定期のエッセイ

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最近の記事

知らない街の真夜中で迷子になって見つめるいにしえのエレベーター

百貨店で迷子になった記憶はないけど、「小さい頃迷子になったとき館内を歩いているとき制服と白い手袋を着けた大人びたスタッフと年季の入ったエレベーターを見てなんだか途方に暮れて泣きたくなるみたいな気持ち」になったことはある。 処理が追いつかないものに出会って、ぼーっと放心してしまうことがある。物心付く前のそれをトラウマとか遠い記憶、付いた後に感じるそれ(とりわけその中でも自分自身に心当たりがありすぎるもの)を青春って呼ぶらしい。 2024年8月17日の真夜中27時過ぎ、千葉県

    • モラトリアムをきこりの泉に落としたら女神が手渡すMY FOOLISH HEART

      ついこの間吉井和哉の「MY FOOLISH HEART」を聴いていた。大学生の頃沢山聴いていたから、少し学生生活を思い出したりした。 大学で英米文学を専攻していた自分は、3回生の年末にイタリアへと卒業旅行にいった。子供の頃からなんとなく英語に触れるのが好きでどちらかといえば英語だけ勉強する手がすらすら進んだのだ。それもあって心の端で「海外行っても困らないくらいの英語力身につけておこ…」という小さな目標が立っていた。母国語が日本語の国に暮らしている我々でさえ「英語を学びな」と

      • 『幽霊船はうつらない』全曲歌詞

        Upstairs 夜光虫 作業中 飛ぶように まばたいて空仰ぐ 僻地のホテルの錆びた色したロマンス すごいな うずく 丸 ブラックホール 昇る蒸気 磨りガラス 泳ぐ世帯 居間に立って廊下眺め 煙るスパイダー 柔いスロウになって オーバーライトした螺旋階段 栓をはずしたままの湯船に お湯を沸かす連鎖じゃん もう淡い煩悩はらって抜け出し空仰げば 柔いスロウになって オーバーライトした ただなか 暮らし 天国旅行 まだファストパス使えないな 夜半くらい部屋に 窓開け放ち 眩

        • Liner Notes for The Ghost Ship

          『幽霊船はうつらない』 自分にとって初めてのフルアルバム『幽霊船はうつらない』が完成しました。それに併せて楽曲のことを軽く解説できるようなちょっとしたライナーノーツを残しておこうと書き始めた。書き始めたは良いものの、熱量がとんでもなくなったので、気軽に読んでもらいたい。まず自分はミュージシャンである以前に音楽を好きな人であることは表明しておきたい。 好きじゃないけど携わっている人もいていいけど、歌詞を書いて曲を作って歌をうたう人は音楽好きであってほしいという願いを密かに持ち

        知らない街の真夜中で迷子になって見つめるいにしえのエレベーター

          山の麓からはじめのシャッポを深々と被って覗く蝶

          いま絶賛アルバムの制作期間中である。 部屋に篭りmacbookに向き合いヘッドホンで耳を覆った姿はひとり完全に社会と遮断されたみたいな気持ちになる。社会とつながる感覚を必死で探し求めている。原体験はいつだろう。初めて社会と繋がった瞬間はどんなだっただろう。 いまは住んでいないから町名記載していいと思うけど、高校まで自分は長崎市の竿浦町という山と山の間にある道路沿いの住宅地に住んでいた。今でこそ毎日朝昼夜ずっとradikoでラジオを聴いているが、ラジオに触れて間もない頃はだ

          山の麓からはじめのシャッポを深々と被って覗く蝶

          呉服屋の誰かのものになる前の風に揺られるシャツらの鼓動

          これを書いているのは四月の半ば。 もう少ししたら五月だというのに長袖を来て外出した。暖かくならない。暑いか寒いかの二択。生ぬるいのもいやだけど、白か黒かとか行くか行かないかを問われるのもなんかいやだ。進路をみつけなさい。何かはじめなさい。別れを告げなさい。ほんとはここにいたいだけなのに、春ってそういう季節。せわしない。 せわしなくならないために、どこかに出口を見出して脱ぎ捨てるこの町。掛け違える前のボタンに熱を宿して季節と景色は等しく速度を保ちながら。いつもレコードを探して

          呉服屋の誰かのものになる前の風に揺られるシャツらの鼓動

          浅い地面燃やして溜むる民の目に幽霊船はうつらない

          幽霊みたいな町でぷんすかしながら何も持たずに蜘蛛の糸を探しながら暮らしていくのはとても退屈だ。 『GHOST WORLD』を1回目観終えた帰りの山手線でずっと考えていた。最後のバスのイーニド。あれはハッピーエンドだったのだろうか。というか、ハッピーエンドってなんなのか。その話は後からするとして。イーニド、好きだな。スカーレット・ヨハンソンの若い頃というパワーコンテンツに惹かれて観に行った大半がイーニドの方にボッコボコにされているであろう。なんか反骨でいたくて髪グリーンに染め

          浅い地面燃やして溜むる民の目に幽霊船はうつらない

          階段を昇り見つめたタワマンと同じ高さの花火のおまもり

          土曜日の夜、ニッポン放送といえばずっと聴いていた「魂ラジ(オールナイトニッポン サタデースペシャル福山雅治 魂のラジオ)」だった。魂ラジを最後まで聴いて仕舞えば自然とその後の番組も情報として入ってくる。存在自体は認識していたが、初めてオードリーのオールナイトニッポンをリアルタイムで最後まで聴いたのは、いわゆる「春日事件」後のお説教回だった記憶がある。 それからサタデースペシャルのパーソナリティーが年月の変遷とともに入れ替わっていくなかも毎週のようにオードリーのラジオは生活と

          階段を昇り見つめたタワマンと同じ高さの花火のおまもり

          賀正を終えた新春の月末までの残り火で炊いた白米うますぎる

          大晦日まで出勤していたから帰って紅白観ながら緊張の糸がぷっつんしてしまい、CDTVの朝方四時台の頃にはもう発熱していた。寝正月は近年していなかったが、今年は問答無用で寝正月だった。おまけに元旦から災害・ニュースで慌ただしく、波乱の幕開け。そんな年始にラジオを聴きながら高熱でうなされる中、何年かぶりに「怖い夢」を見た。「怖い夢」とは言っても、もうちゃんと生きてきた成人社会人だから、泣きながら飛び起きて壁に頭を打ちつけたりはしない。代わりに猛烈に汗をかいて起きた。身体中の水分が沢

          賀正を終えた新春の月末までの残り火で炊いた白米うますぎる

          クリスマスキャロルの「キャロル」が何なのか分からないまま老いて逝きたい

          ジョン・レノンの「Happy X'mas(War is Over)」いつも年末にしか流れない。山下達郎「クリスマス・イブ」もクリスマス過ぎたら霧が晴れたみたいに流れなくなる。でも羊文学の「1999」は全季節いける。タイトルに「クリスマス」って入ってないからなのか、くるりの「ワールズエンド・スーパーノヴァ」は全季節いけるし、ポール・マッカートニーの「No More Lonely Nights」もいける。いつ聴いても良い"という状態を自分は"全季節いける"と呼んでいる。季節のこと

          クリスマスキャロルの「キャロル」が何なのか分からないまま老いて逝きたい

          天国がもしもほんとにあるとしたらそれは僻地のリゾホのさびしさ

          ここですべて事足りているとほんとうに思ってしまう場所を知っているだろうか。5年くらい前に九州に帰ったとき、遠出して山間のリゾートホテルで一泊したことがあった。そこには地方の温泉リゾートが出し得る限りのすべてがあって、これ以上他に何が要ると言いたくなる空間だった。バイキングはなんでも出てくるし酒もある。噴水とライティングのショー、スーパー銭湯2つ分ほどのバリエーションがある温泉。天国だった。でも何処か時が止まっているような香りがして、ふと我にかえったら急に身体がしゅんとなってし

          天国がもしもほんとにあるとしたらそれは僻地のリゾホのさびしさ

          マルチバースの知らない世界では人がヤクルト1000を毎夜呑んでいる

          ここだけの話、自宅の居間のテレビ画面はマルチバースと繋がっている。 自分が生きている世界の何処を探しても実際に手に入らないものがテレビで名前が上がる。そう、ヤクルト1000。いくら近所のスーパーを探してもないのだ。 試しにiPhoneを開きGoogle検索で「ヤクルト1000 存在しない」と入れてみた。どうやら存在はしているらしい。iPhoneの画面もマルチバースの扉と化していた。大変なことになった。知っている世界と知らない世界が衝突している。インカージョンがはじまって

          マルチバースの知らない世界では人がヤクルト1000を毎夜呑んでいる