作品ヒットの要因(2)「原初的な欲求、動機」
前回の記事において、作品のヒットには時代性が深く関わっており、作品をヒットさせるには現行の流行に左右されていない、その時の流行や時代性と逆を行くことがポイントになると述べた。
では、時代に左右されない、普遍的な、どの時代のどの国の人にもアピールできるような物語づくりの「ヒットの法則」はないのだろうか。
結論からいうと、それは「ある」。
それは、ヒットの「法則」というよりも、ヒット作に「共通する要素」といったほうが正しいかもしれない。
多くのヒット作は、例外なくその要素を持っている。
今回は、そんなヒット作に共通する「ヒットの法則」について、考えてみたいと思う。
ヒット作品は、人間の持つ「原初的な欲求、動機、本能」に訴える要素を持っている!
ヒットの法則、つまりヒットする作品に見られる共通点とは一体何か。
それは、人間が持つ「原初的な欲求、動機、本能に訴える要素を持っている」ことである。
原初的な欲求、動機、本能とは、さまざまな文化、風俗、民族性、価値観、宗教、育成環境、生活状況、経済状況に関わらず、「どんな人間でも持っている、もともと備わっている感情、欲求」のことである。
これは、人間の根本、根源、本能に根ざしているものでもある。
具体的には、次のようなものが原初的な欲求、動機だといえる。
・「死にたくない(生き延びたい)」
・「素敵な異性と結ばれたい」
・「喜び、楽しみ、幸福を得たい」
・「苦痛を避けたい」
・「大切な人を守りたい、助けたい、幸せにしたい」
一つひとつをみていこう。
第一は、死にたくない、生き延びたい、つまり「生存欲求」「生存本能」である。
精神的な疾患や病気による耐え難い苦痛を受けているといった状況でなければ、人間は誰もが「少しでも長く生きていたい、死にたくない、生き延びたい」と思うだろう。これは人間に限らず、すべての生物が持つ本能でもある。
第二は、素敵な異性と結ばれたい、つまり「恋愛感情」である。
これは非常に強い欲求で、異性と結び合って子孫を残すために必要な感情であり、その生物が種として繁栄するために備わっている生命の根源に根ざしたものである。これも有性生殖を行うすべての生物が持つ本能である。
第三、第四は、喜び、楽しみ、幸福を得たい/苦痛を避けたいである。
心理学では、人間の行動原理は「喜びを得たい」か「苦痛を避けたい」かのどちらかしかないといわれている。
自ら進んで不幸になりたいと思う人はいないし、悲しみや苦しみを感じるよりは楽しく、喜びを感じたいと誰もが思うだろう。
肉体的な苦痛も精神的な苦痛も、できることなら避けたいと思うのが人間である。
また、楽しみや喜び、幸福の定義にはさまざまなものがある。金銭的に豊かになることが幸福だと思う人もいれば、誰かから認められる、愛される、気の合う仲間たちと親しく過ごす、あるいは自己実現や自己の成長が喜び、幸福だと考える人もいるだろう。
だが、幸福の定義は違っても、幸福を得たいと思って行動していることにおいては、人間は皆同じである。
そして最後は、大切な人を守りたい、助けたい、幸せにしたいという思いである。
人間誰しも、自分にとってとても大切な存在がいる。それはたとえば親や兄弟、伴侶、子どもといった家族であったり、親族、恋人、友人、親友、恩人、恩師、教え子など、人によってさまざまだ。
そして人間は、それら大切な人が困っていたら助けたいと望み、危険や敵に狙われていたら守りたいと思い、それらの人々が幸せになってほしいと心から望んでいて、そのためには自分のことを犠牲にしてでも大切な人のために行動する。子どものためなら何でもできるのが親だし、愛する者のためには命を投げ出すことさえするのが人間だ。
これら5つの要素は人間ならば誰もが持っている感情であり、子どもから老人まで、男性も女性も、世界中のどんな文化圏の人でも理解、共感できるものなのだ。
そして、ヒットする作品は、必ずこの5つのうちのいずれかの要素が作品の中に含まれている。
これらの要素が作品と結びついているおかげで、物語が誰もが理解し共感できるものになり、ヒットしやすくなるのだ。
「5つの原初的な欲求」の作品への盛り込み方
では、これら5つの原初的な欲求をどのように作品に盛り込めばいいのだろうか。
具体的には、次の要素に原初的な欲求の要素を盛り込むようにしよう。
・主人公の信条。
・主人公の目的、目標、願望、欲求、夢。
・主人公の行動原理、動機。
・作品の企画、アイディア。
・ストーリー展開。
・世界観、状況設定。
たとえば、よくある「洞窟の通路で主人公の後ろから巨大な岩が転がってきて必至で逃げるシーン」や、「高くて危険な場所を進まなければならないシーン」などは、読者の生存本能に訴えかけるシーンであり、誰もが理解、共感することができる。
また、愛する者に愛を伝えたり、愛を育んだり、片想いをして辛い経験を味わったりするシーンなどは、「素敵な異性と結ばれたい」という読者の感情に訴えかける。
さまざまなキャラクターは、各人が思う「喜び、楽しみ、幸福」のために行動し、人によっては「苦痛を避ける」ために法に触れることもすることがある。そんな人間味あふれた生身の人間として登場人物を描くならば、多くの読者が親近感や共感を感じ、その内面を理解する生き生きとした登場人物を生み出すことができる。
主人公が「大切な人を守り、助け、幸せにする」ために、そんな動機で誰かのために行動するならば、そんな主人公に読者は強く共感し、応援したくなるだろう。
これは盛り込み方のほんの一例だが、この他にも物語のさまざまな要素に「原初的な欲求、動機」を盛り込むことができる。
誰もが理解、共感できるこれらの要素が作品の根幹にあることで、多くの読者がその作品を支持し、結果ヒットに結びつくのである。
もしあなたが今作品をつくっている最中なら、そこに「人間の原初的な欲求、動機」に関わる要素があるかどうか調べてみてほしい。
もしそれらの要素がなかったり、弱いならば、ぜひ作品に「人間の原初的な欲求、動機」に直接訴えかけるものを盛り込んでみよう。
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