Watcher #9
“あれ”になる夢をみたんだ。
自分が。
前に話すって言ったろ。
夢のはなしを。
おれがなった“あれ”は、おれが見たことないやつだった。
見た夢は、こんな夢だ。
おれを含めた、三人の人間がいた。
場所は、夢だとよくある、どこともつかない場所。
その内のひとりが、変な記憶を思い出すと告白しだした。
「どんな記憶だ?」と聞いた。
せまいところに、誰かと閉じこもっている、記憶らしい。
それが全く、いつのどんなときの記憶かは思い出せないのだけれども、ときどきふと蘇ってくるそうだ。
その告白を聞いたもうひとりが、つられたように打ち明けはじめた。
似たような幻を体感すると。
幻といっても、見るのではないのだと言う。
「見えなくなるんだ」
目が見えなくなるというより、視覚がないという感じで···
だから明るさも、暗さも感じない。
そして、逆さのような状態でいる感覚がある。
だけど、ほんとうに逆さなのか、逆さではないのか、わからない。
「どこが似てるの?」と、聞くと。
「おれも誰かと閉じこもっている、感覚があるんだ」
と、返ってきた。
そして最後におれも、夜みる夢のは話をした。
そう、おれは夢の中で夢の話をしたんだ。
おれの前に話したやつが、視覚がないと言ったけど、おれも夢の中でまさにそれだった。
洞窟のなかの目のない生き物は、自分に視覚がないことに対して、なにも思わないだろう。
夢の中のおれは、視覚がないことに、なにか思うことはなかった。
それが「当たり前」だったから。
上半身に、なにか閉じ込めて立っている夢を見た。
閉じこめているのは、体の中にではなくて···
例えるなら、手のひらのなかに親指を握りこんでいる感じが近いのかも。
自分の体のつくりが違うのがわかる。
体感が違うんだ。
それぞれが話を終えたあと、おれたちは気づいた。
自分たちが人間ではないことに。
さらに、おれたちはバラバラの存在ではなかったこと。
説明するのが難しいけど···
例えるなら、右手と左手と頭、それぞれに違う人格が宿っていると思い込んでいるような錯覚をしていたんだ。
つまり、おれが話していたふたりは、自分だったんだよ。
夢ってなんでもありだよな。
“あれ”になった、おれの頭のひとつは、蝶のサナギだった。
そのサナギのなかには、石英管のようなモノが入って、光っていた。
悪夢だったと思う?
嫌な感じはしなかったよ。
むしろ、心地よかったんだ。