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ある孫の日記 その2

「そこにお金を使う余裕がない、1冊2000円くらいするでしょう」

祖母が家にきた。私にとっての父と母と一緒に。栄養バランスを著しく欠いたお昼を一緒に食べた。先週祖母と食べたお昼と大違い。

昨日読み返していた土門蘭さんの『死ぬまで生きる日記』がテーブルに置いてあったので、「これ、いい本だよ」と手渡す。

「今読んでるの?」
「昨日読み返してた」
「読んでいいの?」
「うん」

ソファに座り、眼鏡を外し、すぐに読みはじめる。読みながら「健康な人は死にたいと思わないっていう人いるけどさ、健康でも死にたいと思うことはあるよね、いろんなタイプの人がいるんだから」とつぶやく。


しばらく読み続けて、「おもしろい、借りてっていい?」というので、「もちろん」と伝える。

「どこでこういう本を知るの? 自分じゃ買おうと思っても買えないから、ありがたい」と祖母。

「本屋だったり、SNSだったり、知り合いから紹介してもらったりだよ。おばあちゃんは、本買わないの?」

こう聞いたら冒頭の言葉が返ってきた。そっか、そうだ。79歳、年金をもらいつつ、日々の生活費、これからかかるお金がどれくらいなのか、突然必要になるお金はどうなるのか、その中で、1冊2000円の本を気軽に買うのハードルが高い、と勝手に想像する、勝手に。

祖母の家のまわりはどこへ行くにも、急な坂だらけだし、近くに図書館もないし、あたらしい本と出会う場所も限られている。

祖母とそんなとやりとりをする傍らで、父と母は彼らにとっての孫、祖母にとってのひ孫、私にとっての子と遊んでいる。祖母もひ孫が声を出してはしゃぐ姿をみながら笑みを浮かべる。

「おむつ1日にどれくらい変えるの?」「うーん7枚とか8枚とか?」「私の頃は、布おむつ1日に何十枚も洗濯して干してた、3人いたから。しっちゃかめっちゃかで、こどもたちが裸でごはん食べている姿の写真がたくさん出てくる、洋服着せる暇もなかった」

その写真は誰が撮ってたの?と聞きたかったけれど、違う何かが起こってしまったので聞きそびれた。たぶん子がミルク吐きこぼしたとかなんとかだった気がする。

「本、借りてくね、おもしろいから、すぐ読んじゃうと思う、すぐ返すね」「じゃあ、今度おばあちゃんち行くときに受け取るね」「うち来てくれるの?」「うん、また近々」「じゃあ、そのときに」

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垣花つや子(かきのはなつやこ)
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