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本とウシ君と俺。

俺の婆ちゃんは岩波書店で働いていた。

岩波書店で生きた。

そのことを、少しだけ、ほんの少しだけ、俺は誇りに思っている。岩波書店のあの錚々たる面子に、ウチの婆ちゃんは戦時中から関わっていた。
彼女についての話しは沢山あるが、俺はそれを今回、それは話さない。

俺は、そんな理由から少しだけ肩入れして岩波書店の本を読む。この本だって、婆ちゃんが頑張らなかったら出てなかったかもしれないんだぜ、って勘違いを持つ。その勘違いを、俺は誇らしいと思うし、俺の貧弱な本棚に岩波書店の本があることで、俺は俺を少し誇らしく思える。

岩波書店が持っていた映画館に母親と良く行った。そこの映画館は、岩波書店らしく、新宿や渋谷にある、クソみたいにデカい映画館とは違った。まず、ラインナップの中に、知ってる映画はない。世界中の映画の中で、岩波書店が選んだ、これ観ろや、すげえだろ?って映画が並ぶんだ。

岩波書店の映画選別は、お金ではない。儲かるから上映してるとは到底思えないラインナップなんだ。広告でもない。そして映画ファンを増やす為でもない。それが俺みたいなチビでも分かった。

特別最高な映画。しかし、中々埋もれてしまい日本の普通のヤツが触れることの出来ない映画ばかりだった。
アンダーグランドなのか?普通知らん映画を選んで落としてんじゃね?俺みたいなチビはそう思っていた。


俺が今まで観た映画の中で最も好きなものは、苺とチョコレート、だ。それも、岩波書店が作ったその映画館で観た。観た後興奮して、なぜこれを皆は観ないのか不思議な気持ちになった。

誰にこの映画の話しをしても通じたことはない。

そこの、映画館はいつもおじさんとおばさんとおじいさんとおばあさんしか居なかった。
建物はボロいが、全体的に、重厚な作りに思えた。俺は、チビながら、ここは少し違うとこだって分かっていた。母親が俺を連れ出すのは、このチビは、鋭利な感覚をもち理解力がずば抜けていて、天才だからちゃんと育てようと連れて行っていると、俺は、考えていた。もちろん母親の意図は違う。 

大人しかいない映画館を俺は、好きになった。

母親と終わった後、何時間か作品について喋る。
喫茶店に行き、紅茶とケーキを食べながら作品の良し悪しを兎に角喋る。あの時、もし、Googleかあったら、俺と母親は多分死ぬまで話したと思う。調べることが出来ないことは放置するしかない。俺たちは、だが、喋った。

無駄に喋る。

その美しい文化を、この時に獲得した。
そのうえ、ヤバいものについて無駄に喋る、ことは、とても愉快だ。愉快な行為なんだ。

それを、その時手に入れた。

谷川俊太郎さんが死んだ。

正直彼の詩は、俺は好きじゃない。

彼の作品は何冊か読ませてもらったが、俺が好きなものはマザーグースの翻訳くらいだ。マザーグースの翻訳は、最高に良かった。が、他は、俺はなんとも思わなかった。好きな人が多いのだから、俺くらいが好きじゃなくてもいいと思うし、別に彼にとって痛くも痒くもないだろう。

9partyの日に、ウシ君と話した。ウシ君はnumber twoのギターで、俺たちはFEWWWのアルバム製作時代のギターだ。天才だと俺はこいつのことを思っている。が、少し頭は硬いし、理屈は拗けているし、曲は良い曲作れるが中々性格が難しい。まぁ、それが天から貰った才なのだから、そここそがウシ君の魅力でもあるのだが。一方で、俺は中々良い性格をしている。褒められる事が多い。だからなのか、俺の性格の良さに惹かれて難しい性格のウシ君も、俺に結構良い話しをしてくれる。俺は、ウシ君の話しを信用している。

「ブレイディみかこさんと谷川俊太郎さんのやりとりが本になっているの読みました?」

俺は、ブレイディみかこさんが大好きだ。が、あの有名になった黄色い本以後、あまり読まなくなった。それは俺の衰えと彼女と感覚が違ってきた、というネガティブか気持ちに寄りかかりすぎたせいだ。

「俺、谷川俊太郎あまり好きじゃないんだよね、詩も、言う事も、あんまりねえ…」

ウシ君は、俺に、いやそれは分からんでもないが、そうじゃないから読めたら読んだら?と勧めてくれた。
記憶に留めた、数日後。これを手に入れた。


最の高の本。

「その世とこの世」

出したのが岩波書店であるという美しい事実と、ブレイディみかこ、谷川俊太郎、双方の腕を回す姿が美しいこと、奥村門土の絵が素晴らしいこと、それを理由にこの本を勧める。

この本を、読み進めていく。
パンクについて何度も考えてしまう。
ブレイディみかこはすげえ。ほんとにすげえ。
美しいものは見ると愉快な気持ちになる。
俺は、ブレイディみかこの変なパンチの切れ味にまた虜になった。

俺たちは拗けている。
その認識を変える気はない。
素直なパンチはチャンピオンにくれてやれよ。

この本を読めて本当に良かった。

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