二階建て坪庭付き・伝統的な和風白壁家
結婚してしばらくして父が亡くなり、母と一緒に暮らし始めた。部屋数の多い借家を求めていた。妻が伝統的建造物群の端の和風白壁の家を見つけてきた。
豪商が建築したらしく、しっかりした造りの2階建てだった。貸主の母屋と渡り廊下で繋ぎ、間に坪庭が設けられていた。坪庭は京都の観光地で見られる壺庭には引けを取らない格調があった。
伝統的建造物群は室町時代の遺構の溝割りを残して、建造物群が建てられている。いわゆるウナギの寝床のように奥行きが長い。大正時代か、昭和初期か、聞き漏らしているが、まことに古いが、寂を纏っていた。
白壁は厚く、1尺(30センチ)の厚さ(残念ながら足元が崩れ始めていた)、一、二階とも(ですよ)、床の間が設置され、2間床であった。押し入れも奥行きが深く、使い勝手に難があった。戸の幅が広い。
家の中に井戸が用意されていた、使いはしないが。興味深かったのは、1階から2階への階段口には「扉」が引き出し可能になっていた。防犯用の仕掛けだった。2階に上がり、「扉」を引き出してしまえば、1階から2階へは上がれない。夜盗が入った形跡はなかった。
こんな伝統的建造物群に家を借りて住み、犬・キングを引き取った。その前に猫が寄ってきていたが。キングは玄関に繋がれ、子供が学校から帰るのを待っていた。子供が家に帰ると、真っ先にリードから離す。大よろこびで部屋中を駆け巡っていた。
子供が学校に行っている間は、何とかして部屋に入れてもらおうと必死で柱を引っ搔いた。伝統的建造物群なのに。犬にとっては、部屋に入れてもらえるのが望外の幸せ。用事がない時は部屋で放し飼い。ベッド用に当てがった籠に頭を垂らして熟睡。夫婦でくすっと笑うと、寝ぼけ眼で頭をあげていた。
リードで繋がれ、家人が帰ってくると、中に入れろと柱を磨く、いや傷つける。その柱は借家にするために許可を取って改装したものだった。多少傷ついても造作すれば事足りると踏んでいた。
家を引っ越すことになり、整備して出ていくと、大家から電話があり、「今度、店を新築するので、離れを利用することになり、見てみると綺麗に保たれている、「驚いたわ、助かりました」と電話あり。妻が伝えてきた。
大家の家は店舗(以前は地方百貨店並み、百貨店としては小さかった)として新築され、併せて離れも取り壊され、別屋となった。※普通の蔵風の小型の家に。
困ったことはあった。田の水路が玄関横を走り、季節には蚊の踊りが見られた。蚊取り線香を切らしたことがなかった。
都市計画で改装され、もう、今は面影もない。