妻の記録:とうとうやっちまった~
妻が少し前のことを盛んに聞き出してから3ヶ月。8月最終週の月曜日、右手を朝抜けに椅子の上から窓ガラスを拭こうとして落ち、手を着いて手首を中心に打ち身した。
掃除・洗濯・炊事と家事をこなさざるを得なくなった。掃除は1年前からロボット掃除機に代わり、担当していた。洗濯は洗濯機を替えたばかりで、全自動でやってくれる。これほど簡単になっているのか、驚きと感激でこなしていく。
しかし、料理は多少面倒だった。以前、母が病気になったとき、家庭の料理を担当した。料理のノウハウは持っていた。妻が帯状疱疹が酷く、そのときにも家事を担当し、料理も担当していた。子供たちのために、キャラ弁のようにはいかないものの、綺麗に盛り付けまで考えて料理した経験がある。
妻は右手の打ち身なので、全然料理ができない。単純なメニューだが、料理し始めた。料理ができるからと言っても10メニューを越えない。「なんとか」というよりも、楽しんで料理していた。妻はその間、一切手を出そうとしなかったし、手を出せなかった。テレビを見たり、寝たりしている。朝起きたばかりなのに、朝食が終わると、寝るという。身体が治るのに要求しているのだろうと思い、自分で寝るには不自由で、寝かしつける。妻が寝ると、ごくうが待ってましたとばかりに足の間に入って寝に入る。
味付けは単純で、ミリンと日本酒を必ず使う。塩などは使わないが、胡椒と塩が一緒に入っている調味料を肉料理の時に振り掛ける程度である。ベースの味が決まってしまっている。
妻はいつの間にか食べる料理をえり好みしなくなっている。
「これは恐ろしいぞ」
そう思っても、声には出せない。
順調に一人で料理していたが、妻の打ち身が多少和らいだらしい。合間、合間に台所仕事をいつの間にかできることをやっている。しかし、統一性がない。片付ける途中で、食器などを放りっぱなしにする。ものをあちらに置いたり、こちらに置いたり、
「ここに置いたはずなのに、おかしい。どこにいった」
イライラが昂じてくる。二度三度と起こり、件数も増えていった。
料理中に必要なものが置いた場所にない。
「また、どこにやった」
語気が強かったらしい。妻が涙ぐんでいる。
「怒らないと決めていたのに、終に怒ってしまった」
自分の堪忍袋の緒が短かったことに驚きもした。すぐ謝れないが、料理に専念する。
料理ができると、妻は黙々と食べている。色々気を遣ってやると、いつの間にか、機嫌が良くなっていた。安堵する。
もう聞こえるように愚痴は言わないと決めた。
妻は機嫌が良くなっている。少しでも指摘するような表現をすると、
「どうして♫そうなったんかね~♫。言わないで~♫」
妻の方が先に乱から抜けていた。