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甘い誘惑の一夜

※画像:https://coco-tte.jp/wp-content/uploads/2023/01/cocotte_gourmet_SheratonGrandeTokyoBayHotel_01.jpgから加工。

※「ルビー」はケーキの名前:宝石言葉(宝石の石言葉)「情熱」「良縁」「勝利」

古都の街並みは美しい。男は街並みを楽しみながらそぞろ歩く。関西への出張があると、よく古都に立ち寄り、土産を携えて帰る。

ふと見上げると、半月が見える。街並みの光でもよく輝くように見える。月に誘われるように、男は学生時代によく行った洋菓子店に足を運んで行く。

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ケーキ屋には、色とりどりのケーキや焼き菓子がショーケースに並んでいた。男の目を奪ったのは、深紅の光を放つ、美しいチョコレートケーキだった。

そのケーキには、「ルビー」という名前が付けられていた。店主に尋ねると、ルビーは、幻の赤いカカオ豆から作られた、世界でも数少ないチョコレートなのだと言う。その味は、甘く、酸味と香りが複雑に絡み合い、食べた者の心を一瞬にして虜にするという。

(彼女に・・・)

一緒に食べよう。踊る心を押さえながら彼女を尋ねる。

大学を卒業して、3年後、彼女から手紙が来た。別れの手紙だった。便箋に涙が滲んでいた。彼女のいる場所を尋ねたが、もはや彼女は去っていた。

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男は、その夜、ルビーを味わうことを決意する。ルビーを口にした瞬間、男は、まるで遠い記憶の中にいるような、不思議な感覚に包まれた。男は、ルビーを味わいながら、過去の思い出に浸る。そして、ルビーの甘く切ない味は、彼の心を揺さぶり、忘れかけていた感情が蘇っていた。

彼は脇目も振らず、仕事にまい進していた。すでに、ボードのメンバーになっている。新幹線の窓ガラスに映るフェイスにも皺が目立つ。

(でも・・・)

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仕事の区切りの休日、彼は彼女の友達を尋ねる。友達から彼女の消息を得て、彼女を尋ねる。手には「ルビーのケーキ」。

彼女の目から涙が溢れ、ケーキのルビー色が写り込む。

「だいぶん、時がたったね」

彼女が頷く。

「一緒に古都を訪ねよう」

彼女が頷く。