夕立や 濡れたる竹に たそがれる
竹細工の仕事を終える。1日の終わりだ。
疲れた身体を振り絞る様に伸びあがる。竹の緑はもう濃い。青緑の粉を吹いている。もう、竹皮も落ちてはいない。
背の後ろに、竹ヒゴが積もっている。両手を伸ばし、背伸びする。一歩一歩と踏みしめるように竹藪の際に入る。青緑の竹の肌を愛でるように撫でる。明日への勇気が湧き始めた。
竹林の間から空を見上げる。雲が走っている。(晴れているのに・・・)見上げながら背伸びする。まだ、空気は温かい。
頬に雫が一滴、一滴、また一滴、竹の葉が雫を受ける。次から次へ、雫は纏まって降り始め、竹の葉が雫を引き受けて、広がる。雨の音が、竹の葉を、竹の枝を、本格的に叩きつけていく。
佇む頭に雨が容赦なく降りつける。佇む衣に雨が容赦なく降りつける。竹藪は風に煽られる。竹の枝も震える。竹の葉も萎れるように雨に押される。
やがて雨が小降りになり、夕立の雲が切れ始めると、竹の葉に残る水滴が淡い光を放ち始めた。
雨は疲れた身体を洗い流す。雨は疲れた心を洗い流す。やがて身体は清廉と張り、心は黄昏から馴染んでいく。夕立は去っていく。
黄昏る日は青い光柱を伸ばし、三日月は輝きを増し始める。
穏やかな夕べが始まる。
※「光柱」特定の条件下で空気中の氷晶や水滴が太陽や月の光を反射してできる現象で、青筋のように見えることがある。