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ごくうが行く:ワンピースのギタリスト
標題画像:村治佳織
ワンピースのギタリスト
ごくうは散歩が大好きである。散歩予定時間の30分を切ると、クーン・・・クーンと鼻泣きする。散歩時間10分前になると、ワンとこれ見よがしに吠える。予定の散歩時間を過ぎると、怒るように吠える。「ワン・・ワン」。
夏が始まった頃、ごくうの散歩コースを外れ、キングとさくらの散歩コースを選んでいた。途中に団地入り口に橋が架かっている。いつも人がいるわけではない。途中からギターの音が橋の付近から流れてきた。ごくうは音楽に興味はない。黙々と歩く。
ごくうが橋の手前に来ると、可愛がってくれる人を発見!尾を振りながら、例によって近寄り、ワンピースの演奏者の顔を見上げる。
「まあ、可愛い・・・」
お姉さんはギターの演奏を止めて、ギターを小脇に抱え、ごくうを可愛がる。ごくうは可愛がれるまま、身体をくねらせる。かなりお気に入りらしい。ひとしきり、可愛がられると、ごくうは歩き出す。
お姉さんはしばらくごくうを目で追っていたが、スマホで電話を掛けたらしい。後ろで話し声がする。その気配を感じながらごくうはマーキングするところを探しているのか、少しずつしか前に歩かない。
ごくうは急に前に進まず、踵を返して橋の方に向かって歩き始めた。ごくうの行きたいところがごくうの散歩道。ごくうに従って歩き、フォローして行く。ごくうは当然のようにワンピースのギタリストのところに帰って行った。思わず、お姉さんが。
「あら、お帰り。」
ワンピースのお姉さんはギターを抱えながら、ごくうを撫でる。
「散歩にお行き。」
ごくうは納得したらしく再び歩き出した。ワンピースのお姉さんのギターが楽曲を奏でている。ごくうの足取りは軽い。