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風の色は何色-0 ※一人称文体
冬が終わり、春の兆しが顔を出し始める頃。
私は春にむけて受験勉強をしていた。文学部を目指している。いずれ、「風」をテーマとする論文を書きたいと思っている。時に触れ、折に触れ、「風」を考えてきた。受験勉強の時でも、風が頭をすぐ去っていく。
もう受験日が迫っているのに、詩のなかの「風」、どんな捉え方をしているのだろう、気になってきた。気になると、やみくもに知りたくなる。
私は図書館に向かった。『風の詩』を探すためだ。薄明るい日差しだが、暖かくなってきていた。図書館に足を踏み入れた瞬間、私はこの場所で「風」を感じたくなった。
戸を開けた隙間から外の風がゆるやかに入り込んできた。その風は、静かな図書館内に新たな雰囲気を吹き込むように流れる。本棚の間を優しく撫で、ページをめくる音を伝えていく。
『風の詩』(723.1)を捲りながら、考えを巡らせていく。空けた窓の間から空気が流れていく。ただの空気の流れではなく、理性や感性を自由に運ぶ力を持っているように思えた。受験勉強中だが、借りることにした。
本を片手に、思いにふけりながら廊下を行く。貸出カウンターの手前に小説コーナーがある。ふと見ると、『風の盆』(913.6)という本を手に取っている男性がいる。見つけているのか、読んでいるのか、考え込んでいるのか、判然としない。
彼がその本の表紙を閉じた。(そうか、そんな方向も・・・)『風の盆』の文字が去来する。急に私の脳に風が吹き込んでくる。
「その本、すごくいいよね」私は思わず声をかけた。彼は驚いたように私の方を振り向き、視線が交わる。私の言葉には、風が持つ力や、そこに込められた感情が反映されていた。「風って、ただの自然現象じゃなくて、私たちの気持ちや感性に訴えかけるものなんですよね」いつもの友達に声をかけるるようなイントネーションだった。彼は一瞬驚いたが、表情が柔らかくなる。
彼はうなずきながら、目の前の本に視線を戻す。「確かに、風の感覚を感じると、いろんな想いが湧いてくるよね。絵を描くときも、そんな「風」を意識したい」と。(絵画・・・)私の頭が彷徨い、走り出す。「私たちの心の中の風が、作品に影響を与えるんだと思う」彼の目が穏やかに泳ぎ、輝く。
この瞬間、図書館の中での「風」が、私たちの会話や思考を結びつけてくれる架け橋となった。彼の朧げな考え方が、私の言葉によって新たなインスピレーションを受け、互いに触発し合う関係が生まれていく。
こうして、図書館に求めてきた「風」が、私たちの夢や思いを揺さぶり、春の訪れと共に新しい記憶を刻んでいく。
*
受験が終わった。彼も大学へ帰っていく。
私は彼を誘った。
「このまちの今を記憶にとどめたいの」
一緒に留めるべく、彼も
「このまちの今を記憶にとどめたい」
私達はお大師山に向かう。
心地よい風が流れていく。
風の色は何色-1