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交差するレモン

高層ビルが夜空に浮かぶ。オフィスの窓からは無数の灯りが見える。

朝倉は、仕事に対する情熱を失わずにいる。仕事一筋で行くと決め、キャリアを築くために全力を尽くしてきた。今はチームサブリーダーとして配属されている。

チームに千珠が新しく配属されてきた。定式通りの挨拶を済ませて仕事に戻る。千珠はコモン・フリーアドレスに案内された。すでに研修を終えていた。研修に立ち会った同僚に説明を受け、タスクを担当する。

新規のプロジェクトが立てられた。テンタティブなチームリーダーに朝倉が指名された。千珠も横滑りのような形で担当することになった。※チームは7人。

タスク立ち上げ時の慌ただしさがなくなり、残業する者も次第に減っていった。朝倉も初動タスクが大方終わり、ルーティンでの仕事になりだした。帰宅しょうと、ふとオフィスを見ると、2人が残業している。朝倉は視線が千珠に廻るとき、その仕事ぶりが印象に残った。残業でも、千珠の眼は生きていた。

千珠は仕事への誇りもあったが、業務に対する真摯さが姿勢に現れていた。朝倉は千珠の姿勢を見て、(綺麗な線だ)、頭の中に透過していく。同時に、朝倉は仕事を始めた頃の姿勢を思い起こしていた。(ここに昔の自分がいる)朝倉は仕事へのギアが新しく入った気がした。

新規プロジェクトが大詰めを向かえ、それぞれの配属先が決まっていた。もう残業することもない最終日、朝倉は千珠を誘った。丸の内の歴史的建造物に営業している和食料理店を出た後、皇居筋を散歩し、帝国ホテルのラウンジで杯を交わす。

朝倉に、千珠の仕事と違った印象が広がっていく。千珠も緊張がほどけたのか、ふと朝倉の雰囲気の変化に気が付いた。朝倉も千珠のたおやかさに気が付いた。(こんな側面が・・・)千珠も朝倉の硬直した世界を柔らかくし、新たな視点をもたらしていた。

新しいプロジェクトが立ち上げられ、朝倉と千珠は異なる場所に移籍した。数か月後、残業も無くなった頃、丸の内のオフィスから明かりが少なくなっていた。エレベーターから降り、東京駅前の皇居口で待ち合わせた朝倉と千珠は、寡黙ではあるが、微笑みを隠して、同じ方向に歩いて行った。