ごくうが行く:親子ずれ3組が次々と
散歩を終えて、シャッターを下ろす。西を見ると、山の端は雲がなく、赤い単色の西空だった。今日、散歩に行く時間は早かった。
ごくうは坂を上がるコースを選んだ。中学校グランウド裏手に空き地がある。その空き地には、よく近くを訪問した人が駐車している。黒い車が止まっている。ごくうは空き地の入り口付近でよく用を足す。ごくうはマーキングに余念がない。
道路を隔てた家から声が聞こえてきた。見ると、年始の挨拶で訪れたのか、夫婦が見送りの挨拶をしている。分かれの挨拶をしているのは、若い夫婦と2才位の男の子に高齢の男性一人。3世代か。
ごくうの熱心なマーキングの間に近寄ってきた。ごくうを見るなり、若奥さんが「触っていいですか」と尋ねたときには、ごくうは輪の中に入っている。男の子は少し遠巻きだ。若主人はすぐさまごくうを撫でながら、「何犬?、柴犬?、ポメラニアン?大人?」と立て続けに質問。定番の答えで返す。「柴犬とパピヨンのハーフです。」
「何才?」
「もうすぐ9才です」
「若いね~、うちのはパグ犬。3才だけど年寄りみたい、若いね~」
撫で回す。奥さんは遠慮気味に触るだけ。
「パグ犬は若くても容貌が・・・」
慰めでもないコメントが出る。
奥さんは「うん、うん」と頷く。
高齢の男性もコメント連発。
子供は近づこうとしては、尻込み。
ひとしきり可愛がった夫婦は子供と高齢の男性と駐車場に入って行った。ごくうは、終われば、マーキングも終わっている。さっさと踵を返し、散歩コースへ。
ごくうは時にショッピングセンターを回るように散歩する。よく吠えられるレオ君に散歩中出会う。捨て犬を見つけた人が世話して引き受けていた。最初は大きくない犬と思っていたが、かなり大きい。体重は20数キロくらいか。でも、部屋飼いだ。小さいときには、鼻泣きするほど喜んでいたが、大きくなると、太い声で吠える。
いつものコースをほぼ終えて帰りのコースに向かおうとすると、横断歩道で車に出会った。家族が乗っているようだ。ごくう側の窓から、うら若い女性がごくうを覗き込んでいる。気がついた女の子は軽く会釈すると、車は走り去った。
(さぁ、横断歩道を渡って帰ろう)と思ったら、ごくうはまた散歩に行く方向に舵を切っている。もう一周するのか。(運動不足だ。付き合うか)ごくうは先ほどの空き地に出てマーキング。
ふと右を見ると、白い犬影が。(ビビちゃんだ)もう家に続くコーナーを曲がっていく。ビビちゃんはパピヨンだ。ごくうと仲がいい、少し尻込みするけれど。
ごくうの動きが怪しい。ビビちゃんの臭いを嗅ぎつけたのか。日頃行きもしないコーナーを曲がってビビちゃんのお家の方向に。(どうした、ごくう、ビビちゃんに会いたいのか)
もうビビちゃんのお家の前。中から若夫婦が子供(1才ちょっと)と出て来た。子供は父親に抱っこされている。ごくうは夫婦の間でウロウロ。奥さんが撫でる格好をする。
「ビビちゃんとおともだちです」
「あれっ、そうなの」
「ビビちゃんの友達かぁ」
父親は子供を抱えながら家に戻ろうとする。ごくうは彷徨くように去って行く。母親が見送っている。
ごくうは空き地の方向に向かって歩く、と思ったら、アパートの駐車場に侵入する。リードを引っ張り、「ごくう、ダメよ」諦めたごくうはそのまま道路沿いに進行。先ほど挨拶を交和していた夫婦の家の前。横目に、ごくうはまたいつもの散歩コースに帰っていた。
横断歩道を渡り、今度は坂を下って家に帰るコース。最近軒てられた家の前で、挨拶の声がする。若い夫婦が分かれの挨拶をしているようだ。父親が子供(1才くらいか)を抱いている。
ごくうが溝を覆うスレートを跨ぐように飛び、若夫婦の前で仁王立ち。若奥さんが「あらっ,可愛いね」と声かけるが、撫でには来ない。夫の方も見るだけだ。ごくうは諦めるのも早い。相手にしてもらえないと分かると、踵を返す。
団地の公園に帰ると、よく吠えるパピヨンに出会った。ごくうは吠えられても無言だ。飼い主が気を遣いながら別れていく。見るとお隣さんの娘さんがルナちゃんを夫婦で連れて帰っている。そういえば、散歩に出かけるときにはラナちゃんが家から出たところで会い、公園を一緒に横切ったのを思い出した。
ごくうが9才を向かえる年が始まった。